被爆者援護法にもとづく健康管理手当の支給を、時効を理由に拒否されたとして、在外日本人被爆者が広島県を訴えた裁判で、最高裁は、広島県の上告を棄却。判決で、最高裁は、「被爆者が訴訟提起などの権利を容易に行使できたような場合を除けば、行政による時効の主張は原則として信義則に反して許されない」との判断を示しました。
この判断は適切なものだと思いますが、日本軍の侵略による戦争被害にたいする補償要求について、20年の時効で請求権消滅とするのも、同じように、信義則に反するものだと思いませんか、最高裁さん?
在外被爆者訴訟の判決要旨 最高裁が上告棄却
[中国新聞 2月6日12時31分更新]最高裁が6日言い渡した在外被爆者訴訟の上告審判決要旨は次の通り。
【消滅時効】
被爆者援護法等に基づく健康管理手当は、原子爆弾の放射能の影響による造血機能障害等に苦しみ続ける被爆者に、毎月定額の手当を支給することにより、健康と福祉に寄与することを目的とする。広島県は、健康管理手当受給権について、ブラジルに出国したことにより、旧厚生省の402号通達に基づき失権の取り扱いをした。
この通達や取り扱いに法令上の根拠はなかった。通達は国民に直接の法的効力を有するものではないが、法令上相応の根拠を有するとの推測を国民に与える。通達に基づき健康管理手当の受給権を失権とされた者に、なおその行使を期待することは極めて困難だった。
国が重要な権利を失権とする通達を出す以上、慎重な検討、配慮がされてしかるべきだ。しかも402号通達は、出国した被爆者にその時点から失権取り扱いを適用するものだった。
県が消滅時効を主張して未支給健康管理手当の支給義務を免れようとすることは、違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にした国からの事務委任を受け、自らも通達に従い違法な事務処理をしていた地方公共団体自身が、受給権者による権利不行使を理由に支払い義務を免れようとするに等しい。
県の消滅時効の主張は、特段の事情がない限り信義則に反し許されないと解するのが相当。本件に特段の事情を認めることはできず、県は消滅時効を主張して未支給の健康管理手当の支給義務を免れることはできない。
地方自治法236条2項の規定が、消滅時効の援用を要しないとしたのは、法令に従い適正、画一的に処理することが事務処理上の便宜と住民の平等的取り扱いの理念に資するので、民法が定める時効援用の制度を適用する必要がないと判断されたことによる。
しかし地方公共団体は法令に反して事務を処理してはならないとされ、これは事務処理に当たっての最も基本的な原則、指針であり、債務履行も信義に従い誠実に行う必要があることは言うまでもない。
本件のように基本的な義務に反し、既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利の行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取り扱いをし、行使を著しく困難にさせた結果、消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合には便宜を与える基礎を欠くといわざるを得ない。
時効の主張を許さないとしても平等的取り扱いの理念に反するとは解されず、事務処理に格別の支障を与えるとも考えがたい。県が地方自治法の規定を根拠に消滅時効を主張することは許されないというべきだ。【藤田宙靖裁判官の補足意見】
信義誠実の原則は行政法規の解釈で適用が必ずしも排除されるものでないことは広く承認されている。行政主体が行使を妨げるような違法な行動を積極的に執っていた場合にまで、消滅時効を理由に請求権を争うことを認めるような結果は、そもそも想定されていない。本件のようなケースは、時効援用の必要、その信義則違反の有無を論じる余地が認められる。