政府は、残業の抑制のために、割増賃金の割増率を引き上げる方針を決めたというニュース。
最初、「読売新聞」の記事を見たとき、びっくり! いま日本の割増率はたった25%。欧米では50%以上が当たり前なのに比べると、非常に低く、これが日本の長時間労働の原因とも言われています。割増率の引き上げは大賛成です。
ところがよくよく読むと、割増率引き上げが適用されるのは、月35時間以上(「朝日」は月30時間以上と報道)の残業についてのみだそうです。で、「朝日」によれば、9割近い企業は残業月30時間以内。ということは、実際に割増率40%が適用されるのは1割程度ということ。う〜む、なんだかなぁ…。
残業の抑制に「割増賃金」最低基準を引き上げへ(読売新聞)
残業代、引き上げへ 月30時間超のみ、少子化が後押し(朝日新聞)
残業の抑制に「割増賃金」最低基準を引き上げへ
[2006年6月10日14時41分 読売新聞]政府は10日、一定時間以上の残業に対する割増賃金の最低基準を引き上げる方針を固めた。現行の25%を40%程度にすることを検討している。
賃金の増加が残業の抑制につながり、労働条件の改善となることを狙っている。早ければ、来年の通常国会に労働基準法改正案を提出する考えだ。
同法は、「1日8時間または週40時間を超えた労働」を残業とし、通常勤務より少なくとも25%割り増しした賃金を支払うよう規定している。しかし、米国では50%の割増賃金を義務づけており、欧米より低い割増率については、「企業が安易に残業を命じる状況を招き、過労死がなくならない原因ともなっている」と見直しを求める声が出ている。
政府は同法改正で、一定時間までは25%の割増率を維持し、それを超える長時間残業には40%程度を適用する「2段階方式」を採用する考えだ。残業の合計が月35時間を超えたところから割増率を引き上げる案が浮上している。一定時間以上の残業をした労働者に、それに見合った休日を与えることを義務づける制度の創設も検討している。
政府は、この法改正が少子化対策の効果も持つと見込んでいる。残業が減れば、男性の育児参加の機会が増えることなどが期待できるからだ。6月中にまとめる新たな少子化対策にも、「長時間労働を抑制するための労働基準法の改正」を盛り込む方針だ。
ただ、経済界は「高い残業代を狙った必要のない残業がかえって増える恐れもある」と反発している。割増賃金を払わない、違法なサービス残業の増加につながるとする指摘も出ている。
残業代、引き上げへ 月30時間超のみ、少子化が後押し
[asahi.com 2006年06月11日17時24分]少子化対策で焦点となっている「働き方」を見直すため、厚生労働省は、時間外労働に上乗せされる賃金の割増率を引き上げる方針を固めた。長時間労働を是正し、仕事と子育てが両立できる環境整備を促す狙い。割増率を現行の最低25%から5割程度にする案を軸に検討している。ただし経済界の反発にも配慮し、対象は時間外労働が月30時間を超える場合に限る方向。残業代は段階的に上がることになりそうだ。
13日に開く労働法制見直しに関する審議会で示す中間報告素案に盛り込む。働き方の見直しとして素案はこのほか、時間外労働が40時間を超えたら1日、75時間超では2日の「健康確保の休日」を企業に義務づけ▽取得率が低い有給休暇について年5日程度は企業側の責任でとらせる――などを盛り込んだ。
労働基準法は、労働時間を原則1日8時間、週40時間と定めており、これを超えた場合、企業は通常の賃金に加えて割増賃金を払う必要がある。割増率は平日25%、休日35%で、欧米各国の50%前後に比べ低水準だ。長年の懸案だったが、国際競争力低下などを理由にした企業側の反対でこれまで据え置かれてきた。
しかし、最近の少子化で状況が変わった。女性が産む子どもの平均数を示す05年の合計特殊出生率が過去最低の1.25に低下するなど歯止めがかからないことから、政府・与党内に「従来の対策では流れを変えられない」との危機感が強まり、働き方の見直しが最重点の課題として浮上。厚労省も長時間労働の是正に本格的に乗り出す必要があると判断した。
残業が減れば仕事と育児が両立しやすくなると期待されており、6月中にもまとめる政府の少子化対策にも「長時間労働の是正等の働き方の見直し」が盛り込まれる方針だ。
一方、与党の公明党も少子化対策として割増率引き上げを提案している。平日は一律40%(休日は50%)とした同党案に対し、厚労省案は対象を残業時間が長いケースに絞ったため、効果が不十分との声が出る可能性もある。◇企業の9割「30時間以内」
同省が企業を対象に行った05年度の実態調査では、一般労働者の平均的な時間外労働は月15時間で、9割近い企業で「30時間以内」に収まっていた。実際には、サービス残業などで時間外労働にカウントされていない例も多くあるとみられ、同省案がどこまで長時間労働の是正につながるかは不透明だ。一方で、経済界には割増率引き上げそのものへの反対も根強く、調整は難航も予想される。
同審議会では同時に、一定以上の年収の人を労働時間規制から外す「自律的労働制度」の創設も提案されており、労働側には「割増率を上げても、適用除外がどんどん広がることになれば意味がない」との警戒も広がっている。
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〈キーワード:労働法制の見直し〉 パートや派遣社員が増え働き方が多様になる一方、労働組合に属さない人も増加し、解雇や有期契約などを巡る企業とのトラブルが急増。政府は労働法制の根本的な見直しを進めている。雇用契約の基本ルールを明確にするのが新たにつくる「労働契約法」で、採用から退職までの権利・義務を規定する。同時に、労働時間法制も一体的に見直す。来年の通常国会での立法や労働基準法改正を目指すが、規制強化を嫌う企業と、労働者保護を強めたい労組の間で対立点も多い。
しかも呆れるのは、「読売」にのった経済界の言い分。「高い残業代を狙った必要のない残業がかえって増える恐れもある」とは! 必要のない残業をさせないかどうかは、使用者側の責任。自分で労務管理ができないからといって、その責任を労働者に押しつけるとは…。また、現実には、残業しても残業代が支払われない「サービス残業」が問題になっている時代に、なんという言い分でしょう。
日本のように、日常的に残業しないと仕事が片づかないという状態が放置されている国は珍しい。本来、経営者は、それだけ必要な人員を配置する責任があるはず。ところが、残業代が安いため、新しい人員を雇うより、いまいる従業員に残業させた方が安くつく。だから、日本では、こんなに残業が野放しになるのです。違法行為である「サービス残業」は、この間、いろいろ問題になっていますが、ちゃんと残業代を出しさえすれば、いくらでも残業させていい、というのは、まったく逆立ちした議論です。
そのためには、月30時間以上なんていう制限を付けずに、残業代の割増率を50%に引き上げるべきです。