北朝鮮ミサイル発射をめぐる国際社会の動き

北朝鮮のミサイル発射に対し、日本政府は、制裁発動にむけた国連安保理決議を早期にあげることを主張しています。

しかし中国、韓国、ロシアが反対。安保理議長国のフランスとイギリスが「まずは議長声明で」の態度を表明。頼みの綱のアメリカも、訪中しているヒル米国務次官補が、中国と米国は北朝鮮問題に関して「共通した目的」を持っている、と述べ、「中国が非常に苦心し、責任を極めて深刻に受け止めていることは明らかだ」と発言。

日本政府は、当初は、制裁に消極的な中国を孤立させる「あぶり出し作戦」だなどと言っていたようですが、気がついてみると、段階的な手続きを踏まず、いきなり国連憲章第7章のもとでの制裁をという日本の主張の方が、国際的に孤立しているのでは。大事なことは、国際社会が一致して北朝鮮に6カ国協議への復帰を迫ることだと思うのですが。

中国の外交努力に対する北朝鮮の反応は「思わしくない」=米国務次官補(ロイター)
北朝鮮ミサイル、英仏が2段階案提示/安保理 議長声明後に決議(日経新聞)

中国の外交努力に対する北朝鮮の反応は「思わしくない」=米国務次官補
[ロイター 7月12日16時59分更新]

 [北京 12日 ロイター] ヒル米国務次官補は12日、記者団に対して、北朝鮮のミサイル発射問題を受けた中国の外交努力に対する北朝鮮の反応は「思わしくない」との認識を示した。ただ中国の外交努力は今後も継続されるとも述べた。
 同次官補はまた、米政府と北朝鮮の2国間協議は選択肢になく、6カ国協議が唯一の協議の場、との考えを示した。
 北朝鮮が同国の核開発プログラムに関する6カ国協議の再開に「関心があるかどうかは依然として非常に不透明」で、「彼らが国際的な孤立を望むのなら、まさにその通りになるだろう。われわれは2国間のプロセスに転換するつもりはない」と語った。
 さらに同次官補は、中国と米国は北朝鮮問題に関して「共通した目的」を持っている、と述べた上で、「中国が非常に苦心し、責任を極めて深刻に受け止めていることは明らかだ。北朝鮮が6カ国協議に同様の重要性を置いている兆候はない」と付け加えた。

北朝鮮ミサイル、英仏が2段階案提示/安保理 議長声明後に決議
[日経新聞 2006/07/12夕刊]

 北朝鮮の弾道ミサイル発射問題への国連安全保障理事会の対応で、英仏両国は11日、制裁決議採択を求める日米と難色を示す中国との折衷案として「まず拘束力の弱い議長声明を、次に決議を採択する」2段階案を提示した。日本政府はなお決議採択を目指すが、中国が北朝鮮に自制を求める外交工作を続ける中、落としどころを探る動きが本格化してきた。北京滞在中のヒル米国務次官補は12日午前、李肇星・中国外相と会談、北朝鮮説得の状況を巡り意見交換した。

 【ニューヨーク=中前博之】「二段階」案は安保理議長国のフランスが唱え、英国が同調した。(1)中国が10日に示した議長声明案をもとに、北朝鮮への圧力を強めた「議長声明」を採択する(2)北朝鮮が従わない場合、日米英仏を含む8カ国が共同提案した「決議案」を再び協議する――という内容。決議案採決を強行すれば、北朝鮮の態度硬化や中国の北朝鮮説得への悪影響を招きかねないと判断し、日米・中の両陣営の妥協を促す狙いがある。

北朝鮮にたいする中国の態度について、「読売新聞」が一面で大きく報道したこの記事。これは、なかなか異例の厳しい批判。中国としても、決して北朝鮮のミサイル発射にたいし「まあまあ」と許すつもりがないことを内外に明確にしたかっこうです。

中国主席が北に異例の説得、ミサイル発射停止求める(読売新聞)

中国主席が北に異例の説得、ミサイル発射停止求める
[2006年7月12日1時48分 読売新聞]

 【北京=末続哲也】北朝鮮のミサイル発射問題に関し、中国の胡錦濤・国家主席は11日、北京を訪れた北朝鮮の楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ)・最高人民会議常任副委員長と会談し、ミサイル発射の停止や、6か国協議の早期再開に応じるよう自ら説得に乗り出した。
 米国のクリストファー・ヒル国務次官補も同日、中国側との再協議のため北京入りし、国連安全保障理事会での対北朝鮮制裁決議案をめぐる外交工作は、15日からの主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)をにらんで大きな山場を迎えた。
 制裁決議案については、日米が10日、「武大偉・中国外務次官の訪朝結果を見守る」として採決先送りを表明した。中国政府は決議案阻止に向け週内に何らかの具体的成果を示す必要に迫られている。
 胡主席の異例の説得は、中国側の強い危機感を反映したものだ。新華社電によると、胡主席は楊副委員長に、「朝鮮半島情勢に新しい複雑な要因が現れた」と指摘し、ミサイル発射に「重大な懸念」を表明。その上で、「半島情勢を緊張させるいかなる行動にも反対する」と述べ、ミサイル発射の継続に言及する北朝鮮を強くけん制。さらに、「関係各国とともに努力し、6か国協議を進展させたい」と述べて、北朝鮮に協議復帰を迫った。
 これに対し、楊副委員長は、「朝鮮半島や地域の平和と安全を守るため、努力する」と述べるにとどまった。中国外務省の姜瑜・副報道局長は11日の定例会見で、「中国側の1、2回の訪問や努力で、問題がすべて解決することはない」と語り、中国側の説得工作が難航していることを示唆した。
 中国は北朝鮮から、6か国協議の非公式協議開催への合意を引き出そうとしていると見られる。10日に平壌入りした武次官は、北朝鮮の同協議首席代表の金桂寛・外務次官らと会談し、さらに11日も説得を続けている。11日は中朝友好協力相互援助条約の締結から45周年に当たり、中朝間で代表団が相互訪問中だったことから、平壌と北京で中朝の協議が同時に進行することになった。
 一方、ヒル次官補は11日、北京で報道陣に、中国の外交努力に関し、「決定的な時期を迎えている」と語った。ヒル次官補は同日夜、中国外務省の首脳と会い、中朝間の協議の進展状況をただした模様だ。

ライス国務長官、中国訪朝団の北説得に期待表明(読売新聞)

ライス国務長官、中国訪朝団の北説得に期待表明
[2006年7月11日22時43分 読売新聞]

 【ワシントン=坂元隆】ライス米国務長官は10日、当地で記者団に対し、「北朝鮮が中国の説得に応じ、6か国協議を再開すると判断するか見守りたい」と述べ、中国の訪朝団の外交努力に期待する方針を示した。
 また、スノー大統領報道官は同日、中国の北朝鮮への説得が成功すれば、「決議案は必要でなくなる」と述べた。
 米政府高官の一連の発言は、ブッシュ政権が安保理での決議案採択より、北朝鮮を6か国協議に引き戻すことを優先課題としていることを示唆している。
 決議案の行方について、北朝鮮との直接交渉を中国に事実上、一任しているのも、6か国協議の枠組みを壊したくないとの配慮からと見られている。
 一方、米国務省当局者は10日、米政府が、ミサイルを発射した北朝鮮に対して、独自の経済制裁の実施を検討していることを明らかにした。
 ただ、現在の米朝間の経済活動は米側の強い締め付け措置もあって極めて低調で、米国が仮に独自制裁を導入しても「象徴的なもの」になるという。

これが、日本政府の「あぶり出し戦術」について解説した朝日新聞の記事。紙面では、「抵抗勢力あぶり出す『郵政戦術』」などという見出しもついていましたが、いまになってみれば、いかに見当違いだったかは明白。こんな記事を1面ででかでかと報道した朝日新聞の見識も問われる結果ではないでしょうか?

北朝鮮制裁案 官邸強気、中ロ牽制、欠席・棄権狙う(朝日新聞)

北朝鮮制裁案 官邸強気、中ロ牽制、欠席・棄権狙う
[asahi.com 2006年07月08日22時38分]

 北朝鮮のミサイル発射問題で、中ロが反対する制裁決議案提出を日本が主導したのは、首相官邸の強い意向からだ。「北朝鮮の仲間だから、反対するのか」(政府高官)とあぶり出す戦術は、郵政民営化法案の反対組を「抵抗勢力」とみなした手法に似る。国連安保理の採決で中ロが拒否権を行使しないよう牽制(けんせい)し、欠席か棄権に追い込みたい考えだ。
 「普段のバランス感覚と気配りにあふれた日本の代表団とは、とても思えない行動だ」
 国連本部の廊下やラウンジでは、しゃにむに決議採択へ突き進む日本の姿に驚きの声が繰り返し交わされた。日本の国連外交筋は「こちらの事情がどうあれ、今回は官邸の判断だ」と明かした。
 ミサイル発射翌日の6日。小泉首相は記者団に言った。「中国だって、ロシアだって、北朝鮮がどんどんミサイルを発射してもいいですよ、とは言えないでしょう」
 安倍官房長官の強硬姿勢も際立つ。7日の会合で「間違っても北朝鮮の挑戦的な行為に、何かシンパシー(共感)をもっているという誤解を受けることがあってはならない」と言い切った。
 98年に北朝鮮がテポドン1を発射しても、安保理は報道向け声明を出しただけ。北朝鮮はミサイルや核の開発を続けた。麻生外相は8日、大阪市での講演で語った。「相手は増長した。過去から学ばずに何を学ぶのか」
 小泉政権の強硬姿勢は国内世論にらみの面もある。9月の自民党総裁選を控え、自民党内からは「この局面では北朝鮮や中国に毅然(きぜん)とした態度を示すことが大事」(中堅議員)という声がある。
 もちろん、それなりの勝算もあるようだ。北朝鮮に気をつかう中ロ両国だが、国際社会の警告を無視した国を擁護し続けるのは難しいはず――。そんな計算だ。
 中国は北朝鮮の核問題をめぐる6者協議の議長国。ロシアは自国で初開催の主要国首脳会議(G8サミット)を1週間後に控える。「中国も何とかしなければ、と思い議長声明案を出してきた。ロシアはG8諸国の中での突出を避けるはずだ」と政府高官は読む。
 ロシアを説得できれば中国は単独で拒否権を行使しない、という見方も政府内にある。麻生外相は7日夜、ロシアのラブロフ外相に電話で「ミサイルはナホトカ沖合に着弾している。安全保障上の重大な問題だ」と呼びかけた。G8メンバーの独、伊両国の外相に協力を求めたのも、ロシア揺さぶりが狙いだ。
 とはいえ、中ロがそろって賛成に転じるとは考えにくい。どちらかが拒否権を使えば、決議案は廃案だ。そこで政府が狙うのは、両国に欠席か棄権してもらい、決議案を通すこと。麻生外相は8日の講演で「いろんな国に『欠席してくれ』と(言っている)」と明かし、戦術を認めた。

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