敵基地攻撃論にかんする地方紙の社説

敵基地攻撃能力 「専守防衛」が大原則だ(中国新聞 7/12)
専守防衛の信を損なう(中日新聞 7/12)
敵基地攻撃・「専守防衛」との整合性は(琉球新報 7/11)
[敵基地攻撃能力]攻める自衛隊にするのか(沖縄タイムス 7/11)

北海道新聞は、敵基地攻撃論にたいしてではないが、6日の段階で、社説の中で「軍事力でなく外交で」の解決を求めている。

北朝鮮ミサイル発射*危険な挑発は許されない(北海道新聞 7/6)

敵基地攻撃能力 「専守防衛」が大原則だ
[中国新聞 2006/7/12]

 北朝鮮の弾道ミサイル連続発射を受け、自衛隊に外国のミサイル基地への攻撃能力を持たせるべきだとの意見が政府・自民党内で急浮上した。北朝鮮を対話の場に戻そうと国際社会挙げて、ギリギリの外交努力をしているさなかである。自衛力増強論は周辺国の反発を呼び、配慮に欠ける。
 いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有論で、端的に言えば、ミサイルが飛んでくる前に相手の発射基地などを攻撃する能力・装備を持つことである。
 口火を切ったのは、額賀福志郎防衛庁長官。国連安保理での北朝鮮制裁決議案の採決時期が取りざたされていた九日、「国民を守るため必要なら、独立国として限定的な攻撃能力を持つことは当然」と語り、憲法の範囲内で検討すべきだとの考えを表明した。
 先のミサイル連射で、日本を射程に収める中距離の「ノドン」の性能アップが判明し、額賀長官が議論を促したとの見方もある。
 それに呼応するかのように、麻生太郎外相、安倍晋三官房長官、武部勤自民党幹事長らがニュアンスの違いこそあれ、研究の必要性を強調した。あまりにも唐突で、北朝鮮脅威論に便乗した、と指摘されても仕方ない。
 早速、韓国青瓦台(大統領府)の報道官が「韓(朝鮮)半島に対する先制攻撃の可能性と武力行使の正当性を取り上げ、日本の侵略主義的傾向を示した」と批判した。
 何よりも敵基地攻撃は、日本の大原則である「専守防衛」を揺るがしかねない問題である。小泉純一郎首相が「理論的に検討するのはいい」としながら「憲法上の問題もある」とコメントしたのは当然だ。検討すること自体、国民の理解抜きには無理な事柄だろう。
 敵基地攻撃能力の議論は今に始まった訳ではない。一九五六年に鳩山一郎内閣が「攻撃を防御するのにほかに手段がないと認められる限り、法理的に自衛の範囲」との見解を示して以来、政府は憲法上可能との考えを踏襲してきた。二〇〇四年に中期防衛力整備計画を策定した際にも持ち上がったが、公明党などの反発を受け、断念した経緯もある。
 それが、突如としての議論再燃である。北朝鮮への対抗策は、本当に防衛力増強しかないのか。今大切なのは、韓国や中国との関係改善を含め国際社会と連帯し、北朝鮮との対話を実現することだ。ミサイル防衛計画の前倒しも、本質的な解決にはつながらない。

専守防衛の信を損なう
[中日新聞 2006/7/12付]

 日本を標的としたミサイルの発射など重大な脅威が切迫する事態に備え、敵基地に対する攻撃能力を保有すべきだという議論が再燃した。専守防衛の範囲見直しをめぐり、誤解を招きかねない。

敵基地攻撃論

 敵基地攻撃論は、発射目前のミサイルなど緊急、深刻な脅威を排除するための防衛政策の一環として、政府、与党の一部に浮上した。額賀福志郎防衛庁長官が「国民を守るために必要ならば、独立国家として、一定の枠組みの中で最低限のものを持つという考え方は当然だ」と述べたのが端緒だ。
 一九五六年に鳩山一郎首相が「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」と答弁したように、法理論としては“防衛のための攻撃”が許される事態があるのかもしれない。
 一方、日本が長距離攻撃能力を保有すれば、周辺や域内の各国は潜在的な危険と受け止める恐れがある。ひとたび攻撃能力が備われば、政治の意思次第で、行動範囲が広がるかもしれない。その不安も、理論的には生じるからだ。
 既に韓国大統領府の報道官は、日本国内で敵基地攻撃論が浮上したことについて「日本の侵略主義的な傾向が現れた」と警戒感を示した。議論の真意に誤解があるとしても、北朝鮮のミサイル発射問題で各国との協調を追求する敏感な局面で、敵基地攻撃論は外交上、有害な副作用までもたらしつつある。
 日米安全保障関係の上でも、疑問がある。昨年十月、日米安全保障協議委員会(2プラス2)が「未来のための変革と再編」と題してまとめた文書は、有事に米軍が来援する戦略や、米国の打撃力によって脅威を抑止する戦略を再確認した。
 敵基地攻撃能力を保有しようという日本国内の議論は、米国では、現行の安保体制を信用していない表れと疑われる恐れがある。日米間の信頼関係が傷つけば、喜ぶのは、脅威をもたらしている国の方だろう。
 費用や技術の面でも、問題は大きい。敵基地を爆撃する作戦では、対空砲火を避けるため、レーダー妨害能力を備えた航空機などによる支援が軍事常識であり、爆撃機さえ整備すれば敵基地を攻撃できるわけではない。空中給油、緊急救難などの体制も必要になる。巡航ミサイルは米国にとって最先端の軍事技術であり、供与を期待できる保証はない。
 長距離攻撃体制を整備すれば、域内の軍拡競争の引き金になる恐れもある。日米安保体制の機能発揮を心がける方が、日本の安全と平和に有益で現実的な考え方だ。

敵基地攻撃・「専守防衛」との整合性は
[琉球新報 掲載日時 2006-7-11 9:43:00]

 北朝鮮のミサイル連続発射をめぐる問題はますますきな臭くなり、緊張感が高まっている。国連安保理の動きとは別に、額賀福志郎防衛庁長官、麻生太郎外務大臣が敵基地攻撃能力を備えることについて、相次いで言及した。
 これは北朝鮮脅威論に便乗した防衛強化論だ。
 国連安保理で、国際社会の結束で北朝鮮の“暴走”を止めようと外交交渉しているさなかに、「目には目を」「歯には歯を」では、まとまる話もまとまらないのではと、懸念する。
 敵基地攻撃といえば、アメリカがアフガニスタン、イラクへ先制の攻撃を浴びせ、戦争に突入したのが想起される。両国では多くの兵士、国民が犠牲になり、出口の見えない戦闘がまだ続いている。先制攻撃が問題の解決に結び付かないことを示している。それどころか事態を悪化させている。
 敵基地攻撃は、日本の防衛原則である専守防衛との整合性が問われ、周辺諸国を刺激し、逆に安全保障情勢に影響を与えるのは必至だ。憲法にも触れる恐れのある大きな問題だ。
 この敵地攻撃能力についての議論は何も今に始まったものではない。2004年には、防衛庁の「防衛力の在り方検討会議」が今後の防衛力整備に向けてまとめた最終報告で、他国の弾道ミサイル発射基地などを攻撃する「対地攻撃能力」保有の必要性を明記、地対地ミサイル導入など具体的な装備構想を盛り込んだ。
 その構想を防衛庁長官、外相が北朝鮮ミサイル脅威を背景に、再び提起したことになる。
 額賀長官は、憲法の範囲内で可能な装備と限定して、麻生外相は自衛権行使の範囲内でと、断りながらも必要性を強調した。
 これまで政府は、敵基地攻撃能力保有は憲法上可能としながらも、日本への発射準備が明確な場合の対応について、「打撃力は米国が行使するとガイドライン(日米防衛協力のための指針)でも定められており、抑止力は確保されている」と強調してきた。
 北朝鮮のミサイル脅威に敵基地攻撃能力保有の軍事力でしか対応できないのだろうか。日本としては、まずは韓国、中国など近隣諸国と連帯して北朝鮮に働き掛け、そして連携して国際社会に訴えていくのが筋だと思う。
 ところが韓国、中国とは小泉外交のつまずきで、首脳会談さえ開けない状況にあり、連携できる状況にはない。これまでの国連論議では、中国、韓国とも日本とは対応が異なる。
 いわば小泉外交のツケが、国連の舞台で見解の相違として示され、敵基地攻撃能力論争を巻き起こしたともいえるだろう。

[敵基地攻撃能力]攻める自衛隊にするのか
[沖縄タイムス 2006年7月11日朝刊]

 額賀福志郎防衛庁長官が北朝鮮のミサイル連続発射に関連して、北朝鮮のミサイル発射基地などへの攻撃可能な装備を憲法の範囲内で検討すべきとの考えを示した。
 麻生太郎外相も「(核が)ミサイルにくっついて日本に向けられているのであれば、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」とNHKの報道番組で述べている。
 発言が理解できないわけではない。ただ現職閣僚が、相手の挑発に乗って国の根幹である「専守防衛」という平和憲法の理念にかかわる重要な問題を軽々に発言していいものか。
 額賀長官、麻生外相の言う「敵基地攻撃能力」の装備は憲法の範囲内でと断っているものの、日本を守るための自衛隊から敵基地を「攻める自衛隊」へと脱皮を促す発言と言える。
 憲法第九条は「交戦権の放棄」をうたっており、両閣僚の言う「自衛権の範囲」とは大きな矛盾をはらむ。
 政府はいま、米国などとともに北朝鮮の行為を国連安全保障理事会に諮り、制裁決議を求めようとしている。
 であれば“売り言葉に買い言葉”のような短絡的反応はやめ、あくまでも国連や六カ国協議における国際ルールの枠内で日朝問題の解決を目指すべきだろう。
 小泉純一郎首相が戦後の歴代首相の中で初めて訪朝したのは二〇〇二年九月。二度目は〇四年五月のことだ。
 電撃的な首相訪朝だったが、暗礁に乗り上げたままであった国交正常化交渉に道筋を開いた意義は大きい。
 ただ、日本側が求める拉致問題の解決について誠意ある対応はまだない。また今回の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」などの発射が「平壌宣言」に違反しているのも確かだ。
 しかし、だからといって日朝間に横たわる諸問題協議の基礎となる平壌宣言を白紙に戻してはならず、将来的にも交渉の足場として生かすことが重要なのは言うまでもない。
 懸念されるのは、ミサイルの脅威で国内世論が防衛強化に傾きつつあることだ。しかも額賀長官が言うように敵基地攻撃能力を持った場合、それが中国やロシアを刺激し、ひいては北東アジアでの軍拡競争を招く恐れがある。
 政府の取り組みが中国、ロシアなど国際社会の協力を得て北朝鮮の瀬戸際外交に歯止めをかけることであれば、逆効果であり元も子もなくなろう。
 北朝鮮の愚行に対し毅然と対応するのは当然だが、挑発に乗っては相手の思う壺にはまるだけだ。新たな軍拡競争の扉を開けてはならず、今こそ冷静な判断が求められる時だと言えよう。

北朝鮮ミサイル発射*危険な挑発は許されない
[北海道新聞 2006年7月6日]

 国際社会が強く自制を求め、新たな経済制裁を示唆していたにもかかわらず、北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2」などを発射した。
 ミサイルはロシア沿海地方南方の日本海に着弾した。漁民や船舶に具体的な被害はなかったようだが、これは北東アジア全体の平和と安全を脅かす極めて危険な挑発行為である。
 弾道ミサイルを日本海に向かって次々と発射するという暴挙は、許されるものではない。
 北朝鮮は、このような行為が国際的な孤立を深めるだけだと認識すべきである。政府は国際社会に働きかけ、挑発に乗ることなく、冷静に平和解決を目指してほしい。

*六カ国協議崩壊の恐れ

 ミサイル発射が、米朝ミサイル凍結合意(一九九九年)と日朝平壌宣言(二○○二年)、六カ国協議共同声明(昨年九月)に対する重大な違反であることは明らかだ。
 これにより、北朝鮮の核開発問題を協議する六カ国協議の枠組みが、空中分解する恐れがでてきた。
 日本は、国連安全保障理事会の緊急協議で、非難決議の採択を目指す。米国と共同歩調を取り、北朝鮮に同情的な中国やロシアと水面下の協議を続ける。
 北朝鮮に融和政策をとる韓国の積極的な関与にも期待したい。
 このような危機に際し、国際社会の総意をどうまとめるか、日米同盟関係と、日本外交の質が今こそ問われているといえよう。
 それにしてもなぜ、北朝鮮が従来の「瀬戸際作戦」をエスカレートさせたのか。国際社会が独裁的な金正日体制の存続を容認し、関係国が経済支援をしようとしているのにである。
 ミサイルを発射することで朝鮮半島に世界の目をひきつけ、韓国と強硬姿勢の米国を分断する狙いがあるとみられている。
 北朝鮮は、六月に米国の六カ国協議の首席代表・ヒル国務次官補を平壌に招待したいと発表したが、米国は「六カ国協議の枠組みでのみ交渉する」と拒否している。
 米国が断固として二国間協議に応じないことに、北朝鮮は一段といら立ちを募らせたのは間違いない。
 その一方で、イラクの戦後処理で泥沼に陥り、米兵の死者が二千五百人を超えた米国が、北朝鮮に軍事介入できるはずがない、ということを北朝鮮は見透かしている。
 同じ核開発を進めるイランに対しては、米国は五月末、濃縮活動停止を条件に、直接対話の用意があると表明した。このため、北朝鮮にとっては「二重基準」に映る。だとしても、北朝鮮は国際社会の声に真剣に耳を傾けるべきだろう。

*軍事力ではなく外交で

 政府は、北京ルートを通じ北朝鮮に厳重抗議し、貨客船「万景峰92」の入港を禁止した。さらに送金停止、貿易規制の経済制裁の検討に入った。
 日朝の政府間協議は二月に開かれて以来、全く進展がない。北朝鮮が、拉致問題を「解決済み」とする立場を崩さないうえ、日本が米国と歩調を合わせて北朝鮮に強硬姿勢を見せていることにも反発しているためだ。
 一方、日本では、拉致被害者の横田めぐみさんの夫とされる金英男さんと母親を再会させ、金さんに北朝鮮の主張に沿った記者会見をさせたことに強い批判が出ている。
 心配なのは、対話の回路が閉ざされたまま、ミサイル発射によって両国間の緊張が一挙に高まることだ。
 国内で北朝鮮脅威論が強まれば、打開はさらに難しくなる。
 日本は米国と共同でミサイル防衛の開発に着手しているが、今、必要なのは軍事的一体化を進めて北朝鮮に対抗することではなく、外交努力によって解決を目指すことだろう。
 このようなときこそ、冷静で自制的な対応が求められる。

*「対話の道」閉ざさずに

 北朝鮮のミサイル発射問題は、国連安全保障理事会で協議され、さらに十五日から開かれる主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)の主要議題となる。
 金正日体制を援助している中国は、経済制裁には消極的と伝えられる。
 中国は特使を北朝鮮に派遣し、六カ国協議の場に戻るよう説得する可能性があるが、話し合いによる解決を図るため、主導権を発揮してもらいたい。
 ただ、懸念されるのは、国連安全保障理事会やサミットで核開発とミサイル問題が取り上げられれば、日朝間の最大のトゲである拉致問題がかすむ恐れがあることだ。
 これまでの六カ国協議でも、北朝鮮が危機を演出し、実利を得るという同じことが繰り返されてきたことを忘れてはならない。
 政府は国家的犯罪である拉致問題とミサイル問題を切り離し、毅然(きぜん)とした態度を貫いてほしい。
 米独立記念日やスペースシャトルの打ち上げにタイミングを合わせたような北朝鮮の挑発行為は、軍事、外交両面で危険である。
 政府が北朝鮮に対し、経済制裁などの「圧力」を強めるのは当然としても、制裁の効果を見極めつつ、「対話」の道筋を閉ざしてはならない。

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