日雇い派遣労働者の5割が「今のままでいい」と思っている?!

共産党の佐々木憲昭議員の衆議院予算委員会での質問を読んでいたら、厚生労働大臣が次のような答弁をしているのに気がつきました。

 厚労相 非正規の労働者にアンケートをやってみると、正社員になりたいというのは3割、今のままでいいというのが5割、今後も派遣労働者のままがいいというのも3割いて、なかなかニーズが一概に言えません。

非正規で働きながら、正社員になりたいという人が3割しかいない、「今のままでいい」という人が5割りもいるというのはどういうことだろう? と思って調べてみました。

そうすると、まず分かったのは、この数字は、厚生労働省が8月に発表した「日雇い派遣労働者の実態に関する調査及び住居喪失不安定就労者の実態に関する調査の概要」によるものだ、ということです。同報告書の10ページに、次のように書かれています ((ただし、「今後も派遣労働者のままがいいというのも3割」というのに該当する数字は出てきません。ひょっとして、「派遣労働者(1ヶ月以上)」3.2%というのを32%と間違えたんでしょうか。実際、3割+5割+3割では100%を超えてしまいます。))。

7 今後の希望する就業形態
 今後、どのような雇用形態で働きたいかついては、「現在のままでよい」が45.7%と最も多く、次いで「正社員」が29.6%、「パート・アルバイト」が8.2%、「派遣労働者(1ヶ月以上の有期)」が3.2%、「契約社員」が2.8%となっている。

しかし、これから“なるほど、正社員になりたいという人は意外に少ないんだなぁ”と納得したら、とんでもない話です。

この調査は、短期派遣労働者(日雇い派遣など1ヶ月未満の雇用契約で働く派遣労働者)を対象としたものですが、その内訳を見ると、次のようになっています。

現在の状況については、「主に仕事をしている(短期派遣のみ)」が53.2%と最も多く、「主に仕事をしている(短期派遣以外にも、正社員・自営業など、主たる職業がある)」が25.5%、「主に学生」が13.2%、「主に主婦」が2.9%となっています(同、8ページ)。

つまり、「短期派遣のみ」で生活しているという人は53.2%だけで、それ以外の約47%は、他に仕事を持っていたり、学生や主婦だったりする訳です。これらの人にたいして区別なく、「今後、正社員になりたいですか?」と質問すれば、他に仕事を持っていたり、学生だったりする人は、おそらく「正社員になりたい」とは答えないでしょう(主婦の場合は、どちらもありうるでしょうが)。短期派遣を選んだ理由として、47.8%の人が「働く日時を選べて便利であるため」と答えているのも、他に仕事を持っていたり、学生だったりすれば、なるほど納得がゆきます。

最初の疑問にかえると、つまり、もともとアルバイト感覚で自分の都合のよいときにちょこっと仕事ができればいいと思って「日雇い派遣」に登録している人を半分近く含んだ人たちを対象としたアンケート調査なのですから、「今後の就業形態」についての回答で、「現在のままでよい」が45.7%を占めるのも、ある意味当然だということです。

しかし、いまワーキングプアとして問題になっているのは、そうではない人たちです。この調査で言えば、「短期派遣のみ」で生活をしている53%の人たちの生活がどうなっているか、この人たちが「今後の就業形態」として何を望んでいるか、が問題なはずです。だとしたら、そういう人たちが「今後の就業形態」について何を望んでいるか、について、「今のままでいいが5割」などと思ったら、とんでもないことです。

そういう目で、この調査を読み返してみると、次のようなデータがありました。

それは、短期派遣で働いている理由別の「今後の就業形態」の希望の割合を示した表です(同、11ページ)。それによると――

  • 短期派遣で働いている理由として「正社員としての就職先が見つかるまでのつなぎとして」(全体の24.7%)をあげた人の場合、男性の81.6%、女性の59.5%が「正社員」を希望し、
  • 「正社員で就職できないため」(全体の8.1%)をあげた人の場合、男性で69.7%が「今後の就業形態」として「正社員」を希望しています ((女性の場合は、「正社員で就職できないため」のうち、41.7%が「現在のままでよい」と回答していて、正社員希望の16.7%を大きく上回っています。これは、男性と違って、女性の場合、少々がんばって職探しを続けたとしても、なかなか正社員になれる見込みがないということが反映しているように思います。))。
  • それにたいして、「正社員としての就職先が見つかるまでのつなぎとして」と回答した人のうち「現在のままでよい」と回答した人は、男性13.6%、女性18.9%しかありません。

ですから、厚生労働大臣の「今のままでいいというのが5割いて、なかなかニーズが一概に言えない」という答弁は、統計の解釈として不正確であり、そうした誤った認識にもとづいた答弁だということです。

資料は、↓これ。
厚生労働省:日雇い派遣労働者の実態に関する調査及び住居喪失不安定就労者の実態に関する調査の概要
↑このうちの「日雇い派遣労働者の実体に関する調査結果報告書」の8?12ページの部分をPDFで開いてください。

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