儀礼だからこそ「思想・信条」にかかわるのでは?

入学式や卒業式で、「日の丸」にむかって起立したり、「君が代」を歌わなかったとして、再雇用を取り消された裁判で、東京地裁は、原告敗訴の判決。

裁判長は、「式典で起立、斉唱することは儀礼的な行為」だから「思想・良心の自由を侵害するものではない」といっていますが、たとえば、偶像崇拝を禁止する宗教があるように、儀礼には、一人ひとりの思想・信条や良心がともなうものです。それを「儀礼的行為だから関係ない」といって片づける無神経さに唖然とします。不当判決であり、無能判決でもあります。

「君が代」斉唱の職務命令は合憲、初の司法判断…東京地裁(読売新聞)

「君が代」斉唱の職務命令は合憲、初の司法判断…東京地裁
[2007年6月20日20時27分 読売新聞]

 入学式や卒業式で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱しなかったことを理由に、定年後の再雇用を取り消された東京都立高校の元教諭ら10人が、都を相手取り、再雇用職員としての地位確認などを求めた訴訟の判決が20日、東京地裁であった。
 佐村浩之裁判長は「式典で起立、斉唱することは儀礼的な行為で、思想・良心の自由を侵害するものではない」と述べ、斉唱を命じた校長の職務命令を合憲と判断。命令に反した原告を再雇用しなかったのは、都教委の裁量の範囲内で適法として、請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
 都教委は2003年10月、式典で国旗の掲揚と国歌斉唱を教職員に義務づけ、校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問うとする通達を出した。この通達を巡っては、約400人の教職員が原告となった別の訴訟で東京地裁が昨年9月、違憲判断を示している。今回の判決は、都の通達に基づく職務命令を合憲とした初の司法判断で、正反対の結論となった。
 原告らは04年?05年、勤務する都立高校の卒業式で、国歌斉唱時に起立しなかったことを理由に、再雇用を取り消された。
 判決は、最高裁が今年2月、音楽教諭に国歌のピアノ伴奏を命じた職務命令を合憲とした判断を踏襲し、「職務命令は教職員全員に発せられており、内心の精神活動を否定するものとは言えない。公務員の職務の公共性を考えれば、必要な制約として許される」と、合憲判断を示した。
 また、再雇用の取り消しについても、「一部の教職員が起立しなければ、式典の指導効果が減殺される。違反行為が将来も繰り返される可能性が高いことなどを考えると、再雇用を取り消しても著しく不合理とは言えない」と述べた。

そもそも、「君が代」「日の丸」は強制しない、というのが国旗・国家法の趣旨であるにもかかわらず、それを強制しているだから、この職務命令にはもともと「公共性」はありません。また、卒業式全体をぶち壊すといった行為ではないのですから、「必要かつ合理的な制約」でもありません。

また、再雇用の取り消しは、学校の先生としての能力にふさわしいかどうかによって判断されるべきであって、たんに上司の命令に逆らったという理由で、すでに決まっていた再雇用を取り消すなどということはできません。こんな理屈が通用することになれば、仕事と関係ないことであれこれ命令を受けても、それに全面的に従わざるをえない、ということになります。日本人の自立性のなさを裏打ちするような情けない判決です。

よほど、近藤先生のほうが教育的です。

『強制で愛国心育たない』 日の丸・君が代訴訟あす判決 再雇用取り消し元教員(東京新聞)

『強制で愛国心育たない』 日の丸・君が代訴訟あす判決 再雇用取り消し元教員
[東京新聞 2007年6月19日 夕刊]

 「こんなばかなことがあっていいんですか。おかしいと思いませんか」
 東京都立新宿山吹高校通信制の教員だった近藤光男さん(63)=東村山市=は、校長室で都教育庁の職員から定年後の再雇用の取り消しを言い渡され、思わず声を上げた。新学期を目前に控えた二〇〇四年三月三十日のことだ。
 一週間前の卒業式で、「君が代」斉唱時に起立しなかった。このために同日、戒告処分が発令されたことが取り消しの理由だった。「ここまでするとは」。職員も動揺しているのか、処分を読み上げる声が震えていたのを今も覚えている。
 君が代斉唱時の不起立で戒告処分を受け、再雇用や講師の採用を取り消された元教員十人が都を相手取り、取り消しは違憲として、地位確認などを求めた訴訟の一審判決が二十日、東京地裁で言い渡される。
 原告の中で、近藤さんは異色の存在だ。保健体育の教員で、武道家でもあった。学校行事や大会では大声で君が代を歌ってきた。「戦争責任は政治家や軍部にある。利用された日の丸、君が代に罪はない」との思いからだ。職員会議などで君が代斉唱に反対する教員に「なぜ新しい国旗や国歌を作る運動をしないのか」と反論したことも。
 だが、〇三年秋、都教育委員会が教職員への職務命令として、式典での日の丸・君が代の厳格実施を求めたことに強い反発を覚えた。
 「処分をちらつかせて歌うことを強制しても、愛国心は育たない」。校長に異議を唱えたが聞き入れられず、斉唱時に起立しないことで反対の意思表示をした。
 再雇用を取り消された際、対応を相談した武道の教え子の弁護士に驚かれたという。「先生はどちらかといえば『右』じゃなかったですか」
 二十日の判決を前に近藤さんは話す。「権力に盾突く者を排除するようなやり方を許せば、戦前に時間が巻き戻される。当事者として、逃げられない問題だ」(高橋治子)

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