都心の公務員宿舎売却は、大手デベロッパーの自作自演

昨日の「東京新聞」こちら特報部が、今すすめられようとしている都心の国家公務員宿舎の売却問題を取り上げています。

そこに紹介されている「有識者会議」のメンバー。日本住宅ローン、三井不動産、三菱地所など大手デベロッパーが並んでいます。要するに、大手デベロッパーが自分で「売却すべし」との答申をまとめ、売却・再開発で自分たちが儲けよう、そんな魂胆があまりに見え透いています。

【有識者会議メンバー】

伊東 滋 早稲田大学特命教授(座長)
赤羽 貴 パートナー弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)
浅海泰司 東京大学空間情報科学センター副センター長、教授
大垣尚司 立命館大学教授、日本住宅ローン社長
佐藤 実 三井不動産常務取締役常務執行役員
長島俊夫 三菱地所代表取締役専務執行役員ビル事業本部長
目端康雄 慶應義塾大学大学院教授
(「東京新聞」2006年6月14日付から)

公務員宿舎売却 “デベ”の見た裏側 全部がおいしい/結局大手のもの(東京新聞)

公務員宿舎売却 “デベ”の見た裏側 全部がおいしい/結局大手のもの
[東京新聞 2006年6月14日]

 「一等地に格安で住んでいる」と悪評が高かった東京23区内にある国家公務員宿舎数を売却や建て替えで3分の1以下に減らすよう提言する有識者会議の報告書が13日、まとまった。売却総額は約5000億円。財政再建の一助とするのが目的だが、官製の“特需”で一番大喜びしているのは不動産業界の人たちでは? 都心の物件を扱うデベロッパーのオモイとは。 (坂本充孝、大村歩)

有識者メンバーに有力企業の役員ら

 「どの物件がおいしいかって全部だよ。特に青山(港区)、三宿第2(世田谷区)、東山(目黒区)あたりは格別だ。インフラ、アクセスが整い、町が熟成している。賃貸マンションを造っても借り手はいくらでもいるし、家賃も取れる。それなのに、このあたりでは売り物件がなくて買いたくても買えない。それで困っているんだからさ」
 都内のホテルで会ったA氏は立て板に水で話し続けた。A氏の名刺にある肩書は「不動産総合コンサルタント」。しかし本人は「デベロッパー」を略して「デベ」と自称する。
 不動産取引の裏側を熟知するプロの目から見て、今回の物件放出は「よだれが出そうだ」という。理由は何より土地の大部分が掛け値なしの一等地であることだ。
 例えば港区の青山通りに近い財務省の青山合同宿舎(南青山)。閑静な住宅地の中、745平方メートルの敷地に鉄筋3階建ての建物がゆったりと立ち、9世帯が入れる造りとなっている。一世帯あたりの専有面積は約90平方メートルで家賃は9万円前後。「世間の相場なら50万円は下らない。
 「あまりにも不公平」と、国家公務員宿舎の特権性に注目が集まるきっかけともなった因縁の物件だ。

■建て直しで価値2倍に

 A氏の評価では、この物件の価値は約百億円。しかし、建て直して高層化し容積率を上げれば、2倍近くの価値にふくれ上がるという。
 背景には都心地域の慢性的住宅不足があるという。
 「地方の家屋敷を売って、都心にマンションを買う人がたくさんいる。高額所得者がどんどん東京に集まってくる。この傾向は、しばらくは止まらないよ」
 だからといって、このおいしいビジネスに参加できるかどうかは別問題なのだという。
 「有識者会議のメンバーを見ればわかると思う。政府は大手デベロッパーが落札するのを望んでいる。その方が楽で安心だし、役人は、いずれそういう会社に天下るわけだからね。三流のデベを相手にしたらこけんにかかわるぐらいの感覚だろう」とあきらめ顔だ。
 確かに同会議には三井不動産、三菱地所の取締役が顔をそろえ、売却や建て替えなど“物件の格付け”を行った。
 「それにね」とA氏は付け加えた。「外資のハゲタカファンドと競合したら、私らでは絶対に太刀打ちできない。資金力、決済のスピードが違う。戦えるのは三井ぐらい。外資に持って行かれるぐらいなら、国内の大手にまとめてもらった方がまだましだ」
 では、この“官製特需”で不動産バブルの再現はあるのだろうか。A氏はこう分析する。

■バブルにはならない

 「不動産業界、建築業界などが活気づくのは間違いない。ただし、これを契機に不動産の価格全体が急上昇していくことはない。なぜなら今回放出される物件が、どれも価格通りの価値を持った本物だからだよ。『虚』ではなく『実』。以前の不動産バブルとは、ここが一番違うところだ」

公的な土地「再開発 環境考慮を」

 “海千山千”のA氏の思いとは別に、今回の国家公務員宿舎売却の動きを都市住民や、学識者はどうみるか。
 「建設・都市問題市民協議会」代表の根来冬二氏は「国有地ないし都などの公有地はもともと、住民間で大きな建物が建つとは想定していない場所。そこにもし、売却で多数のマンションが建つとなれば、周辺住民との建設トラブルは飛躍的に増えるのではないか」と推測する。
 根来氏が例として挙げるのは、目黒区の都立大学跡地。ここでは住民が地区協定を結び、15メートル以上の建築物が建設できないようにしていたが、地区協定からわずかに外れた跡地を都からマンション開発業者が買い取り、十数階建ての巨大マンションを建設。地域住民の猛反発を受け、訴訟にもなった。
 根来氏は「例えば世田谷区の財務省宿舎は老朽化したため、高く改築したいという話が以前からあったが、地域住民の反対があり実現しないまま、結局緑地の保護につながった。相手が行政ならば周辺住民の声も多少聴いてもらえるが、開発業者となるとそうはいかない。『土地を買った以上は採算を考える』というのが彼らの論理だ」と売却後のデベロッパーによる野放図な開発を警戒する。
 今回、有識者会議は宿舎跡地の有効活用について「街づくりの観点も踏まえ、国・関係地方公共団体が緊密な連携を図って推進できる体制の整備が重要」と報告書に盛り込んでいるが、実際に民間に売却後の近隣住民と、業者との調整についてはまだ不透明なままだ。
 根来氏は「国有地を売却するなら、どのような跡地利用が行われるかについて区など当該自治体が住民参加型の委員会をつくり、買い手の利用案を検討できる制度を考えるべきだ」とした上でこう指摘する。「世界主要都市と比べて圧倒的に貧困な公園率の東京を考えれば、本当に求められるのは公園や緑地への転用ではないか」
 不動産コンサルタント「東京プロパティアドバイザーズ」社長の渡辺完勇社長は「建ぺい率や容積率、緑地提供など周辺環境との兼ね合いを譲歩できるとか、防災センターなど地域住民が利用できる施設を併設するとか、ある程度公的な土地だったことを考慮した再開発ができる業者が求められるのでは」と強調する。
 一方、有識者会議の報告書取りまとめ手続き含め、長年、国が保有してきた“虎の子”の放出が「性急過ぎる」との声も上がっている。

「手放せばもう戻らない」「短絡的」と批判も

■借金返済焼け石に水

 早稲田大の佐々木葉教授(都市景観論)は「公務員が不当に安い料金で都心の一等地に住めることは問題だが、じゃあそれを売却してお金に換えましょうというのではあまりに短絡的。5000億円が国庫に入るといってもそれで国の借金返済にどれほど資するのか」と安易な売却話を批判する。

■公園へ転用ひとつの手

 佐々木氏によれば、売却候補となっている公務員宿舎は、経済効率を追求しなくてもよかったために、結果的に低層住宅が建設され、緑地帯も残っていた。国が当初意図したのではないにしても、周辺に対してプラスの影響を与えていたという。
 佐々木氏は「今後は、こうした国有地を、国民の財産またはパブリックスペースとしてどう生かすかを考えるべきであって、売却を決定してしまう前に、例えば病院や学校と連携した空間、公園への一部転用なども選択肢にあげて議論すべきではないか」と提言しながらこう訴える。
 「土地はすべて平方メートルいくらだけで金に換算され、公園に近いから土地を高く評価するといった価値基準は日本にはまだない。だが、都心の魅力は歴史的な建物であったり気持ちの良い公園といった民間企業では担保できない公的性格も含めてのもの。せっかく今ある国有地は手放せば二度と国民のものにはならないことをもっと真剣に考えなくては」

<デスクメモ> 小泉首相の肝いりでできた日本橋川に空を取り戻す会は、首都高の地下化を有力視し総事業費を4000億?5000億円と試算した。この会の委員長も伊藤特命教授だ。単純比較はできないが国有財産を売却して5000億円を得るという有識者会議の報告書に腕組みしてしまう。これも“一流”の小泉マジックなのか。(蒲)

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