古い記事ですが、朝日新聞(8月22日付)に、『諸君』や『正論』の勢いが落ちているという記事が載っていました。
ま、一種の腐敗現象です。
曲がり角の保守系論壇誌 過激にあおる雑誌台頭
[asahi.com 2007年08月22日]保守系論壇誌の風景が変わり始めている。90年代後半から「新しい歴史教科書をつくる会」の運動や拉致問題、反日デモなどを追い風に部数を伸ばしてきた「諸君!」(文芸春秋)と「正論」(発行・産経新聞社)は勢いが落ち、新路線を探り始めた。一方で、より過激なナショナリズムをあおる雑誌が台頭している。背景には、左派という敵を失った保守論壇の空洞化や、安倍政権への失望、ネット世代のセンセーショナリズムといった問題があるようだ。
◆「敵」失い・政権に失望…背景に「むなしさ」
「諸君!」は6月号から内田博人編集長に交代、7月号の「激論『従軍慰安婦』置き去りにされた真実」で、常連の現代史家、秦郁彦氏の討論相手に大沼保昭氏と荒井信一氏を起用して読者を驚かせた。大沼氏はアジア女性基金による補償事業を進めた中心人物。荒井氏も元慰安婦への公式謝罪と個人補償を日本政府に求める活動を続けている。8月号でも元朝日新聞記者の国正武重氏と日本経済新聞客員コラムニストの田勢康弘氏が、特集「安倍政権、墜落す!」に顔をそろえた。
「テーマも起用する論客の幅もかなり狭くなっていた。左右にとらわれず、声をかけたい」。内田編集長はそう説明する。
同誌の05年9月?06年8月の発行部数は平均約8万2000部(日本雑誌協会の印刷証明付き)で、3年間ほぼ同じ。01年の小泉首相の靖国参拝や02年の拉致問題では「こんなに売れるのかと思うほど好調だったが元に戻った」という。
トラブルもあった。水谷三公・国学院大教授は、2月号の寄稿で編集部がつけた「姜尚中がタレ流す『空疎な修辞』」というタイトルがマナーを欠くと、翌月の投稿欄で批判した。「自分で自分の足を引っ張っている、と申しあげた」(水谷教授)。かつて北朝鮮の拉致を非難して「殺(や)ったな!!」(02年11月号)と叫んだ激しいタイトルは、このところ影を潜めている。
ひところの勢いがないのは「正論」も同じ。発行部数8万7000部(同)は、前年から6000部減。同編集部によるとピークは02年で、約2万部落ちたという。
同誌は有力な保守論客を幅広く巻き込んだ「つくる会」の活動を、97年の発足当初から手厚く紹介してきた。教科書づくりから検定の通過へ至る運動の展開期は連動して部数も伸びた。だが、01年の同時多発テロ後、反米を鮮明にした西部邁氏と小林よしのり氏、親米の西尾幹二氏らが誌上で激しく対立すると、西部、小林氏は会を脱退する。その後も運動方針をめぐって内紛や分裂が続く状況だ。同誌の現在の立場は「(つくる会には)論評せず」だが、昨秋就任した上島嘉郎編集長は、一般論としてこういう。「自戒しているのは、運動との接点を持ちすぎると、論壇誌が腐る可能性があることです」
同誌は最近、新機軸を模索し、反米保守的な主張を強めつつある。7月には誌面から遠ざかっていた小林よしのり氏を起用し、グローバル化を批判する別冊「“世界標準”は日本人を幸福にしない」も出した。
こうした動きを尻目に急速に存在感を増すのが05年1月創刊の「WiLL(ウィル)」(ワック・マガジンズ)だ。編集部の話では、創刊当初より2万部多い6万?7万部を実売する。売りはネット世代の若者にも読みやすいコンパクトな構成と過激さだ。6月号の表紙は「温家宝の笑顔に反吐(へど)」との見出しが躍った。「主義主張じゃない。僕が面白いと思うことをやる」と花田紀凱編集長。
この状況をどう読み解くか。若手保守論客の一人、八木秀次・高崎経済大教授によれば、いまの保守論壇には「何を言っても無駄」というむなしさが漂っているという。従来の保守に飽き足らない層の「期待の星」だった安倍首相は、「自分たちが誕生させたと思っていた」。だが、「拉致も靖国も成果が出ない。逆方向へ行っている」。
ある論壇誌の編集長は、その不満がしにせ2誌に行き詰まり感を生み、一部がネットや「WiLL」に流れている――とみる。
櫻田淳・東洋学園大准教授は、保守論壇は「堕落」したという。「ファナティックで定型的で、昔、左翼知識人が言っていた『帝国主義打倒』の逆です」。保守と目されてきた自身は、日本の非核武装を説いたら「左傾」と言われ、馬鹿らしくなって論壇から少し距離をおいた。だから「諸君!」の新路線は定型を崩す一歩かもしれないと期待している。