1冊目は、友寄英隆『「新自由主義」とは何か』。第1章は、「しんぶん赤旗」に連載されたインタビュー。第2章は、そのインタビューに関連して出された疑問、質問に答えたもの。第1章の補論にあたります。第3章?第6章は、「新自由主義」批判にとって重要な4つのテーマを取り上げたもの。第7章は、新自由主義をめぐる理論・イデオロギー闘争について論じています。
小泉内閣が「構造改革」としてすすめてきた「新自由主義」の経済路線とのたたかいが呼びかけられて以来、「新自由主義」とは何か、どう理解し、どう批判したらよいのかが大きな関心を呼んできました。しかし、正直言って、「新自由主義」と言われる経済理論は、詳しく見れば見るほどつかみどころがなくなり、正体不明になってゆくもの。それは、ある面、経済理論として実にいい加減だということでもあるのですが、それではすまないのが現実のたたかい。友寄さんの連載は、こうした要求にはじめて本格的に答えてくれたものだと思います。
この連載でも、友寄さんは、多面的に、いろいろ苦労もしながら、「新自由主義」の経済路線の正体を明らかにしてゆきます。第2章にみられるように、いろいろ疑問も出され、それに答えていかなければいけなかったところにも、その苦労のあとが忍ばれるのですが、“理論的にすっりき全面的に解明されない限り論文は書けない”では現実の要請に応えられないとばかりに、勇猛果敢に挑戦した著者の努力に敬意を表したいと思います。
本書で重要なことは、「新自由主義」を、経済政策とその根拠になっている経済理論(およびそれの通俗化された形でのイデオロギーを含む)という側面から批判していること。「新自由主義」批判というタイトルのついた本の中では、「新自由主義的国家」というように、上部構造全体を特徴づけるキーワードとして「新自由主義」という言葉が使われていたりしますが、そうなると、同時に強まる国家主義・軍国主義の傾向を、「新自由主義」との関係でどうつかむか、いろいろ議論が分かれてきます。そうした議論を無駄だとは思いませんが、そもそも「新自由主義」を上部構造全体をくくるカテゴリーとして使うところに無理があるのではないかと、僕は常々思ってきました。そういう点で、友寄氏が、「新自由主義」の概念を経済政策と経済理論・イデオロギーとして俎上にのせていることを意味をつかんでほしいと思います。
2冊目は、憲法学者・樋口陽一氏の新刊『「日本国憲法」 まっとうに議論するために』。みすず書房の「理想の教室」シリーズの1冊というだけあって、非常に読みやすく書かれています。全部で5回構成。樋口先生は、9条改憲こそが「目下のところ」改憲論の一番の中心的論点だと指摘されますが、その9条改憲論が取り上げられるのは、最後の第5回て、しかもその最後の最後になってからです。結局、そこまでの4回の議論は、全部、憲法9条の問題を「まっとうに議論するために」必要な、憲法論的な前提条件を埋めていく作業だといえるでしょう。9条の問題を論じるためには、人権、市民としての権利、国民主権、権力分立、国と民族と国家(Land, Nation, State)、などなど、最低限これだけは考えてほしい、という問題が、分かりやすく取り上げられています。
「出されている改憲主張の多くは、下手な冗談としか言いようのない性質のものです」(143ページ)というところに、樋口先生の“静かなる怒り”が燃えているように思いました。
がらっと変わって3冊目は、スー・グラフトン『証拠のE』(ハヤカワ文庫)。女性私立探偵キンジー・ミルホーンの活躍するシリーズ第5弾です。以前に、「はまった」と書いておきながら、ようやく5冊目を読み終えただけ…。いろいろ読む本があって、手が出ないというのが実情です。今回キンジーは、保険会社の依頼で倉庫火事の調査を始めたところ、保険金詐欺の濡れ衣を着せられそうになります。いつも登場する大家のヘンリー、近所のレストランのロージーは、クリスマス&年末年始休暇で不在。その代わり、キンジーの別れた元夫が登場するなど、いつもとはちょっと雰囲気が違っています。個人的には、いつものキンジーの方が好みなんですが…。
【書誌情報】
- 著者:友寄英隆/書名:「新自由主義」とは何か/出版社:新日本出版社/発行年:2006年8月/定価:本体1500円+税/ISBN4-406-03307-6
- 著者:樋口陽一/書名「日本国憲法」まっとうに議論するために/出版社:みすず書房/発行年:2006年6月/定価:本体1500円+税/ISBN4-622-08322-1
- 著者:スー・グラフトン/書名:証拠のE/出版社:早川書房(ハヤカワ文庫 HM ク 4-5)/発行年:1989年/定価:本体640円+税/ISBN4-15-076355-0
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