イラク政府は、バグダッド市内の銃撃戦で市民11人を殺害したことを理由に、アメリカの民間軍事会社にたいし国内での活動停止を命令。
ヘリコプターからバグダッド中心部を査察する米民間軍事会社「ブラックウォーター(Blackwater)」の職員(2005年2月5日撮影)。【AFP/MARWAN NAAMANI】
新聞などでは「民間警備会社」と言っているところもあるが、AFPBB Newsの写真を見れば、実態が「民間軍事会社」にほかならないことが分かる。
米民間軍事会社大手、イラクで活動停止・治安に影響も(NIKKEI NET)
米民間軍事会社大手、イラクで活動停止・治安に影響も
[NIKKEI NET 2007/09/18 18:11]【カイロ=安部健太郎】イラク内務省は17日、米国の民間軍事会社大手のブラックウォーターに対し、イラク国内での活動停止を命じた。同省報道官が日本経済新聞に明らかにした。前日にバグダッドで起きた銃撃戦の際に市民ら11人を殺害したためとしている。同社はイラクで民間人護衛のほか基地警備にも当たっており、活動停止により治安面で影響が広がる可能性がある。
イラクでは民間軍事会社が約60社、合計で約2万人(2005年時点)が活動しているとされる。要人の護衛や警備にとどまらず、米軍の燃料や弾薬の運搬、イラク軍の訓練などにも従事しており、事実上、米軍の軍事活動と一体化した面が強い。
イラク政府、米民間軍事会社の事業許可を取り消し(AFPBB News)
「軍事の民間委託」が進む理由と背後に潜む危険性(AFPBB News)
ゲーツ米国防長官、米民間軍事会社を調査へ(AFPBB News)
イラク政府、米民間軍事会社の事業許可を取り消し
[AFPBB News 2007年09月18日 01:45 発信地:バグダッド/イラク]【9月18日 AFP】イラク政府は17日、首都バグダッドで16日に発生し8人が死亡した銃撃戦で、米民間軍事会社「ブラックウォーター(Blackwater)」が派遣した職員が関与していたことを受け、同社のイラク国内での事業許可取り消しを命じた。
同社はイラク国内で活動する米民間人に個人警備のサービスを提供している。
内務省作戦指揮官のAbdel Karim Khalaf准将はAFPに対し、「ジャワド・ボラニ(Jawad al-Bolani)内相はブラックウォーター社の業務許可取り消しを命じ、同社はイラク全土での活動を禁止された」と明らかにした。また、「銃撃戦の犯行グループの捜査を開始した」とも付け加えた。
銃撃戦はバグダッドのAl-Yarmukh付近で発生。米外交官らが乗った車列が巻き込まれ、少なくとも8人が死亡、13人が負傷した。
ヌーリ・マリキ(Nuri al-Maliki)首相は銃撃戦に関して、同社から派遣され、車列を警護していた護衛が「犯罪的」対応をしたとして非難。一方、米大使館側は、反政府勢力から襲撃を受けたためと主張している。
この件に関してブラックウォーター側からコメントは発表されていない。また、在イラク米大使館のMirembe Nantongo報道官は、ブラックウォーターの業務許可取り消しについては確認できていないと述べている。
「軍事の民間委託」が進む理由と背後に潜む危険性
[AFPBB News 2007年09月18日 19:42 発信地:ワシントンD.C./米国]【9月18日 AFP】米民間軍事会社「ブラックウォーター(Blackwater)」のイラク国内での事業許可が剥奪されたことで、このような民間軍事会社の活動に注目が集まっている。
イラク政府は17日、首都バグダッド(Baghdad)で16日に発生し8人が死亡した銃撃戦に、同社が派遣した職員が関与していたとして事業許可を取り消した。
軍事の民間委託は増加傾向にあり、議論を呼んでいる。
これに対し民間軍事会社は、内紛で分裂したり、対立からの回復状態にあったりする地域で必要不可欠な物資やサービス、警護を提供しているだけだと主張する。民間軍事ビジネスは推計1000億ドル(約11兆5000億円)規模の市場とみられている。
イラクはこの「儲かるビジネス」の中心地であり、主な顧客は米国だ。
ブラックウォーターはイラクで民間軍事ビジネスを展開する主要企業の1つで、米政府当局者らを警護する業務を請け負っている。
イラクにはこうした民間軍事契約者が10万人以上いる。活動内容は、米軍基地への簡易トイレの提供から、現金輸送の護衛、当局者の警護など多岐にわたるが、大部分は物流関連活動に従事している。
米ブルッキングス研究所(Brookings Institution)の専門家ピーター・シンガー(Peter Singer)氏によると、戦術行動にかかわっているのは2万-4万8000人で、これはイラクに駐留する米軍主導の多国籍軍の合計兵数を上回る。
民間軍事会社は、必要なサービスを軍より安価で提供できると胸を張る。
米軍事シンクタンクGlobalSecurity.orgのジョン・パイク(John Pike)所長は、民間軍事会社の職員が軍と同様の制約下で働いていないことが強みになりうると分析する。
「彼らの給与が高いのは、周辺住民を巻き込むことなく対象を殺害できるからだ」「彼らは殺し屋だ。普通の兵士とは違う」
ただ、このような軍の指揮系統から外れた独立性を米政府は懸念する。
米政府監査院(Government Accountability Office、GAO)は前年発表の報告で、「個人警護サービス提供者は米国軍との調整なしに戦場に入り続けている。その結果、両者が負傷する危険性が高まっている」と指摘している。
危険性が高い一方で、給与が高いのも事実だ。これまでに推計1000人の民間軍事契約者がイラクで犠牲になっているが、給与は途上国の一般的な賃金はもちろん、米国陸軍職員の給与も大幅に上回る。
シンガー氏は「金儲けのために戦場に入るという動きにより、新たな可能性が大きく切り開かれた。その一方で、民主主義、倫理、管理、法律、人権、国内外の治安といった一連の難しい問題も浮上している」と指摘する。
ブラックウォーターによると、職員の給与は日額450-600ドル(約5万-7万円)程度だという。
民間軍事会社は通常、活動内容を説明する際に「傭兵」という言葉を使うことを敬遠する。
イラクが最も大きく顕在化した市場である一方、アフガニスタンの警察部隊の訓練、レバノンの地雷除去、コロンビアの反政府地域での麻薬撲滅活動など、世界中で活動を展開する民間軍事会社も多数ある。
シンガー氏は軍事の民間委託の流れは米国陸軍のイデオロギーに変化を与え、1980年代の「民営化革命」に弾みを与えたと指摘する。
一方、パイク氏は「米国が徴兵制をとっていた頃は、兵力は豊富で安価だった。現在のプロの軍人は高価だ」とし、米国がベトナム戦争に派遣する若い兵士の徴兵を廃止した1973年以降、状況が変化したと述べた。
ゲーツ米国防長官、米民間軍事会社を調査へ
[AFPBB News 2007年09月19日 08:19 発信地:ワシントン/米国]【9月19日 AFP】ロバート・ゲーツ(Robert Gates)米国防長官の報道官は18日、バグダッド(Baghdad)で10人が死亡した銃撃戦に米民間軍事会社が関与していた件を受け、イラク国内での民間軍事会社の活動について調査をすることを明らかにした。
16日の銃撃戦に関与していたとされる民間軍事会社「ブラックウォーター(Blackwater)」は、国防総省ではなく国務省の下で業務を行っていた。
イラクでは、同様の民間軍事会社が多数、同国駐留米軍の下で業務を行っているが、その数は定かではない。
国防総省の報道官によると、ゲーツ長官は「民間軍事会社が何をして、どのような交戦規定に基づいていて、どのような制限があるのか。つまり米軍がどの程度民間軍事会社に依存しているのか」についての検証をすすめる考えを明らかにした。
国防総省は現在のところ、契約のプロセスが統一されていないため、イラク駐留米軍と契約する民間軍事会社職員の数や任務は把握していないという。
民間組織である以上、これら警備会社に「交戦規定」にもとづく権限などあるはずもなし。