「高齢化がすすむと、年金や医療など社会保障の給付が増え、それにともなって保険料や税の負担も増え、日本経済の活力が失われる」――政府や財界がよくもちだす話ですが、本当にそうなのか? 今日の日経新聞夕刊の「夕&Eye」の「社会保障ミステリー」欄で、この問題が取り上げられています。
コラムを書いたのは、日経新聞編集委員の山口聡氏。山口氏は、国立社会保障・人口問題研究所の京極高宣所長の意見として、次のように紹介します。
払った保険料や税金は、年金や生活保護費、失業給付などとして国民のだれかの所得として移転されている。単純な負担ではない。
この意見をふまえて、山口氏はこう書いています。
国民負担率や潜在的国民的負担率については以前から指標としての問題点を指摘する声があった。負担率を抑えるために年金や福祉の費用を削ると、その分、子供が老親の面倒をみなければならなくなり、家庭内での負担が増える面などがあるからだ。負担率が大きくなると経済が悪化するという明確な関係も立証されていないという。
見てきたように国民負担率は万全ではない。公的な医療保障を抑え、あとは民間に任せる政策が進めば、所得によって受けることができる医療が異なる状況になりかねない。逆に社会保障が充実すれば国民が安心するほか、医療や福祉分野の産業発展につながる可能性もある。
で、結論として、「漫然と社会保障給付を増やすわけにはいかないが、ただ単に抑制すればよいというものでもなさそうだ」と書かれています。
国民負担率が50%をこえると、経済が停滞してしまってどうしようもなくなるかのような議論が横行しているけれども、病気になればお金がかかるのは、社会が負担しようが個人が負担しようが同じこと。社会保障給付を削れば、個人や家庭の負担が増え、その分、消費が落ち込むだけ。万が一の場合にそなえて個人で保険に加入すれば、保険業界は儲かるだろうけれども、結局、負担が増えるのは、税金や社会保険料の場合と同じ。
こういう分かりやすいことを、日本経済新聞は、もっと大々的に取り上げてほしいものです。
ちなみに、その隣には、「老後の生活への心配」という世論調査が載っています。
金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」(2006年版)によると、老後の生活について、「非常に心配である」「多少心配である」と答えた割合は、60歳以上で79%、60歳未満だと86%にのぼっています。国民の10人に8人ないしは9人が「老後が心配だ」と思っている訳で、まったくもって異常な事態です。
もちろん、こうした背景には、「年金危機」みたいなことが強調されすぎて、「不安心理」が働いているということもあるでしょう。「改革なくして…」などといって、不安をあおった政治家の責任は大きいと思います。同時に、60歳未満層が心配の理由としてあげているのが「十分が貯蓄がないから」「年金や保険が十分でないから」「現在の生活にゆとりがなく老後に備えた準備をしていないから」などというのは、現在の生活が苦しくて将来に備える余裕がないというもの。この面でも、国民に痛みを押しつけてきた政治の責任は大きいと思います。