日本経団連「優先政策事項」を読む(1)

日本経団連の「優先政策事項」ですが、詳しく読んでみたら、いろいろ財界のホンネらしいものも書かれている。けっこうきちんと研究してみる価値がありそうです。

といっても、「優先政策事項」は項目だけで愛想もこそもない。むしろ「優先政策事項【解説】」の方が面白い。
日本経団連:優先政策事項【解説】 (2007-01-10)

たとえば、「1、経済活力、国際競争力強化に向けた税・財政改革」。第2項目に「個人所得課税については低・中所得者層に配慮した減税、控除制度の抜本改革」というのがある。御手洗ビジョンでも「低・中所得層に配慮した減税」という項目があったが、いったい何でこんな要求が出てきているのか研究する必要がありそう。

ちなみに「御手洗ビジョン」には、こんなくだりが出てくる。

 税制改革を考える際、日本の税制が法人課税や個人所得課税など直接税に大きく偏っていることを見逃してはならない。国税・地方税を合わせた法人税実効税率は約40%であり、もともと法人税率の低いアジア諸国はもとより、EU諸国においても税率引き下げが行われた結果、諸外国と比して、高止まりの様相を呈している。個人所得課税についても、数次の改正により累進税率構造は緩和されたが、いまだに最高税率は他の先進諸国に比して高い。また、多岐にわたる所得区分、分離課税、錯綜した控除制度などにより、極めて複雑な制度となっており、所得補足の問題もあって、国民の負担感、不公平感は強い。
 今後、社会保険料負担が増大していくことを考えるならば、これ以上、直接税を増税する余地はない。新しい税収確保措置は、経済動向に左右されにくく、幅広い世代が公平に負担するとともに、経済におよぼす影響が中立的であり、国境調整により競争力への影響を遮断できる消費税を中心に考えざるをえない。(御手洗ビジョン、第3章 3「政府の役割を再定義する」、60?61ページ ((ページ数は版面にふられているページ付けによる。PDFのページ数ではないので要注意。)))

そして、「10年後の姿(税制改革)」(64ページ)には、こう書かれている。

個人所得課税については、累進税率構造がより緩和されている。また、社会保険料の負担増や、消費税率の引き上げを考慮して、低・中所得層の税負担が軽減されている。社会保障番号を活用することにより、税の公平性、透明性が高まっている。金融所得については、広く一体的に通算する税制が構築されている。

ということで、「低・中所得層に配慮した減税」というのは、法人税率の引き下げ、消費税率の引き上げと抱き合わせ、ということが分かる。しかも、引き続き、累進税率構造のいっそうの緩和が強調されているのだから、現在50%にまで引き下げられた最高税率をさらに低くしようとしていることは明らか。もちろん、実際の減税額でいえば、最高税率引き下げによる高額所得者の減税の方が大きいことはいうまでもない ((年収1億円の人が10%減税されれば、減税額は1000万円近い。それに対し、年収数百万円の「低・中所得層」は、いくら減税になっても1000万円の減税は初めから不可能、ということ。))。

さらに、金融所得についても、「広く一体的に通算する税制」ということで、総合課税ではなく、金融所得を一括した源泉分離課税に一本化しようとしていることも見逃せない。金融所得といっても、いろいろある。たとえば、庶民のわずかな預貯金につく数十円の利子からも20%の税金を引く一方で、株取引で数億円儲けても20%の分離課税だけでお終い ((総合課税だと最高税率50%が適用されるが、分離課税だと20%ですむわけだから、たとえば株取引で1億円儲けて2000万円税金を納めたとしても、はるかに税金は安くてすむということ))、ということだ。

したがって、「低・中所得層に配慮した減税」といいつつ、実態は、「低・中所得層」には消費税増税の負担が増える分と見合う程度 ((もちろん、こう書いたからといって、実際に、消費税負担増の分だけ減税されるという保証はない。消費税負担増の方が減税を上回ることになる可能性も十分ある。もともと現在、所得税を免除されている階層にとっては、もとより減税の恩恵はおよばない。))のわずかな減税、高額所得者にはたっぷり減税、ということになりそう。で、話を、もっぱら「所得補足の問題」による「国民の負担感、不公平感」にもっていこうといるんじゃないか ((この点では、小泉政治が国民分断の論理をもち込んで、一定の「成功」をおさめたことを思い出す必要がある。))、と思ってしまうのだが、はたしてうがちすぎだろうか。

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