些細なことですが、新MEGAの第2部第12巻(『資本論』第2部エンゲルス編集用原稿)を見ていて、エンゲルスが草稿を編集するさい書き写し間違えたと思われる箇所を2つ見つけました。
1つめは、新日本訳・新書版第5分冊、48ページ、8行目(上製版、49ページ、後ろから6行目。MEW S.33)に、「余分な剰余労働」という表現が出てきます。しかし、「余分な剰余労働」というのはおかしな表現です(マルクスの「剰余労働」の定義からいって、「余分な剰余労働」というようなものはありえない)。
もう1つは、やはり新日本訳・新書版第5分冊、55ページ、後ろから5行目(上製版、56ページ最終行。MEW S.37)から次行にかけて、「労働力それ自身の価格の再生産」という表現が出てきます。しかし「労働力の再生産」といえば、やっぱり価値でしょ。「労働力の価格を再生産する」という表現は、ほかに見たことがありません。
そこで、これら2カ所について、新MEGA II/12の「乖離一覧」を確かめてみました。
すると、最初のところについては、マルクスの草稿では「余分な労働、〔すなわち〕剰余労働」と書かれている、と注記されていました(「乖離一覧」7.16の項、参照)。
2つめについても、草稿では「価格」ではなく「価値」になっている、と指摘されています(「乖離一覧」11.40、参照)。
どうしてこんな間違いが生じたかまでは書かれていませんが、おそらくエンゲルスが草稿を書き写すさいに間違えたのではないでしょうか。
ちなみに、最初の箇所について、邦訳各版などを確かめてみましたが、これまで、このことについて指摘したものはないようです。ただ、インターナショナルパブリッシャー社の英語版では、該当部分は「of excess labour, of surplus labour」(同書、33ページ)となっていますが、注記などは一切ありません。
※さらに旧ソ連時代のプログレス社版の英語版資本論を調べてみたところ、やはりこの部分は、「of excess labour, of surplus-labour」となっていました(同書27ページ)。もちろん、注記などは一切ありませんが、英語版だけは、以前から、訂正されていたということでしょうか。――6/20追記
すでに、新MEGA II/12を担当された研究者の方が、どこかで日本語で指摘されているかも知れませんが、寡聞にしてそうした論文を見ていないので、念のため、ここで指摘しておきます。