経済理論学会の季刊『経済理論』2007年10月号に、金沢大学の伍賀一道氏が「間接雇用は雇用と働き方をどう変えたか」という論文を書いておられます。政府の統計資をつかって、こんにちの「間接雇用」(労働者派遣および、偽装請負を含む労働者供給事業)の実態を明らかにされています。
そのなかで、なるほどと思ったのは、総務省「事業所・企業統計調査」をつかった次の表です。
表1 別経営の事業所からの派遣または下請け従業者数(民営)(単位:1000人)
従業者数(a) 事業従事者数(b) 別経営の事業所への派遣または下請従業者数(C) 別経営の事業所からの派遣または下請け従業者数 実数(d) 構成比(d/b×100) 全産業 1996年 57,583 58,299 1,201 1,917 3.3 2001年 54,913 55,710 1,361 2,158 3.9 2006年 54,338 55,387 1,769 2,818 5.1 製造業 1996年 12,922 13,101 310 489 3.7 2001年 11,126 11,420 339 633 5.5 2006年 9,912 10,662 278 1,028 9.6 注:「事業従事者数」は次のとおり算出した。b=a-c+d
出所:総務省「事業所・企業統計調査報告」(各年版)より作成。
で、何が興味深いかというと、この表の「別経営の事業所への派遣・下請従業者数」(c)と「別経営の事業所からの派遣・下請従業者数」(d)という2つの数字です。「全産業」でいえば、この2つの数字は一致するはずです。同じ人数を、別経営の事業所に送り出した側と受け入れ側でみている訳ですから、一致して当然です。
ところが、表を見て明らかなように、2つの数字はまったく合っていません。1996年で約72万人、2001年には79万人、2006年には100万人以上も、「別経営の事業者からの派遣・下請従業者数」(d)の方が多いのです。
これは一体何を意味するのでしょうか? 「別経営の事業所からの派遣・下請従業者」のうち、約100万人が、送り出した側の事業所の記録が存在しない、というわけです。なんとも怪しい話です。
もちろん、食い違いのなかには、個人での業務請負が含まれると考えられますが、それだけで100万人もの食い違いが説明つくとは思われません。そうなると、雇用主がはっきりしない正体不明の労働者がそれだけいる、ということになります。
で、その正体は何かと考えたら、いちばん考えられるのは、「偽装請負」ではないでしょうか。業務を請け負った側(請負会社)は、自分の会社の指揮・監督の下で働かせている、という格好でないといけないので、それを「別経営の事業所への派遣・下請従業者」には含めない。しかし、実際にその労働者が働かされている事業所側からいえば、自分のところの社員ではないのだから、当然、「別経営の事業所からの派遣・下請従業者」に含めることになります。そこで生じた齟齬、これが雇い主不明の労働者100万人の正体だ、ということです。