備忘録。安倍首相の中国訪問について、公式文書としては「日中共同プレス発表」があるので、これをきちんとみておくことが必要。
日中共同プレス発表
平成18年10月8日
- 安倍晋三日本国内閣総理大臣は、温家宝中華人民共和国国務院総理の招待に応じ、2006年10月8日から9日まで中華人民共和国を公式訪問した。安倍総理は、胡錦濤中華人民共和国主席、呉邦国全国人民代表大会常務委員会委員長、温家宝国務院総理とそれぞれ会見、会談を行った。
- 日本側及び中国側双方は、国交正常化後34年間、日中両国間の各分野における交流と協力が絶え間なく拡大・深化し、相互依存が更に深まり、日中関係が両国にとり最も重要な二国間関係の一つとなったとの認識で一致した。また、双方は、日中関係の健全かつ安定的な発展の持続を推進することが、両国の基本的利益に合致し、アジア及び世界の平和、安定及び発展に対して共に建設的な貢献を行うことが、新たな時代において両国及び両国関係に与えられた厳粛な責任であるとの認識で一致した。
- 双方は、日中共同声明、日中平和友好条約及び日中共同宣言の諸原則を引き続き遵守し、歴史を直視し、未来に向かい、両国関係の発展に影響を与える問題を適切に処理し、政治と経済という二つの車輪を力強く作動させ、日中関係を更に高度な次元に高めていくことで意見の一致をみた。双方は、共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築に努力し、また、日中両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現することで意見の一致をみた。
- 双方は、両国の指導者の間の交流と対話が両国関係の健全な発展に重要な意義を有すると考える。日本側より中国の指導者の日本訪問を招待したのに対し、中国側は感謝の意を表明し、原則的にこれに同意し、双方は、外交ルートを通じて協議することで意見の一致をみた。双方は、両国の指導者が国際会議の場においても頻繁に会談を行うことで意見の一致をみた。
- 中国側は、中国の発展は平和的発展であり、中国が日本をはじめとする各国と共に発展し、共に繁栄していくことを強調した。日本側は、中国の平和的発展及び改革開放以来の発展が日本を含む国際社会に大きな好機をもたらしていることを積極的に評価した。日本側は、戦後60年余、一貫して平和国家として歩んできたこと、そして引き続き平和国家として歩み続けていくことを強調した。中国側は、これを積極的に評価した。
- 双方は、東シナ海を平和・協力・友好の海とするため、双方が対話と協議を堅持し、意見の相違を適切に解決すべきであることを確認した。また、双方は、東シナ海問題に関する協議のプロセスを加速し、共同開発という大きな方向を堅持し、双方が受入れ可能な解決の方法を模索することを確認した。
- 双方は、政治、経済、安全保障、社会、文化等の分野における各レベルでの交流と協力を促進することで意見の一致をみた。
- エネルギー、環境保護、金融、情報通信技術、知的財産権保護等の分野を重点として、互恵協力を強化する。
- 経済分野において、閣僚間の対話、関係当局間の協議や官民の対話を推進する。
- 2007年の日中国交正常化35周年を契機として、日中文化・スポーツ交流年を通じ、両国民、特に青少年の交流を飛躍的に展開し、両国民の間の友好的な感情を増進する。
- 日中安全保障対話や防衛交流を通じて、安全保障分野における相互信頼を増進する。
- 日中有識者による歴史共同研究を年内に立ち上げる。
- 双方は、国際問題及び地域問題における協調と協力を強化することで意見の一致をみた。
双方は、核実験の問題を含む最近の朝鮮半島情勢に深い憂慮を表明した。この関連で、双方は、関係方面と共に、六者会合の共同声明に従って六者会合プロセスを推進し、対話と協議を通じて、朝鮮半島の非核化の実現、北東アジア地域の平和と安定の維持のため、協力して共に力を尽くすことを確認した。
双方は、東アジア地域協力、日中韓協力における協調を強化し、東アジアの一体化のプロセスを共に推進することを確認した。
双方は、国連について安保理改革を含む必要かつ合理的な改革を行うことに賛成し、これにつき対話を強化する意向を表明した。- 日本側は、安倍晋三内閣総理大臣の中国訪問期間中における中国側の心のこもった友好的な接遇に対し、感謝の意を表明した。
2006年10月8日北京で発表した。
首相には首相のいろいろな思惑があるだろうけれども、ともかく「日中関係の健全かつ安定的な発展の持続を推進すること」で合意し、「日中共同声明、日中平和友好条約及び日中共同宣言」を再確認し、「歴史を直視し、未来に向かい、両国関係の発展に影響を与える問題を適切に処理」することで合意したのだから、これは小泉前首相にはできなかったこととして、きちんと評価しておく必要がある。
もちろん「歴史を直視する」といっても、内実をともなっているのか、という問題はあるし、安倍首相の歴史認識が多少なりとも良くなった、などというのはまったくの幻想にすぎないと思う。しかし、国会でも、首相就任前のような「放言」をくり返すわけにはいかなくなっているのだから、これからどういうふうに批判をしてゆくかは、よく研究する必要がある。少なくとも、「靖国参拝で明確な態度を示さないから日中、日韓関係も行き詰まっているじゃないか!」という批判は、いまのところ、通用しなくなったのだから。いや、そのうち化けの皮がはがれるに決まっている、と思うのは自由だが、それだけでは決めつけにしかならない。
要するに、安倍氏の言動に即して、より深いところから、しっかりとした論拠でもって批判を構築していく必要がある、ということ。
なお、官邸サイドでは、日本が「戦後60年余、一貫して平和国家として歩んできたこと、そして引き続き平和国家として歩み続けていくこと」を中国も認めた、ということを強調しているが、同時に、日本も、「中国の発展は平和的発展であり、中国が日本をはじめとする各国と共に発展し、共に繁栄していく」という中国側の主張を「積極的に評価した」のだから、これからは、従来のような中国脅威論をふりかざすような議論は許されない。