靖国神社の自己矛盾

産経新聞が、見開き2ページで「靖国神社」について異例の特集。内容はさておき、1面の記事紹介では、「分祀強要は宗教弾圧だ」という湯澤貞・前宮司の言葉がクローズアップされている。

しかし、特集を開いてみると、「戦後、靖国神社に参拝した天皇、皇族と首相」、「厚生省 協力指示」、A級戦犯合祀にさいしても「宮内庁にも上奏簿提出」など、国との“協力関係”が強調されている。

僕は、政治が介入してA級戦犯の「分祀」を強行したところで、靖国問題は解決しないと思うし、靖国神社の政治への結びつきも、政治の靖国神社への介入も、どちらも政教分離の憲法原則に違反すると思う。だけれども、自分たちは国との特別な関係を強調しておきながら、他方で、政治の側から靖国神社のあり方が論じられるのを「宗教弾圧」というのは、あまりに身勝手。矛盾した主張と言わざるをえない。政治の介入を拒絶したいのなら、政治との結びつきを利用してきた戦後の歴史をまず自己清算すべきだと思う。

他方で、靖国神社が、非宗教法人化する場合の条件として、<1>靖国神社の名称を存続させること、<2>鳥居、社殿などの施設を保持すること、<3>「英霊」の合祀など儀式行事を保持すること、の3つを確認していたというニュース。「靖国神社」という名前のままで、鳥居、社殿もそのまま、神道儀式もそのままで、国営の神社にしようというとんでもないもの。「宗教色が強く残る」などというものでなく、国家神道の復活そのもの。時代錯誤に、呆れてものが言えない。

靖国神社:名称、施設、儀式の維持確認 非宗教法人化で(毎日新聞)

靖国神社:名称、施設、儀式の維持確認 非宗教法人化で
[毎日新聞 2006年8月11日 3時00分]

 靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)問題解決のため、政府・自民党内で非宗教法人化論が高まる中、靖国神社が非宗教法人化にあたっての基本方針を確認していたことが10日、わかった。宗教法人の解散と、国の関与する特殊法人化は否定しないものの、1963年にまとめた見解を大筋で踏襲し、(1)靖国神社の名称存続(2)施設の保持(3)儀式行事の保持??の3条件を求めている。宗教色の維持を目指す内容で、非宗教法人化の実現に高いハードルとなる。
 南部利昭宮司ら同神社幹部が今年5月、確認した。麻生太郎外相が8日に非宗教法人化の私案を発表した際は沈黙を守ったが、実際には政府・自民党内の動きを先取りしていたことになる。5月には日本遺族会会長の古賀誠自民党元幹事長がA級戦犯分祀の検討を提言したほか、麻生外相も私案を示唆するなどの動きが相次いでいた。
 1950年代以降、国家護持案が遺族会や自民党で浮上したのを受け、神社は祭祀制度調査会を設けて63年に「靖国神社国家護持要綱」をまとめた。要綱は神社の名称存続を求める一方、施設と儀式行事は「本態(主要部分)の保持を規定することが望ましい」と柔軟姿勢を示していた。しかし、今回は(1)「靖国神社」の名称(2)鳥居、社殿などの施設(3)「英霊」の合祀、慰霊などの儀式行事??の原則維持の方針を確認。3条件を厳守した場合は宗教色が強く残り、政教分離を規定した憲法20条に抵触する可能性も出てくる。
 神社が麻生私案に沈黙するのは、自民党総裁選を前に政局に巻き込まれるのを避ける狙い。7月末には麻生氏側から私案を事前に示されていたが、新たに検討する予定はないという。【田所柳子】

 ◇宗教色めぐり、自民との溝浮き彫り

 靖国神社が確認した非宗教法人化への基本方針は、「麻生私案」など、政教分離の問題を解決しようとする自民党内の動きとの溝を浮き彫りにした。宗教色をどこまで残すかをめぐる温度差は大きいのが実情だ。ただ、「国営化」自体はかつて神社側が認めた経緯もある。非宗教法人化を全否定せず、今後の論議に余地を持たせたい狙いもあるとみられる。
 原点は60?70年代に議論された神社の国家護持案にある。戦前に陸軍、海軍が共同管理した経緯から日本遺族会は50年代以降、国家護持を要求。靖国神社も祭祀制度調査会が63年に「靖国神社国家護持要綱」を作成。宗教法人を解散した上で特別法人を作り、国が合祀(ごうし)や儀式の費用を支出するよう求めた。神社の名称存続や儀式行事の保持などの原則も盛り込んだ。
 ところが、自民党が69?73年に計5回、関連法案を提出すると、野党などから批判が続出。衆院法制局が74年に憲法との整合性から「拝礼形式の自由化」「鳥居など施設の名称変更」など宗教色を排する必要性を指摘した見解を発表すると、神社は反発し、自民党の法案自体に反対した。
 今回も宗教性について麻生私案が「祭式は非宗教的・伝統的なものにする」としているのに対し、神社関係者には困惑が広がる。麻生氏らが非宗教法人化をとなえる背後に見え隠れするA級戦犯分祀の思惑も警戒しているようだ。
 基本方針は今後の政治の対応次第では協議の余地を残したが、安倍晋三官房長官が首相に就任した場合、非宗教法人化論がどこまで本格化するのか不透明。神社側は9月の新政権発足後の政府・自民党内が論議を継続させるのかを慎重に見極める姿勢も見せている。【田所柳子】

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