日本経団連の経営労働政策委員会報告が発表されました。
経営労働政策委員会報告というのは、これまでは経営者側の春闘政策といった位置づけだったが、こんどのを読むと、それだけにとどまっていないことが分かる。きちんと読んでみる必要がありそう。
日本経団連:2007年版 経営労働政策委員会報告(概要)「イノベーションを切り拓く新たな働き方の推進を」 (2006-12-19)
まず第1の特徴は、産業界の目標として「イノベーション推進」を大きく、太く打ち出していること。イノベーションなしには日本経済の明日はないかのよう。
しかし、ここでいうイノベーションとは何か。要するに、「生産性向上」であり、「絶えざる技術革新と経営革新および高コスト体質の改善」、「経営トップによる企業理念・戦略の明確化と変化を厭わない企業風土の確立」、「研究開発投資への積極化とICTの有効活用」、「人材力の強化」など――いろいろ言っているが、中心は「非製造部門の生産性向上」に置かれている。
で、それをどうやって実現するか。
ICT(情報通信技術)というと難しそうだけれども、要するに、コンピュータを活用して「非製造部門」を徹底的に効率化しようということ。つまり、「非製造部門」の「高コスト体質の改善」が中心課題で、そのために、後の方では、「労働関連の規制改革の推進」として、「自律的な働き方のための労働時間規制の改革」(=「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の導入)が特記されている。
第2に、格差問題についてわざわざ一項目設けて書いていることも注目される。
規制改革が格差を拡大させているという意見もある。しかし、規制改革は、多くの意欲ある人々が市場に参入できるように競争条件を公正・公平な形に整えること、換言すれば機会の平等や選択肢の拡充を目指して行なわれる政策であり、チャレンジを奨励する政策とも言える。
格差問題に対する考え方のポイントは、格差がもたらされる事由が合理的なものか、その事由の回避が可能であるか否かにある。
公正な競争の結果として経済的な格差が生じることは当然のことである。所得格差は個々人の能力や仕事・役割・貢献度の差異等の合理的事由による場合が多い。
しかし、所得格差が固定化する、あるいは、必要な教育の機会がすべての人に開かれていない、一度失敗した者、機会を逃した者が再び挑戦する機会を得られないということであれば、それは問題とすべきである。格差の固定化をもたらさないためには、公正な競争、機会の平等を促進し、何度でも再挑戦の機会が与えられることが重要である。
それ自体は、格差問題への批判の高まりが、財界にとっても無視できない問題になっていることを示している。
しかし、ここで展開されているのは、弁解と、格差への批判の高まりを逆手にとった規制緩和推進論。現実の格差がどうして生じているか、という問題をまったく棚上げしてしまって、「公正な競争の結果として経済的な格差が生じることは当然のことである」として、問題を「不当な格差」だけに限ってしまい、さらにそうした「不当な格差」が生じるのは「公正な競争、機会の平等」などを実現する規制緩和ができていないためだとして、結局は、規制緩和で生じた経済格差の拡大を理由として、いっそうの規制緩和を合理化している。
格差問題をめぐる論戦が、いよいよ重要になっている。