日本共産党の石井郁子議員の国会質問で明らかになった日本青年会議所の「靖国DVD」(「近現代史教育プログラム『誇り』」)。そのシナリオを読んでみました。
プログラムの進め方では、日中戦争については「当時中国は内乱状態にあり日本が中国の内乱に利用され、支那事変は仕組まれた戦争であったことを中心に説明する」、対米開戦についても「戦争を避けようとした内閣の努力も虚しくアメリカの最後通牒によって戦争が始まったことなどを重点的に説明する」などと強調されており、靖国神社・遊就館の展示そっくりの内容です。
日本青年会議所は、「様々な誤認・誤解を生んでいる」「過去の戦争を肯定するものでも、軍国主義を賛美するものでもありません」と弁解に努めていますが、事実にも反するし、結論として、あの戦争は「自存自衛の戦争だった」「アジア解放の戦争だった」と子どもたちに教え込もうという意図は明白です。
↓DVDのシナリオをふくむ「近現代史教育プロジェクト」の資料はこちらから。
近現代史教育プロジェクト(日本青年会議所)
靖国DVD/推進の日本青年会議所会頭/審査機関メンバーに/石井議員追及(しんぶん赤旗)
靖国DVD 推進の日本青年会議所会頭審査機関メンバーに 石井議員追及
[2007年6月7日 しんぶん赤旗]日本共産党の石井郁子議員は六日の衆院文部科学委員会で、侵略戦争を正当化する「靖国DVD」を使った日本青年会議所の教育事業を文科省の教育プログラムに選んだ有識者会議に、当時の青年会議所会頭がメンバーとして入っていたことを指摘し、追及しました。
石井氏が「青年会議所は採択されたことをホームページで大宣伝した。審査機関に入って自らの団体の申請を通すのはあまりにも不公正だ」とただしたのに対し、伊吹文明文科相は「自分の団体が採択の対象となっているときは、会議を遠慮するのが人間として当たり前のことだ」と苦言を呈しました。
有識者会議は10人で構成され、青年会議所会頭は2006年4月からのメンバー。団体枠から唯一選ばれています。石井氏は「いろいろな団体があるのになぜ青年会議所を選んだのか」と批判しました。
「誇り」と題するDVDは、日本の侵略戦争を「自衛のための戦争」などと正当化する内容で、1995年の政府の「村山談話」に反するもの。石井氏の追及に、伊吹文科相は「政府の方針からみると、私が校長だったら採択しない内容だ」と述べました。
文科省の銭谷真美初等中等教育局長は「(採択のときに)DVDの内容の審査はしていない」と発言。石井氏は「審査基準に国の教育政策に反しないこととあるのに、補助教材であるDVDを審査しないのでは、何のための審査基準か」と批判しました。
↓これが、「近現代史教育プロジェクト」に書かれているプログラムの進め方の一部。DVDを見たあと、生徒たちにグループディスカッションをおこなわせ、そこに自分たちもサブコーディネーターとして加わって、以下の点に注意して生徒たちの議論を誘導するように、という「注意書き」とでもいうべき部分。☆はメインコーディネーター、★はサブコーディネーターの担当をあらわしています。赤文字強調は引用者のもの。
<4> 歴史ポイント解説・グループディスカッション・・・・・45min.
(席を10人程度のグループディスカッションのできる配列にします。)
☆ 史実解説は,資料を読むのではなく,自分の言葉で伝える。
★ サブコーディネーターは受講者同士がグループ内でディスカッション出来るよう主導する。
* グループ毎に1名が書記となり,ディスカッションシートに記入する。i. 導入・・・・・(10min.)
★ 各ポイントに5分ずつ使い,できるだけ多くの受講者に意見をもらう。
★ しっかり話ができるよう盛り上げることを重視する。
★ 盛り上げきれない時は時間に拘らずに次に進む。
ii. 日清・日露戦争・・・・・(5min.)
☆ 当時の世界情勢(列強支配)など時代背景に重点をおき説明する。
☆ 日露戦争については日本の勝利がアジア(有色人種)に与えた影響を強調する。
★ 日本人はどう行動したでしょうか?
iii. 支那事変(日中戦争)・・・・・(5min.)
☆ 当時中国は内乱状態にあり日本が中国の内乱に利用され,支那事変は仕組まれた戦争であったことを中心に説明する。
☆ 中国との歴史観の歪みの発端であることの説明をする。
iv. 大東亜戦争・・・・・(5min.)
☆ 自国の経済を優先するブロック経済,ABCD包囲網によって資源が止まったことが当時の日本にとってどういったことであるか改めて説明する。
☆ 戦争を避けようとした内閣の努力も虚しくアメリカの最後通牒によって戦争が始まったことなどを重点的に説明する。
☆ マッカーサー証言についての意見。
★ 日本は孤立し,石油などが輸入できなくなりました。あなたならどうしたか問いかける。
v. 極東国際軍事裁判(東京裁判)・・・・・(10min.)
☆ 戦争後の裁判で悪い国とされたことについて,これを払拭することに重点を置く。
★ 事後法について例を挙げて説明する。
★ 現代における靖国(A級戦犯)問題についての説明。
★ A級戦犯とよばれる人たちはどんな人だったと思うか問いかける。
vi. 終わりに・・・・・(10min.)
☆ 最後にテロップで流れる戦争の数々について触れ,日本の平和が一時的なものかもしれないことに気づかせる。
★ この日本の歩んできた歴史を踏まえて,世界平和の為に何ができるか問いかける。
☆★ 戦争賛美にならないよう留意する。
いちおう最後に、「戦争賛美にならないように留意する」と書いていますが、日中戦争は策略に引きずり込まれて始まったもの、対米開戦はアメリカが仕掛けたものといって、結局、あの戦争を美化していることは明らかです。
シナリオでも、次のようなナレーションが入ることになっています。
【日中戦争】
当時の中国大陸は中国人同士が血で血を争う内乱状態にあり、その代表が蒋介石率いる国民党軍、毛沢東率いる共産党軍であった。そして、中国大陸で日本が力を持つことをもっとも恐れたロシアは、中国大陸における覇権争いをしていた国民党や共産党を巧みに操り、様々な謀略を日本にしかけ始めた。そうとは知らない日本は、中国大陸で抜けるに抜け出せない、泥沼のような戦いを繰り広げていくことになっていく。
【対米開戦】
アメリカは、アジアにおける主導権を確立しつつある日本に脅威を感じて仮想敵国と見なし、様々な戦略を練っていた。その戦略に基づいて日本を抑え込むために、中国・イギリス・オランダと協同し、石油やゴム、鉄鉱の輸出を禁止し、あらゆる資源の貿易を取り止めるという経済封鎖を行なった。これがいわゆるABCD包囲網だ。原料に乏しく、輸入に頼っていた日本は、あっという間に追い込まれていった。
それでも日本は、何とか戦争だけは避けたいと、外交努力でアメリカとの関係を修善しようとした。しかし、当時のアメリカの国務長官コーデル・ハルは、《ハル・ノート》と呼ばれる最後通牒を付き突けて来た。これは、日清・日露戦争の勝利により獲得してきた満州や中国大陸における一切の権利を放棄し、軍隊を引き上げろ、というもので、とても対等外交などと言えるものではなかった。日本は、亡国の道を歩むか、戦争に突入するか――二つに一つの決断を迫られ、アメリカをはじめとする連合国軍との戦争という苦渋の決断を強いられた。
そして、結論として、登場人物に次のようなナレーションを語らせています。
愛する自分の国を守りたい、そしてアジアの人々を白人から解放したい――日本の戦いには、いつも、その気持ちが根底にあったような気がする。
つまり、「あの戦争は自衛のための戦争だった、アジア解放の戦争だった」という訳です。
日本青年会議所は、石井質問について、会頭メッセージを読むと、「非常に批判的かつ厳しいもの」「私たちが開発してきた教育プログラムが内容の本意を汲まれないままに質問の題材にされたということは非常に遺憾」などと弁解しつつ、「JC関係者にしか配布していない日本JC機関誌の現物や、これまた特定の方々にしか配布していないDVD『誇り』の現物を手にしての質問でした」と書いています。石井質問が相当衝撃だったようです。
ちなみに、「歴史ポイント解説資料(メンバー用)」に出てくる「近現代史検証報告書」は、ここから見ることができます。
日本青年会議所(JC)というのは、地域では、いわゆる若手経営者などを集めた組織としてよく知られていますが、その実態は、なかなか相当の右翼団体です。こんなの公益法人にしていていいのでしょうか。