今日の「東京新聞」のニュースから。第三弾。
インフルエンザ治療薬「タミフル」による異常行動の問題ですが、厚生労働省の研究班の主任研究者になっている横田俊平・横浜市立大学教授の講座に、「タミフル」の輸入販売元の中外製薬から「奨学寄付金」として2001年度から2006年度までに計約1000万円の寄付がおこなわれていたという事実。驚きです。
タミフル研究者に1000万 危うい奨学寄付金(東京新聞)
タミフル研究班教授に寄付金1千万円、岡山大教授にも(朝日新聞)
タミフル研究者に1000万 危うい奨学寄付金
[東京新聞 2007年3月15日付朝刊「こちら特報部」]インフルエンザ治療薬「タミフル」と異常行動の関連性が疑われている問題で、聞き慣れない言葉が紙面を飾った。「奨学寄付金」。民間企業が大学教授などの研究者に提供する資金だ。近ごろもてはやされる「産学連携」のキーワードともされるが、ひも付きの資金だけに、研究成果にスポンサーの意向が反映されないか懸念が残る。危うくはないか――。(中里宏、片山夏子)
今回の問題でクローズアップされた「奨学寄付金」という制度。文部科学省は「現在、国の制度としては存在しません」という。どういうことなのか。
独立行政法人化する前の国立大学では、教育・研究の奨励などを目的とする奨学寄付金は、国立学校特別会計法などに基づき、国の歳入にいったん計上され、文科相が学長に寄付金相当額を交付して経理を委任していた。教員個人への寄付でも、いったん教員が国に寄付する形をとっていた。
しかし、独立行政法人化で同法は廃止。後は「各大学が同様の制度を独自に存続させている」のが現状だという。■産学連携の落とし穴
こうした流れの中で、各国立大は企業との共同研究など産学連携や寄付金獲得に躍起となっている。特にありがたがられるのが「奨学寄付金」であるという。
旧帝大の大学病院に長く勤務していた医師は「科研費など国からの助成金は限りがあるし、年度内に使わなくてはならないなどの制約があり使いにくいが、企業からの寄付は自由がきく」と話す。また「企業からの援助としては、特定の研究課題のために企業から受ける『委託研究費』と、自由に研究費として使える研究寄付金と呼ばれる『奨学寄付金』があるが、自由に使える研究寄付金ほどありがたいものはない。製薬会社は、自社の薬を(病院や研究室で)使ってほしいから、寄付金を出したりする」とも打ち明ける。
それだけに「(医学部では)どれだけ企業から寄付金を集められるかで教授の力が決まる」とも。
「教授が有名になるほど寄付金は集まるようになり、企業の方から寄付を申し出るが、『こういう研究がしたいんだよね』と教授側から懇意の企業担当者にそれとはなしに話すこともある」という。
寄付集めに血眼になる背景には大学間の格差の顕在化もある。
ある国立大工学部教授は「年間250万円あった研究費が2年前から30万円になり、コピー代にしかならない。各研究室が大学図書館に置く専門書や資料代として年間20万円を出していたが、今はゼロ。地域の“知の拠点”としての環境も崩れてしまった」と嘆く。もはや寄付は研究になくてはならないものだという。■教員個人に寄付 透明性は怪しく
しかし、国立学校特別会計法の廃止にともなって、学校側は教員個人への寄付を大学が把握する法的根拠もなくなっており、その透明性が怪しくなっているのも事実だ。
会計検査院は2003年度の決算検査報告で、東京大など9国立大学で教員個人への寄付計約3億5000万円(2年間)が大学の会計に入っていなかったとして、旧制度と同様にいったん教員から大学法人に寄付させる規則の整備を求めている。
東京大広報課は「教員または研究室への寄付は法人への寄付として受け入れている」とするものの、「寄付目的別での金額の整理は行っていない」として、教員個人あての寄付の総額も把握していない。■疑われる関係やめよ
もうひとつの問題は、研究成果にスポンサーの意向が影響を及ぼすことがないかどうかだ。
横田俊平・横浜市立大教授の講座に01年から1000万円を寄付していた、タミフル輸入販売元の中外製薬はどういう意図で寄付していたのか。同社広報グループは「同大の小児科学講座は自己免疫疾患や難治性疾患に有数の研究をしているため寄付先に選んだ。そもそも奨学寄付金は成果を求める性質のものではなく、成果を期待する場合は受託研究として行っている」と、副作用研究との関連づけは心外という様子で話す。
新薬開発をする製薬会社が加盟する日本製薬工業協会も「新薬の開発には、国の厳しい審査を通らなくてはならず、純粋なデータを出さないと途中で駄目になる」と研究に余分な意思は働かないと主張する。
大手検査会社の社員は「自社で解析すると都合のいいデータではないかとみられるし、薬の解析は患者が集まる医療機関が入らないとできない。いいデータを出してほしいのはやまやまだが、客観性を担保するためにも、委託して大学と共同研究するのが普通の流れ。データを誰が評価するかも重要」と必要性を強調する。
しかし、ある私大工学系の教授は「人間ですから、企業と一緒に開発したり研究していた製品をかばいたくなる気持ちはある。だからこそ、お金のやりとりがあるときは審査や検証する立場になるのは避けるべきだ。また、寄付金を個人で管理させていた大学もあるが、大学が管理すべきだ」と苦しい胸の内を語る。
前出の医師は「企業の寄付金が純粋に研究を推進しているのは確か。(研究に自由に使える寄付で)データのねつ造が起きることはないが、何か起きたときに火消しを期待される可能性は否定できない。実際にバイアスがかかったかどうかを証明することは難しい。だからこそ、疑われるような状況での寄付を受け取るべきじゃなかった」。
金沢大病院の打出喜義医師は、同病院でインフォームドコンセント(十分な説明と同意)なしに臨床試験が行われたとされる損害賠償訴訟で、内部告発を行い、原告側に協力した経歴を持つ。その打出医師は「製薬会社から医者に渡るお金は、どこの大学でもある。奨学寄付金自体が大きな問題になるわけではない。むしろ製薬会社のお金に頼らなければ研究ができない大学の研究体制の方が問題」と指摘する。
しかし一方で「(企業と研究者の関係は)一般人の目でみれば適正な関係ではない」として、「例えば政党助成金は特定企業と政治家の癒着など政治腐敗を防ぐために導入された。本来、こうした形にすべきだ。企業のサポートがなければできない研究体制でいいのか、社会的・国民的に考えないといけないのではないか」と提案する。■企業からの寄付 米では論文公開
「米国でも数年前、たばこに害はないと発表した研究グループが大手たばこメーカーからお金をもらっていた問題で、研究者と企業の利益相反が問題となり、企業から寄付をもらっている場合には論文にそのことを公開しようという流れになってきている」。その流れで見ると、今回のケースには疑問符も付く。
「(利害関係のある)製薬会社から1000万円の寄付を受けていた人が研究班長では困るというのが普通の人の感覚でしょう。厚労省が研究班メンバーを選ぶときに寄付を受けているかチェックしたり、メンバー自身も任命されるときに『いいのか』と確認するぐらいの慎重さがあってもよかったのではないか。異常行動で亡くなった子どもの遺族の気持ちを考えれば、疑われて怒るという反応はよくない」。確かに10代の子どもを持つ親にとっては人ごとではない問題なのだ。■問題の背景(13日夕刊から)
インフルエンザ治療薬「タミフル」の服用と異常行動の関連性を調べている厚生労働省の研究班の主任研究者で、横浜市立大の横田俊平教授の講座に、同薬輸入販売元の中外製薬(東京都中央区)から「奨学寄付金」として2001年度から06年度までに計約1000万円が支払われていることが判明した。昨年10月、教授らは約2800人の患者を対象とした調査結果として「タミフル服用の有無によって異常行動の現れ方に差は見られない」と発表。厚労省はこの結果などから、タミフルと異常行動の因果関係を否定した。
<デスクメモ> 新型インフルエンザの流行を迎え撃つために、政府は膨大な量のタミフルを備蓄しているはず。もしも、わが子が新型インフルエンザにかかったらタミフルを飲ませるべきか否か、市民が求めているのは、そうした切羽詰まった場面で生きる情報だ。疑心暗鬼の種をまくのは、それだけで罪だと知ってほしい。(充)
タミフル研究班教授に寄付金1千万円、岡山大教授にも
[asahi.com 2007年03月14日12時00分]横田俊平・横浜市立大学教授は13日、同大小児科の講座が01年度から6年間で、インフルエンザ治療薬「タミフル」の輸入販売元の中外製薬(東京)から計1千万円の奨学寄付金を受けていたと発表した。横田教授は、タミフルの服用と異常行動の関連性を調べている厚生労働省研究班の主任研究者。また同社が03、04、06年度、同研究班員の森島恒雄・岡山大学教授の小児科教室にも同大学を通じ計600万円を寄付していたこともわかった。
横田教授は、週刊誌や新聞などで、タミフル服用と異常行動の因果関係について「発生頻度は服用の有無で大きな差はない」との結果を出した研究班の結果と、寄付金とを関連づける報道があったため、厚労省で会見。同教授と横浜市立大の説明では、小児科は同期間に計4860万円の寄付金を受け、うち1千万円が中外製薬からだった。
横田教授は「研究には他の大学や施設もかかわっており、中立性や透明性は確保されている」と話した。
一方、森島教授は「小児科教室として毎年十数社から奨学寄付金を受けており、すべて大学に報告し、許可を得ている。副作用調査で中立な立場を貫いているので、利益誘導などはない」とする談話を出した。
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