根本的な解決のためには領土問題の解決が必要。しかし、当面の問題としては、操業ルールについて日ロ両政府で協議して、安全操業を確立することだ、との指摘。そして、根本にある小泉政権5年間の日ロ交渉の停滞。地元の指摘だけに、重みがある。
拿捕事件判決*安全操業の確立を急げ
[北海道新聞社説 9月22日]根室のカニかご漁船「第31吉進(きっしん)丸」が北方領土海域でロシア国境警備艇に銃撃・拿捕(だほ)された事件で、ロシアの地区裁判所は坂下登船長(59)に対し、領海侵犯と密漁の罪で罰金と被害補償金の支払いを命じる判決を言い渡した。
坂下船長は起訴事実を認め、判決を受け入れた。
この事件では、非武装の漁船にロシア側が数十発もの銃弾を浴びせ、漁船の乗組員一人が死亡した。断じて許せない。また日本の領海である北方領土海域で起きた事件が、ロシアの国内法で裁かれたことも極めて遺憾だ。
悲劇を繰り返さないために、この海域の安全操業をどう確立していくか、真剣に考えなければならない。
領土問題を決着させることが根本的な解決策だが、ロシアが実効支配している現実は簡単には変えられない。
とすれば政府が当面優先すべきは、操業ルールについてロシア側と早急に協議の場を持つことだ。同時に、地元漁業者も自らの問題として、今こそ違反の根絶に取り組む必要がある。
日ロ中間ラインの北海道側には、農水省令と道海面漁業調整規則に基づく調整規則ラインが設けられている。第31吉進丸が許可なくこのラインを越えた事実は動かしがたい。
漁業者にしてみれば「自分たちの海」でありながら、自由に魚を取れない悔しさはあるだろう。しかしだからといって、操業ルールを破る行為を正当化することは到底できない。
日ロ両政府は一九九八年、四島周辺海域での安全操業協定を締結した。裁判の管轄権など主権にかかわる問題を棚上げし、ロシア主張領海内での操業が可能になった。
「日本の漁船は違反操業を行わない」という性善説が前提となっている。「ガラス細工」といわれるゆえんだ。その意味で、今回の事件は協定そのものを揺るがしかねない。
ロシア側が坂下船長を裁判に持ち込んだ意図は明白だ。四島はロシア領であることと、漁業資源の管理にかける強い決意を印象付ける狙いがある。
貝殻島コンブ漁などほかの交渉の場に今回の事件を持ち出し、規制強化の口実にすることも予想される。だが、それでは相互の不信感を増幅させるだけだ。ロシアにとってもプラスにはならない。
安全操業の確立には、すでにある協定を土台に、対象海域、魚種の拡大を目指す方法が現実的だ。ロシア側が簡単にのむとは考えられないが、協議の雰囲気を醸成する上でも、漁業者の自覚ある行動が一層求められる。
小泉政権の五年間に停滞した日ロ関係の立て直しは、次期政権の最重要課題の一つだ。漁業問題で信頼関係を再構築できないようでは、領土返還はさらに遠のく。