読み終えました 吉田裕『アジア・太平洋戦争』

吉田裕『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)吉田裕さんの岩波新書『アジア・太平洋戦争』を読み終えました。8月21日に発売されたばかりですが、一気に読んでしまいました。

対象としているのは1941年12月8日の開戦から1945年8月15日までですが、叙述はその前の日独伊三国軍事同盟の締結(1940年7月)から始まり、次の5章立て。

第1章 開戦への道
第2章 初期作戦の成功と東条内閣
第3章 戦局の転換
第4章 総力戦の遂行と日本社会
第5章 敗戦

この時期を、出来事を追いかけつつ、要所要所で、戦争をめぐる「論」が整理されています。そのため、歴史的な事実関係と、それがどんな意味を持っていたかという「論」とが分かりやすくなっていると思います。

たとえば第1章では、対英戦と対米戦との関係、日米戦争における戦争責任問題として「日米同罪論」や日本の自衛戦争論が取り上げられ、そのなかで開戦にいたる経過と日本の開戦決意がいつおこなわれたか、それとのかかわりでハル・ノートの位置づけが論じられています。また、開戦の問題では、いわゆる「だまし討ち」論との関係で、アメリカにたいする交渉打ち切り通告と宣戦布告とは違うこと、イギリスに対しては、なんの交渉も通告もなく、真珠湾攻撃より1時間前に英領マレー・コタバルへの攻撃と上陸が開始されたこと、さらにオランダに対しては、「宣戦の詔書」で米英には宣戦を明らかにしたが、オランダ政府にむけてはそうした宣戦の意思表明それ自体がなかったという指摘はなるほどと思いました。こういうことを無視して、対米交渉打ち切り通告が遅れたことだけをあれこれ言ってみても仕方ないことがよく分かります。

また、日本の侵略戦争の加害の問題はもちろん、国民が受けた被害、とくに無数の兵士がこうむった犠牲にも目が向けられているのも、この本の優れたところです。これを「自虐史観だ」などと言って切って捨てることはできないのはもちろん、実際に戦争を体験された世代の方が「あの戦争は何だったんだろう」と思って読まれても、十分期待にこたえるものになっていると思います。

本書を読んで、あらためてこの間の研究が非常に大きな成果を上げ、蓄積してきたことを知りました。吉田さんは、そうした成果に広く目を配りながら、太い筋でアジア・太平洋戦争とはどんな戦争だったのかをえがきだしてくれています。後ろの参考文献を眺めて、僕自身日本史が専門(時代は違いますが)だし、系統的とは言えないまでも、この分野の本もいろいろ読んできたつもりでしたが、まだまだ読んでおくべき研究がたくさん出されていることを知りました。

吉田さんは、「はじめに」で、「なぜ、(日本の)『戦後』は終わらないのだろうか」と問いかけ、自分を含む戦争を知らない世代が「戦争の現実、戦場の現実に対する想像力を身につけることはできる」と指摘されています。また、「あとがき」では、「若手、若手とおだてられ、若手、若手と驕りたかぶっていた時代は遠い過去のものとなり、今や中堅ともよべない世代の研究者となりつつある」との自覚を披瀝されていますが、本当にそうした自覚と覚悟が、わずか200ページあまりの新書のなかに詰め込まれていると感じました。

ともかく戦争について知りたい、勉強したいと思っている若い世代のみなさんにも、あの戦争は何だったのかふり返ってみたいと思っている年配の方にも、お薦めの1冊です。

【書誌情報】
筆者:吉田裕(よしだ・ゆたか、一橋大学教授)/書名:アジア・太平洋戦争 シリーズ日本近現代史<6>/出版社:岩波書店(岩波新書新赤版1047)/発行年:2007年8月/定価:780円+税/ISBN978-4-00-431047-1

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  1. ピンバック: 現政権に「ノー」!!!

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