政府の経済財政諮問会議で、同会議労働市場改革専門調査会の八代会長が第1次報告「『働き方を変える、日本を変える』―《ワークライフバランス憲章》の策定―」を報告。「働き方を変える行動指針」の策定を目指すことで合意したようです。
- 経済財政諮問会議 「働き方」で行動指針 仕事・家庭両立めざす(FujiSankei Business i.)
- 労働調査会第1次報告 規制改革なお意欲 経済界の思惑見え隠れ(北海道新聞)
- 労働市場改革へ「行動指針」策定 経財諮問会議(北海道新聞)
- 10年後に既婚女性就業率を71%に引上げ=諮問会議専門調査会(朝日新聞)
↓第1次報告はこちら(PDF)。
「働き方を変える、日本を変える」―《ワークライフバランス憲章》の策定―
当日の議論については、こちらを参照。→平成19年会議結果 第7回会議 会議レポート:内閣府 経済財政諮問会議
新聞記事などでは、第3章の「《ワークライフバランス憲章―働き方を変える、日本を変える―》の策定」の中身が注目されていますが、この報告のポイントは第1章と第2章にあります。
つまり、第1章で「働き方を巡る6つの『壁』」を上げて、それをどう解決するか、ということで、第2章「目指すべき労働市場の姿――多様で公正な働き方を保障」を展開する、という組み立てになっています。そこでは、「多様な働き方が選択可能になること」「働き方に中立的な税制・社会保障制度」などの実現がうたわれています。
そのなかには、「外部労働市場が整備され、合理的根拠のない賃金差が解消されること」もあがっています。「合理的根拠のない賃金格差の解消」といわれると、なんか非常によいように聞こえますが、実際には、「外部労働市場の整備」によって「正社員・非正社員の区別のみを理由とした不合理な賃金格差の解消が進む」とあるように、八代尚宏大先生が前から言っているように、全員が正社員になるのは無理なんだから、みんな非正社員と同じにすればいい、ということです。事実、報告は、非正規労働市場では職種に応じた時給相場が成立しているといって肯定的に紹介されています。
企業は、本来、「雇用の安定的な確保」という責任があると思うのですが、八代尚宏氏の議論は、企業はそんなことを考える必要はまったくなく、労働市場は完全に外部化し、資材や物品を必要なとき、必要なだけ市場から調達するように、労働力も必要なとき、必要なだけ外部市場から調達できるようにしよう、というものなのです。
もちろん、そうなれば、なかには年俸1,000万円、2,000万円と稼ぐ人もいるでしょうが、大部分の人は、時給700円とか800円、景気のいいときは900円とかになって喜ぶだけ、という「働き方」を余儀なくされるのは確実です。そんな「働き方」への「行動指針」なんて絶対に許されません。
経済財政諮問会議 「働き方」で行動指針 仕事・家庭両立めざす
[FujiSankei Business i. 2007/4/7]政府の経済財政諮問会議が6日開かれ、諮問会議の下部組織「労働市場改革に関する専門調査会」が第1次報告を提出し、仕事と家庭を両立するワークライフバランスに関する行動指針策定に関して合意を得た。
ただ、報告では完全週休2日制の実現や残業時間の半減で正社員などフルタイム労働者の年間実労時間を10年後の2017年に06年より1割短縮させるなど具体的な数値目標が盛り込まれていたが、安倍晋三首相は「政府部内で十分に連携し、行動指針をとりまとめていきたい」とするにとどめた。
報告では、働き手が直面する問題として「正規・非正規」など6つの大きな壁があるとし、多様な働き手の権利を含めた働き方の共通原則の確立などを盛り込んだ「ワークライフバランス憲章」を盛り込んだ。
また、10年後の就業率目標として、25?44歳の既婚女性は06年の57%から71%に引き上げるほか、15?34歳の既卒男性は06年比4ポイント増の93%、同世代の既卒未婚女性は3ポイント増の88%、60?64歳は13ポイント増の66%、65?69歳は12ポイント増の47%とし、既婚女性や高齢者の就業率増加に重点を置いたものとなった。
柳沢伯夫厚生労働相は「有給休暇100%など数値目標を国家政策として規定してしまうと、(労働意欲が)衰退する方向に向かうのではないか」と反論、数値目標を盛り込むことは断念した。ただ、大田弘子経済財政担当相は同日の記者会見で「行動指針に数値目標を入れるまでの合意は得られなかったが、何らかの目標は必要」とし、引き続き検討する考えを示した。
労働調査会第1次報告 規制改革なお意欲 経済界の思惑見え隠れ
[北海道新聞 04/07 08:18]経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会が6日の諮問会議に提出した第一次報告は、就業率の引き上げや労働時間削減の数値目標を示し、「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」実現への取り組みをアピールする内容となった。ただ、一部労働者の労働時間規制を外すホワイトカラー・エグゼンプションの導入検討を示唆する表現も残り、労働規制改革を進めたいという経済界の意欲が、なお見え隠れしている。
「労働ビッグバンの看板を下ろしたつもりはない」。諮問会議メンバーで調査会長の八代尚宏・国際基督教大教授は、6日の調査会会合後の記者会見で語気を強めた。規制改革に積極的な経済界の主張が相次いだこれまでの諮問会議での議論と、報告書のトーンの違いを指摘する質問が出たためだ。
諮問会議では八代氏や御手洗冨士夫・日本経団連会長らが「経済全体の生産性を上げるために労働ビッグバンが必要だ」として、労働時間規制の見直しや労働者派遣の期間延長、外国人労働者の受け入れ拡大を主張。
これに労働団体などは「非正規社員の増加や労働条件切り下げにつながる」と強く反発。「参院選への影響を懸念する与党に配慮」(内閣府幹部)する形でまとめられた第1次報告では、女性や高齢者の就業率引き上げや、フルタイム労働者の労働時間1割削減、有給休暇の100%取得など「選挙向けの甘い顔」(連合幹部)が並んだ。
その一方で、文中では「労働時間と報酬がリンクしない、新たな労働時間制度構築」を求める意見も紹介。今後の検討課題として「外国人労働者の問題」を明記した。参院選以降に見込まれる2次報告に向けて「ビッグバン」各論の議論につなげるものとみられ、労働分野の規制改革論争は今後も続きそうだ。(佐藤均)
労働市場改革へ「行動指針」策定 経財諮問会議
[北海道新聞 04/07 08:17]政府は6日、経済財政諮問会議を開き、労働市場改革で「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」の実現に向け、政府の政策的な方針を示す「行動指針」を策定することで合意した。一方、ハローワーク(公共職業安定所)事業の民間開放は意見が分かれ、結論は先送りされた。
諮問会議に設置された労働市場改革専門調査会が、女性の就業率向上や労働時間短縮などについて数値目標を盛り込んだ第1次報告を諮問会議に提示。「行動指針」は、調査会の第1次報告などを参考に基本的な考え方をまとめる。政府が六月に策定する「骨太の方針2007」に盛り込む方針だ。
ハローワーク事業の民間開放では、民間議員が「一部のハローワークで市場化テストを行い、民間企業に運営を委託すべきだ」と主張したのに対し、柳沢伯夫厚生労働相は「長年培ってきた事業の信頼感が重要」などと述べ、反対した。
厚労省は、民間開放すると10000人を超えるハローワーク職員の処遇が困難になることも懸念している。
10年後に既婚女性就業率を71%に引上げ=諮問会議専門調査会
[asahi.com 2007年04月06日15時35分][東京 6日 ロイター] 経済財政諮問会議の労働市場改革専門調査会(八代尚宏会長)は6日、10年後の2017年までに、既婚女性の就業率を現行から14%引き上げて71%にすることや、フルタイム労働者の年間実労働時間を1割短縮することなどの数値目標を盛り込んだ第1次報告を発表した。専門調査会は報告書を今夕の諮問会議に提言。諮問会議では、6月にとりまとめる予定の「骨太の方針」に反映させる方向で議論を行う。
「働き方を変える、日本を変える」と題した報告書では、グローバル化の進展や、生産年齢人口の減少、労働力人口の高齢化など企業・働き手を取り巻く環境が大きく変化する中で、現在の労働市場では、「正規・非正規の壁」「性別の壁」「年齢の壁」など「働き手の前に6つの壁が立ちはだかっている」と指摘。
こうした壁の存在は、労働生産性の低下や、労働参加率の抑制、労働需給のミスマッチ拡大など「マクロ経済的にも大きな問題を惹起しており、経済成長を制約するものとなっている」と位置づけている。
その上で、めざすべき10年後の労働市場の姿として、「生涯を通じて多様な働き方が選択可能になる」「合理的根拠のない賃金差の解消」「多様な働き方に対して横断的に適用される共通原則の確立」「税制・社会保障制度が働き方に中立的になっている」ことなどをあげ、「年齢や性別にかかわらず、働きたい人が働けるような弾力的な労働市場をめざすとともに、特にワークライフバランスを実現する」ことを掲げている。
実現にあたっては「就業率の向上と労働時間の短縮を合わせて取り組みを進めなければならない」とし、10年後の2017年までの数値目標を導入する。
具体的には、就業率について、現在の就職希望者数などをもとに15?34歳までの既卒男性を93%(現行比4%引き上げ)・既卒未婚女性を88%(同3%引き上げ)、25?44歳の既婚女性を71%(同14%引き上げ)、60?64歳を66%(同13%引き上げ)、65?69歳を47%(同12%引き上げ)を目指す。
最も引き上げ幅の大きい既婚女性への対応については、雇用機会の均等に関する企業の説明責任の強化や、テレワーク・在宅勤務などの拡充、多様な保育サービスの確保、出産・子育ての費用負担軽減、税制・社会保険制度の働き方に対する中立化が政策として必要と提言している。
労働時間の短縮については、10年後に、1)完全週休2日制の100%実施、2)年次有給休暇の100%取得、3)残業時間の半減――により、「フルタイム労働者の年間実労働時間の1割短縮」を実現するとしている。
ハローワーク事業の民間開放も同時に議論されているようですが、これはは、そういう「働き方」を実現する第一歩としてねらわれているものです。
ハローワークが民営化されてしまえば、要するに、新聞に折り込まれてくる求人情報屋と同じになってしまいます。違法な就業状態でもチェックしない、募集広告の内容にウソがあってもチェックしない、お得意先である“企業様”を回って、求人募集を出していただく、のですから、民間のハローワークに、違法就業をチェックして公正な働き方を守れるはずがありません。
しかし、財界は、「公務員を減らせ」「国がやるのはムダだ」というお定まりのキャンペーンをはれば、職業安定所の民営化は実現できる、こうふんでいるに違いありません。そして、そこから始めて、最後は、完全外部化された「労働市場」を実現する。それが財界の狙いであることは明らかです。