まずは、みずから名乗り出た元裁判官の決心に敬意を表したい。
同時に考えさせられたのは、プロの裁判官であっても、「無罪の心証」をつらぬくのは大変難しいということ。だとすると、裁判員制度が実施されたとき、私たちが「無罪の心証」をつらぬくことができるのか。なかなか重い問題です。
袴田事件 元裁判官「心証は無罪だった」(日テレNEWS24)
「無罪の心証」袴田事件の元裁判官、39年後の告白(読売新聞)
袴田事件 元裁判官「心証は無罪だった」
[日テレNEWS24 2007/3/9 22:31]静岡県で66年に一家4人が殺害された「袴田事件」で、一審の静岡地裁で死刑判決を書いた元裁判官が9日午後、「心証は無罪だった」と明らかにした。
この事件は66年6月、静岡・清水市(現静岡市)でみそ製造会社専務・橋本藤雄さん一家4人が殺害され、2か月後に元プロボクサー・袴田巌死刑囚(70)が逮捕されたもの。
検察側は、袴田死刑囚がアパートの家賃欲しさに刃渡り12センチの「くり小刀」で4人を刺殺したと主張した。一審の静岡地裁は68年9月、この主張を認めて袴田死刑囚に死刑判決を言い渡し、80年に袴田死刑囚の死刑は確定した。
一審で死刑判決を下した3人のうちの1人、熊本典道元裁判官(69)は、当時、有罪との確信がなかったが、ほかの2人に従い、死刑判決を下したという。熊本元裁判官は「少なくとも、今まで出ている証拠で有罪にするのはムチャだと。結局、私が裁判長を説得できなかったのは私の力不足。僕自身の責任でもあると、今でも思っている」と語った。
袴田事件には、冤罪(えんざい)をうかがわせる疑問点が数多く残されていた。凶器とされたのは刃渡り12センチのくり小刀だったが、被害者には15センチ以上の深い傷が残されていた。逃走経路とされる留め金がついた裏木戸は、弁護側の実験では留め金がついたまま扉をくぐり抜けることはできなかった。また、くぐり抜けられるとした警察の検証では、留め金を外していた可能性が高いこともわかった。
さらに、みそ工場のタンクから見つかった犯人のものとされる血のついた衣服は「袴田死刑囚犯人説」の決定的な証拠とされた。しかし、血のついている位置が不自然で、袴田死刑囚の体格にも合わず、弁護側は警察による証拠のねつ造だと主張している。
弁護側は裁判のやり直しを求めたが、静岡地裁と東京高裁に棄却され、現在、最高裁に特別抗告している。
熊本元裁判官は「あの判決書きの表現は後からつけた理屈です。書いた本人がそう言って四十何年か悩んでいる」「私は言ってみれば(死刑判決を出した)殺人未遂犯ですよ。片棒を担ぎかけた。彼に会ったら黙っているしかない」と述べた。
ボクシング元世界チャンピオン・輪島功一さんらは、ボクサーへの偏見が袴田事件にはあるとして支援を続けている。輪島さんは去年12月、「これは冤罪だと。(袴田死刑囚に)寿命のあるうちに外に出てきてもらって、みんなでボクシングを観戦して『俺、頑張って良かった』と思ってもらいたい」と話している。
再び裁判への扉は開かれるのか。袴田死刑囚は10日、拘置所の中で71回目の誕生日を迎える。
「無罪の心証」袴田事件の元裁判官、39年後の告白
[2007年3月2日14時14分 読売新聞]静岡県清水市(現静岡市清水区)で1966年、みそ会社専務一家4人が殺害された「袴田事件」で、元プロボクサー袴田巌死刑囚(70)(再審請求で特別抗告中)に死刑を言い渡した1審・静岡地裁の判決文を起案したとされる元裁判官が「無罪の心証を持っていた」と、再審支援に協力を申し出ていることがわかった。
袴田死刑囚の支援団体が2日、公表した。
裁判官には、判決に至る議論の過程や内容を明かしてはならない「評議の秘密」が裁判所法で規定されており、判決から39年後の告白は議論を呼びそうだ。
「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」によると、元裁判官と名乗り出たのは、熊本典道氏(69)。事件の第2回公判から陪席裁判官を務め、68年の地裁判決で、3人の合議で主任裁判官として判決文を起案したという。翌69年4月に退官した後、弁護士活動を続けていた。
今年1?2月、熊本氏が住む九州で、同会のメンバーらが3回面会した。袴田死刑囚の姉秀子さん(74)も立ち会った。メンバーによると、熊本氏は「有罪にするには証明がなされていない」と無罪の心証を持ち、無罪の判決文を書き始めていたことを明かした。裁判官3人の合議で、熊本氏は無罪を主張したが、裁判長ら2人が有罪を支持、多数決で死刑と決まり、裁判長から判決文の起案を命じられた。熊本氏は「裁判長を説得できず、裁判長が有罪の決定をした。裁判長は最後まで迷っていたと思う」とも話した。
熊本氏は「袴田君の年齢も考えると、この時期にはっきり私の意見を述べておかなくてはならないと思った」と語り、秀子さんには「私の力が及ばず袴田君をこんな目にあわせて申し訳ありませんでした」と涙ながらに述べたという。
1審判決は、犯行を自白したとされる供述調書45通のうち44通を任意性が疑わしいとして証拠から排除、「自白の獲得に汲々(きゅうきゅう)として物的証拠に関する捜査を怠った」と捜査を批判する付言をした。熊本氏は「付言を入れたのは、私なりの精いっぱいの主張だった」と説明した。
◇
最高裁関係者によると、裁判官や元裁判官が、自身が関与した裁判の「評議の秘密」と称する内容を明かすのは極めて異例。「評議の秘密」を規定した裁判所法には、現職か元職かの規定はないが、「秘密は終生守るのが常識」という。罰則はないが、現職であれば、裁判官分限法による処分や裁判官弾劾法に基づき罷免される可能性があるという。
袴田事件については、「袴田事件 ― WIkipedia」を参照のこと。
ボクシング協会が袴田事件を支援(要請書・支援活動募金)をしているのはご存知かと思います。
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