1965年から1967年にかけて刊行された中央公論版『日本の歴史』は、昨年、中公文庫の新装版で再刊されましたが、こんどその「別巻」が出版されました。中身は何かというと、最初に『日本の歴史』が刊行されたときに挟み込まれていた「付録」に掲載されていた各巻執筆者と著名人との対談集です。
たとえば第15巻「大名と百姓」を書いた佐々木潤之介先生は、徳川林政史研究所の徳川義親氏と対談。1966年におこなわれたものなので、そのとき佐々木先生は36歳。徳川義親氏は80歳で、親子以上の年の差。さらに、林政史研究をやられていたとはいえ、尾張徳川家第19代当主で戦前は侯爵だった徳川氏と佐々木先生とでは、立場の違いも大きいものがあります。しかし、明治44年に地方文書(じかたもんじょ)で卒論を書き、「お前のやっていることは歴史じゃない」と言われた徳川氏と、マルクス主義歴史学の立場から庶民の暮らしを描いた佐々木先生とのやりとりは、いま読んでもなかなか興味深いものです。大先輩の徳川氏の意見に、佐々木先生がところどころで批判を試みているのも、面白く思いました。
第10巻「下克上の時代」を書いた永原慶二先生は、ヨーロッパ史の増田四郎氏と対談されています。永原先生42歳、増田先生57歳ということで、年齢差は佐々木先生の場合ほどではありませんが、増田四郎といえば一橋大の戦前からの西洋経済史の大家。当時は、経済学部長でもあったはずで、これもなかなか興味深い対談です。
他にも、石井進氏(第7巻「鎌倉幕府」)と堀米庸三氏、桑原武夫と北山茂夫(第4巻「平安朝」)、竹内理三(第6巻「武士の登場」)と永井路子、対談者だけでいえば、司馬遼太郎、瀬戸内晴美、村松剛、杉本苑子、会田雄次、野上弥生子、松本清張、遠藤周作、有吉佐和子、安岡章太郎、円地文子、石川達三、伊藤整、犬養道子などなど。歴史研究者と文学者との対話が成り立った“よき時代”とも言えます。
【書誌情報】
書名:日本の歴史 別巻 対談・総索引/出版社:中央公論新社(中公文庫)/発行:2007年2月/定価:本体1429円+税/ISBN978-4-12-204802-7