「東京新聞」7月30日付夕刊での鎌田慧氏のコメント。自民党の敗因は「年金問題」ではなく、庶民の生活などには無関心な安倍首相が裸の王様になってしまったからだと指摘。同時に、民主党にたいする投票のなかには、民主党が主張するような集団的自衛権の行使や改憲にたいする批判票もあるのだぞと釘を刺されています。
予想以上の自民党大敗となったのは、強行採決を繰り返した安倍政権に、有権者がノンを突きつけた結果である。自民党と一体化した公明党が議席を減らしたことにも、その怒りがあらわれている。
テレビの開票中継には、どこか有権者をナメていた首相が、手痛いしっぺ返しを食っている様子がつたえられていた。……
マスコミでつたえられているように、「年金問題」が自民党の凋落の原因だったのか。私はそうはおもわない。年金は民主党でも、すぐには解決できない問題だからだ。「有権者をナメていた首相」というのは、庶民の生活などにはまったく無関心な首相が、衆人の目からは、もはや空理空論を唱えるハダカの王様、あるいは目黒のサンマのバカ殿様にみえるようになったからだ。……
……「戦後レジームからの脱却」は、すでに生活保護世帯をふやしている。
同時に、保護を受けられず、自殺したり、餓死したりするひとたちもふやしている。すすめ、すすめと号令をかけられても、もううんざりだ、という声が、今回の結果である。
……
大勝した民主党は、集団的自由権の行使や改憲にたいする市民の批判が、その票にふくまれていたことを、忘れたフリをしないでほしい。
同じく「東京新聞」30日付夕刊の精神科医・野田正彰氏の談話。
……年金問題が自民大敗の原因だとクローズアップされているようだが、それだけではない。改憲問題や「教育再生」のごり押しなどに国民が漠然とした危機感を抱いていたことが、背景にあった。安倍首相がしてきたことがすべて含めて「ノー」と判断されたのだと思う。……
「毎日新聞」30日付夕刊では、作家の保坂正康氏がこんなことを述べている。
自民党はなぜ、歴史的な敗北を喫したのか。……私は、より本質的な問題こそが敗因だったと考えたい。それは、安倍首相自身の政治姿勢、そして歴史認識である。
安倍政治を象徴するのが「美しい国」だ。「美しい」は形容詞だが、安倍首相はその内容について抽象的な説明に終始し、国民に分かるように説明しない。このことは、権力が「美しい」という言葉の意味を勝手に定義し、国民はそれに従えと言っているに等しい。まるで戦前の「すめらぎの国」のようであり、森喜朗元首相の「神の国」発言に匹敵する無神経さだ。
また、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」と言う。しかし、戦後レジームとは本来、戦前のファシズムの負の遺産を清算し、過去を克服するために作られたものだ。脱却すると言うならばまず、戦後レジームをきちんと評価した上で、今の時代に合わせて変えていくという前向きな発言があるべきだった。「戦後レジームからの脱却」と繰り返すだけでは「戦前レジーム」への回帰を望んでいるようにしか聞こえない。
安倍氏の首相就任後、日本社会は何かレベルダウンしてしまった感がある。「美しい国」「戦後レジーム脱却」「憲法改正は3年後」などの言葉だけが先行し、実体は何一つ見えない。今回ばかりは国民も「おいおい、これはとんでもない首相だぞ」と気付き、それが選挙結果につながったのではないか。
安倍首相は敗因を年金問題や閣僚の失言、野党の攻撃と考えているかもしれない。しかし、それだけが敗因なら自民党はここまで大敗しなかっただろう。政策では修正しえない、安倍首相自身の政治家としての資質や歴史認識が問われた選挙だったからこそ、ここまで負けたのだと、安倍首相も自民党も自覚すべきだ。……
投票前、メディアが「自民党大敗」の選挙予想を繰り返し報じたにもかかわらず、今回は「揺り戻し」減少が見られなかった。安倍首相や内閣にはもはや、国民の間に同情論すら起こらなかったのではないか。……
アナウンス効果に関連して、「朝日新聞」31日付朝刊で、東大教授の蒲島郁夫氏がこんなふうにコメントされている。実際、大河原雅子氏は、自分でも危ないと言っていた。「逆アナウンス効果」とでも言うべきか。神奈川でも、民主党が「自公2、民主1か、民主2、自公1か。神奈川が変われば、日本が変わります」と絶叫すると、聴衆が大きく拍手する、という光景を目の当たりにしましたが、この流れは逆らいがたいものがありました。
……興味深いのは、東京選挙区での民主党の大河原雅子氏のケースだ。報道各社の情勢調査では当落線上に近かったのに、結果はトップ当選。これは、有権者が民主党候補を2人当選させるために意識的に戦略的な投票行動をとった結果だと言える。東京以外でもこうした動きが見られた。無党派層だけでなく、共産、社民両党の支持者の間でも、こうした投票をした人たちがいた。
……今回は大河原氏の例を見ても、「小差の勝利では与野党逆転はできない」と感じた有権者が意識的に行動した結果であり、「自民党に負けてほしい」との有権者の気持ちが表れたと言える。
「東京新聞」7月31日付夕刊の「大波小波」欄。「選挙監視員」子が、「経済界の責任」と題して、次のように書かれている。これもなかなか重要な点を指摘している。
……マスコミの世論調査や出口調査で、投票に当たって年金不安や生活格差を訴える有権者が多かった。自公両党の敗因はやはりキッチンイシュー(家計問題)が根にあるのだ。……
2年前の小泉内閣による衆議院の郵政解散は、唐突に勝負をかけたので、経済問題は目眩ましに遭った。その小泉改革の競争政策路線の果てに、弱者への無配慮な政策が進み、ワーキングプアなどの言葉が定着した。この経済政策の責任は、経済界も負わなければなるまい。
経済財政諮問会議に席を得て、企業利益優先の成長路線を政府にねだった。国際競争力という不透明な理由を大仰に言い立てて法人減税を求め、規制緩和策のもとでの低賃金労働を利用して利潤を得るなど、19世紀の資本主義を想像させる社会を演出している。
選挙での自民党の惨敗は、国民がこうした胡散臭い政策に我慢できずノーを突きつけたのではないか。それは経済界へのノーであることを忘れてはならない。
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