1969年の沖縄返還交渉で、返還後も米軍の核兵器持ち込みを認める「密約」の存在に直接言及したキッシンジャー大統領補佐官のメモが見つかりました。
これまでも、「密約」の存在は、キッシンジャー氏が回顧録で言及し、1994年には、沖縄返還交渉で佐藤首相(当時)の密使として交渉に当たった若泉敬氏が『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』で公表していました。また、「核密約」全体については、日本共産党の不破哲三前議長が国会議員時代に米公文書などの資料も示して追及しています。その意味でいえば、「核密約」はもはや疑いようのない事実となっているのですが、日本政府はいまだに否認し続けています。
72年沖縄返還時、「核密約」示す米公文書を発見(読売新聞)
核密約明示の米公文書発見=沖縄返還時、「秘密の合意」?69年、大統領あてメモ(時事通信)
72年沖縄返還時、「核密約」示す米公文書を発見
[2007年10月7日3時1分 読売新聞]1972年の沖縄返還後に、米軍が有事に際し核を持ち込むことを認めた「密約」が、69年11月に当時の佐藤栄作首相とニクソン米大統領の間で行われた首脳会談で取り交わされていたことを裏付ける米政府の公文書が6日、見つかった。
密約については、佐藤首相の私的な密使として対米交渉にあたったとされる京都産業大教授の若泉敬氏(故人)が著書で明らかにしていたが、日本政府は存在を否定している。密約の存在が米側の公文書で初めて明示的に裏付けられたことになる。
密約に関する秘密交渉について明示していたのは、1969年11月12日付と同13日付の大統領へのメモ。表題は「沖縄返還後の米国の核持ち込みと繊維問題に関する秘密交渉」で、「核抜き・本土並み」の沖縄返還を決めた同月19日からの日米首脳会談に先立ち、当時のキッシンジャー大統領補佐官が、首脳会談の進め方を説明する資料としてニクソン大統領に渡した。
このメモは2005年に機密指定が解除されており、日本大学法学部の信夫隆司(しのぶ・たかし)教授(日米外交史)が、米国立公文書館から入手した。
メモは、沖縄返還に際し、最大の懸案だった繊維と核の問題に絞られている。
キッシンジャー氏は12日付のメモで、日米間の密約を示す「共同声明の秘密の覚書」が存在していることに触れたうえで、覚書が「核問題」に関するものであることを明らかにしている。
また、「返還後の沖縄への核兵器持ち込みと繊維問題に関する秘密の日米合意に基づき、佐藤首相とあなた(ニクソン大統領)は次のような戦略をとる」などと、首脳会談の進め方を説明。「日本政府は覚書を最終的に受け入れることを了解している」としている。
キッシンジャー氏と若泉氏は、沖縄返還後の米軍の核兵器の扱いについて交渉を続けており、これらのメモは若泉氏との協議を受け、大統領に報告されたと見られる。
13日付のメモでは、秘密交渉にあたっていた若泉氏が「ヨシダ」の偽名で登場、「昨日午後、私(キッシンジャー氏)がヨシダ氏と最終的な会談を行い合意した」と記されている。
12日のメモは、若泉氏が著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(94年刊行、文芸春秋)に掲載した文書とほぼ同内容。
同書では、両首脳が会談後、二人きりで大統領執務室の隣の小部屋に入り、「核問題を扱った秘密の覚書」に署名する段取りを示した部分がある。
しかし、覚書そのものは、米側文書では非開示の扱いで、今回の公文書では、密約の“存在”だけが証明された。
信夫教授は、「日本の安全保障政策をしっかりと考えるうえでも、政府も国民に適切な情報を開示すべきだ」と話している。
核密約明示の米公文書発見=沖縄返還時、「秘密の合意」?69年、大統領あてメモ
[時事通信 2007/10/07-02:34]【ワシントン6日時事】1972年の沖縄返還後に米軍が核兵器を再び持ち込むことを認めた日米間の密約締結を示す公文書が6日までに発見された。この問題を担当した当時のキッシンジャー大統領補佐官がニクソン大統領あてに書いたメモなどで、核密約を明示した交渉当事者の公文書が発見されたのは初めて。密約の存在について否定を続ける日本政府に対して決定的な証拠が突き付けられた格好だ。
見つかったのは、最近機密指定を解除された69年11月12、13日付のメモなど。日本大学の信夫隆司教授(日米外交史)が今年8月に米国立公文書館で発見した。
佐藤栄作首相の密使として派遣された若泉敬氏(当時京都産業大学教授、故人)が94年に出版した「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(文芸春秋刊)によると、69年11月19日からの日米首脳会談を前に、若泉氏と同補佐官は沖縄から撤去される米国の核兵器を再び持ち込むための方策と摩擦になっていた繊維問題について交渉を続けていた。両日のメモは若泉氏との話し合いを踏まえた大統領への報告になっている。
メモの表題は「沖縄返還後の米国の核持ち込みと繊維問題に関する日本との秘密交渉」。この中で、キッシンジャー補佐官は首脳会談の進め方を記した日米間の「申し合わせ」について、「沖縄への核兵器持ち込みに関する秘密の日米合意に伴う佐藤首相とあなた(大統領)の台本となるべきゲームプランだ」と説明している。密約を意味する「共同声明の秘密議事録」という表現も使用された。
【追記】
信夫教授は、今年6月にも、米国立公文書館で、「核密約」の存在を裏づけるキッシンジャー大統領補佐官の通話記録などの資料を発見されています。