日曜日の朝日新聞で、自衛隊の国民監視問題について、軍事アナリストの小川和久氏が「トンデモ」意見を開陳されておりました。曰く――
情報保全隊とは、自衛隊内から何が漏れているかをチェックするだけでなく、どんな相手が「反自衛隊感情」を持っており、隊員と接触して情報をとろうとしているのかについて、目を光らせている防諜部隊のことだ。今回流出した資料の中味からすると、彼らがきちんと職務を遂行していたことがうかがえる。
高校生ピースウォーキングや、JR駅前での数人での宣伝活動が、どういう意味で「隊員と接触して情報をとろうとしている」ことになるのか。そんなこともおかまいなしに、「きちんと職務を遂行していた」などといわれては、呆れるほかない。
さらに、小川氏は、あらゆる組織はライバルを調査するのは当然だという論を展開し、「情報保全隊があらゆるものを調べるのは当たり前のことだ」といわれる。
企業であれば、ライバル企業がどんな能力を持ち、どういうアプローチをしかけているか、社員がヘッドハンティングされていないか、常に目を光らせている。
軍事組織が行う情報活動の範囲は、作戦情報を収集・分析するところから脅威に対する防諜まで幅広い。今回の問題は、イラクのことに絞って語られているが、情報保全隊があらゆるものを調べるのは当り前のことだ。
では、小川氏は何を問題にするか。
我々がきちんと押さえなければいけないのは、自衛隊は国家権力で、しかも軍事組織であるという点。そんな組織がこういった活動を行う際は、逸脱行為がないよう、シビリアンコントロール(文民統制)が貫かれていることが重要だ。
国家権力が情報活動を行うとなれば、敵も味方もなく、一般の国民を対象にせざるをえない。その際、文民統制の原則を逸脱しないためには、活動で得た情報が自衛隊内外に流出して国民のプライバシーを侵したり、国民を萎縮させたりしないようにしなくてはならない。その意味で、今回の流出は最悪だった。
どうやら小川氏にとっては、自衛隊の国民監視そのものがプライバシーの侵害なのではなく、それが漏出することがプライバシーの侵害になるようだ。要するに、ばれなければ、どんな情報を集めてもプライバシーの侵害にはならない、と。何とも、ご立派なご意見だ。小川氏にとっては、今回の事件について、防衛大臣や防衛相幹部が、「軍事組織であればこうした活動や機能が必要になる」と真正面から説明しなかったことが悪いのだそうだ。
さらに、小川氏は、こう指摘する。
敵にしなくていい人々まで「敵」に分類している。
これは、「防衛省や自衛隊の情報組織はいまだに成熟していない」という問題なのだそうだ。
もう1つ、いかにも「事のついで」という感じで、こうも書かれている。
今回の活動に、ぴったり当てはまる防衛省の根拠規定がない点が問題だ。
「国家権力で、しかも軍事組織である」自衛隊が、「根拠規定がない」にもかかわらず、「あらゆるものを調べる」のがなぜ「当たり前」になるのか、ぜひともご高説をうかがいたいものだ。
小川和久氏は、前からおかしなことをいうなあと思っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。「陸上自衛隊生徒教育隊に入隊し同航空学校を修了」という経歴をみて、かえって納得したりもする。
これに比べれば、フジ・産経グループの扶桑社が発行する軟派下半身系週刊誌『SPA!』7/3号の特集「自衛隊の国民監視 やりすぎに唖然!」の方がまだまし。(といっても、4ページにわたって特集しながら、どこにも、この資料を共産党が公表した、ということが書かれていない。さすが扶桑社!!)