年金の該当者不明記録が5000万件あるといわれていますが、これはあくまで一部のサンプル調査から推計したもの。他方で、昨日、国会で明らかにされた数字では、時効撤廃によって補償されるのは25万人分、950億円だという。
5000万件と25万人――どう考えても、数字が違いすぎる。もちろん、1人で年金記録が複数あるということが問題なのだが、それでも1人で10個、20個も年金記録があるということはあまり考えられない。また、すでに死亡した人の分がそんなにむやみやたらにあるとも思えない。そうすると、5000万件の不明記録の大部分が誰の年金かわからないままで終わってしまう、ということになるのではないだろうか。
年金記録漏れ、時効分25万人で950億円…社保庁試算(読売新聞)
そもそもこの数字は、過去6年間で実際に年金額を訂正した受給者22万人のなかから1000人をサンプル調査した結果だという。つまり、自分から年金額の訂正を要求して申し出て、なおかつそのうえに、証拠(領収証)があって、実際に年金額の訂正が認められた人のなかで時効にかかった人がそれぐらいいるというだけで、領収証などの証拠がない人のケースは含まれていない。そんな数字をもとに救済をすすめるのは、要するに、納付を証明できない人を排除するといっているのと同じことでは?
だから、時効撤廃云々のまえに、まずどれくらいの不明記録があるのか徹底的に調査すること、そのためにも、現在、年金の掛け金を支払っている人全員に、あなたの年金記録はこうなっていますというのを通知することが必要。
それに、今後こういうことが起こらないように、毎年、毎年、「今年あなたはこれだけの年金を納めました」という通知を全員に届けるシステムをつくる必要がある。
僕は、年金は今の職場で仕事をするようになって初めて払い始めたので、記録は1つしかなく、不明記録がでてくることはないと思われるが、会社をなんどか移った人や結婚して専業主婦になったことのある女性、あるいは厚生年金に加入していた時期と国民年金に加入していた時期とがある人、各種共済年金に加入していたことのある人などについては、自分の年金記録を確認できるようにすることが、混乱を解決するうえで不可欠だと思う。
ともかく、こうした混乱が起きている最中に、社会保険庁を廃止して民営化するというのは論外。そんなことになったら、いったい誰が、この混乱と該当者不明の年金の支払いに責任を持つのか。
年金記録漏れ、時効分25万人で950億円…社保庁試算
[2007年5月31日0時32分 読売新聞]柳沢厚生労働相は30日、衆院厚生労働委員会で、過去に年金記録漏れなどで、年金額が少ないと判明したものの、「時効」によって補償されなかった年金は約950億円に上るとの試算を明らかにした。
「年金時効撤廃特例法案」が成立すれば、950億円は全額補償される。対象者は約25万人で、1人当たり約38万円が補償される計算だ。950億円は、該当者などがすでに判明している年金の時効分からの推計で、今後、該当者不明の約5000万件の記録の全件調査で、新たな記録漏れが発覚すれば、補償額は大きく膨らむ見通しだ。補償される950億円のうち、約890億円は年金保険料から、残りの約60億円は税金から補償される。年金は厚生年金の報酬比例部分は保険料によって、基礎年金(国民年金)部分の約3分の2が保険料によって、約3分の1が税金によって賄われているためだ。
社保庁の試算は、過去6年間で実際に年金額を訂正した受給者約22万人から約1000人をサンプル調査した。その結果、3割程度の受給者に時効で受け取れない年金があった。22万人を6年で割り、年間約3万7000人が年金額を訂正することになると推定。その3割に平均余命を掛け合わせるなどして、時効分の年金がある受給者総数は約25万人、時効がなければ本来支給されていた額は総額約950億円と試算した。
現行の時効の制度は、社保庁のミスが年金記録漏れの原因であったとしても、国が補償する不足分の年金は過去5年分までにとどまる。与党の時効撤廃法案は、期間に関係なく全額を補償するとしている。