米報道官が、中ロの決議案について「目標は共有」と発言。中国訪問中のヒル国務次官補は、中国の働きかけを「懸命に取り組んでいる」と評価するなど、北朝鮮のミサイル発射に対する国連決議をめぐって、米日の思惑の違いが浮き彫りになってきたようです。
「目標は共有」 中ロ非難決議案で米報道官(朝日新聞)
北朝鮮の「6か国」復帰、中国の説得難航(読売新聞)
北朝鮮安保理決議案 かわされた早期採決(朝日新聞)
「目標は共有」 中ロ非難決議案で米報道官
[asahi.com 2006年07月13日15時21分]米国務省のマコーマック報道官は12日の会見で、中国とロシアによる北朝鮮非難決議案について「各国それぞれの考えはあるが、目標は共有している」と述べた。中ロ両国の対応もにらみながら、日米が提案している制裁決議案の文言調整に柔軟な姿勢でのぞむ構えを示唆したものだ。ただ「動きの中心は(北東アジア)地域にある」として、採決に進む段階ではないとの考えも示した。
北朝鮮の「6か国」復帰、中国の説得難航
[2006年7月12日22時11分 読売新聞]【北京=末続哲也】北朝鮮のミサイル発射問題に関し協議するため、中国を訪問中の米国のクリストファー・ヒル国務次官補は12日、北京で中国の李肇星外相らと会談後、報道陣に対し、「北朝鮮は(6か国協議復帰を促す中国の外交努力に)前向きには応じていない」と述べ、中国の説得工作が難航していることを明らかにした。
北朝鮮が6か国協議への復帰やミサイル発射問題などに柔軟姿勢を見せていないことが明らかになったことで、今後も中国が説得の成果を示せない場合、決議案採択を求める声が強まるのは必至だ。
ヒル次官補は、北朝鮮の姿勢に関し、変化が「全く見られない」とし、「北朝鮮は深い孤立の道に突き進んでいるように見える」と、失望感を示した。
一方で、中国の対北説得工作については、「懸命に取り組んでいる」と語り、引き続き中国の外交努力による事態の推移を見守る姿勢を示した。また、中国の説得工作に関し、明確な期限は示さなかった。
さらに、北朝鮮にミサイル発射停止や6か国協議への復帰を説得するため、「(中国と)明確で説得力を持つメッセージを北朝鮮に送り、6か国協議を機能させることで一致した」と語った。
ヒル次官補は12日、李外相らと会談後、日韓露の各国駐中国大使に、協議結果を説明。13日に帰国の途につく予定。
北朝鮮安保理決議案 かわされた早期採決
[asahi.com 2006年07月12日09時11分]北朝鮮のミサイル発射問題で、国連安全保障理事会は、日本などが提出した制裁決議案の採決をいったん先送りにした。「早期採決を」との日本の当初の意気込みとは裏腹に、米国は動き始めた中朝交渉の結果を待つ道を選び、立場の違う日中両国をテコに北朝鮮への圧力を強めたいとの考えをにじませた。理事国の間では、制裁に反対する中国、ロシアとの対立が決定的になるのを防ぎたいとの思惑も働く。ミサイル発射から1週間。北朝鮮への「国際社会の結束した強いメッセージ」はまだ見えない。
■米、中国の成果待ち
「中国が何日間か時間の猶予が欲しいと言っている」。帰宅途中の安倍官房長官の携帯にハドリー米大統領補佐官から突然、電話が入った。10日午後10時半ごろ。制裁決議の採決は目前だった。
この少し前、ブッシュ大統領やライス国務長官らが出席したホワイトハウスでの会議で、中国と北朝鮮との交渉を見守るため、採決を数日間延期する方針が決まったという。ハドリー氏の電話は、日本政府に同調を求める内容だった。
安倍氏は自宅に戻り、麻生外相や外務省幹部と電話協議。約1時間半後、走り書きのメモを手に採決延期の方針を記者団に伝えた。
直前まで日本政府内は「そのまま突っ込む。時間をかければいいというもんじゃない」(政府関係者)と主戦論が主流だった。安倍氏も10日午前の記者会見で「安保理決議と中朝交渉は、基本的にかかわりがない」と明言していた。
外務省幹部は「やっぱり、米国に『採決延期したい』と言われると仕方ないんだよね」。米国の意向には逆らえない日本の立場をにじませる。
今回の事態で日本側は「日米蜜月」を強調してきた。北朝鮮がミサイルを発射した当日早朝にシーファー駐日大使が首相官邸に駆けつけ、安倍氏は6日の講演で「あらかじめの打ち合わせ通りだった」と自ら披露した。
だが、日米の溝は当初からかいま見えていた。
制裁論に傾きがちな日本に比べ、米政府は多国間の枠組みによる外交的解決を訴えてきた。北朝鮮を対話の場に引きずり出す狙いがあった。
特に重視したのは中国の働きだ。「中国は北朝鮮に対し、我々残りの国が持たないような影響力を持っている」(バーンズ国務次官)。燃料供給や貿易などで中国は北朝鮮にとって欠くことのできない存在。中国が本気で動くのかどうか、米政府は見極めに努めた。
今後の展開でも、日米間で思惑の差がのぞく。
国務省のマコーマック報道官は10日の会見で「我々が求めるのは、北朝鮮の行動の変化を引き出すことだ」と強調。決議採択より実質的な成果を求める考えを示した。
一方、日本政府には、仮に北朝鮮が「ミサイル発射凍結」や「6者協議復帰」などの条件に応じても、その実行をどう担保するかという点への懸念が強い。
さらに日本側は、中朝合意を手放しでは喜べない事情も抱えている。
安倍氏は10日の衆院拉致問題特別委員会で「制裁の理由はミサイルだけでなく、拉致問題であることははっきり申し上げておきたい」と述べ、万景峰号の入港禁止措置などの制裁措置の理由には拉致問題も含むという考えを明言した。制裁案をつくった官僚たちはミサイル問題のみを想定していたが、安倍氏主導で拉致問題も組み込まれた。
仮に中朝が合意して「制裁不要論」が国際社会で広がれば、ミサイルと拉致を抱き合わせた日本政府の制裁論議は、国際社会のなかで宙に浮く危険もはらんでいる。■決裂嫌った常任理事国
「たとえミサイルが違う方向に飛んでいても、中国政府は理性的に対処しただろう」
採決先送りを表明した10日の会合後、「ミサイルが別の方向に飛んでいたら、中国政府はどんな対応をしただろうか」と悔しさをにじませた日本の大島賢三・国連大使の発言に、中国の王光亜・国連大使が反論してみせた。先送りで、中国側は時間的な余裕を得た。日本政府からは「この間に中国は安保理で多数派工作をするのではないか」(政府高官)と不安視する声も出る。
ミサイル発射を受けて、安保理は「迅速に強いメッセージを出す」ことで一致した。制裁決議案には、安保理15カ国のうち8カ国が共同提案国になった。採択に必要なのは9票だが、正面から反対したのは中ロ両国だけだった。
それでも採決に踏み切れないのは、決議案の共同提案国も、中ロとの関係をどう維持するかという点では、決して一枚岩ではないからだ。
日米両国が当初決議案で中国への圧力を強めたのに対し、英仏両国は「安保理事会が分裂するのは好ましくない」と中ロに気を使っている。中国が出した議長声明案の文面を強めることで妥協が図れないか、日本の大島大使と協議した。ジョーンズパリー英国大使は10日、「今の文面ではだめだが、今後、採択できないと言うわけでもない」と含みをもたせた。
常任理事国の間には、対立しながらも大国同士の独特の連帯感がある。
決議支持の非常任理事国にも「全員一致の議長声明の方が、分裂した決議より強力なメッセージだ」(アフリカの国連大使)という意見もある。多くの国は制裁決議を採択した場合、イランの核問題など今後への影響を計算する。そんな警戒心をあおるように、ロシアのチュルキン国連大使は「国際法違反ではないのに制裁決議とは厳しすぎる」と語った。
◇
【北朝鮮のミサイル発射後の主な動き】
5日 北朝鮮がミサイル7発を発射
日本が万景峰号の入港禁止など9項目の制裁措置を決定
国連安保理が緊急会合。日本は制裁決議草案を提示
6日 北朝鮮がミサイル発射を認める
中国が独自の議長声明案を日本などに示す
日米、米中首脳がそれぞれ電話協議
7日 日本が制裁決議草案を一部修正し、決議案として8カ国で共同提案
ヒル国務次官補が訪中
佐々江賢一郎外務省アジア大洋州局長が武大偉外務次官と協議
8日 麻生外相「日本は譲らない。最後まで突っ張る」
ヒル国務次官補が韓国訪問
9日 麻生外相が中国の李肇星外相と電話会談
10日午前予定の決議案採択が同日午後に延期されることに
ヒル国務次官補が来日
10日 中国の武外務次官が訪朝。交渉を見守るため、決議案採択は当面先送りに
中国が国連安保理に議長声明案を正式提示
11日 ヒル国務次官補、再び北京へ
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