読売新聞が「日本の貧困対策の現状と課題」を特集

少し古くなってしまいましたが、読売新聞が11/7付で、日本の貧困対策の現状と課題について特集記事を載せています。

ワーキングプア・ネットカフェ難民…貧困拡大 見えぬ実態(読売新聞)

ワーキングプア・ネットカフェ難民…貧困拡大 見えぬ実態
[2007年11月7日 読売新聞]

 ワーキングプア、ネットカフェ難民――。格差社会の広がりとともに、生活に困窮する貧困層が浮かびあがってきた。生活保護世帯も100万を突破した。日本の貧困対策の現状と課題を探った。(社会保障部 阿部文彦、大津和夫)

困窮の多様化

 中小の印刷業者が軒を並べる東京都新宿区の一角にあるアパートの一室。NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」は毎週火曜日、ホームレスやネットカフェを転々とする生活困窮者の相談に応じている。多い日には20人余りが訪れ、電話やメールでの相談も目立つ。「この6年ほどで、件数は2倍以上になり、相談の幅も広がっている」と、湯浅誠事務局長は話す。
 もともとはホームレスの支援を目的にしていたが、フリーターなど、相談者は多様さを増してきた。最近増えているのが、「子どもは無職だが、親の退職が近づき、もう養えない」といった、家族そろっての相談だ。「団塊の世代が高齢化し、フリーターとなった子ども世代を養えなくなると、家庭というダムに守られていた貧困層が社会にあふれ出すおそれがある」。湯浅事務局長は増殖する貧困に警鐘を鳴らす。
 こうした貧困の実態はすでに数字で裏付けられている。昨年7月に経済協力開発機構(OECD)が公表した「対日経済審査報告書」では、2000年の相対的貧困率は13.5%で、アメリカに次いで2位だった。

相対的貧困率ワースト5

 「日本は所得分配率が高く、みなが中流という神話はすでに過去のものなのだという真実を人々に突きつけた」と、高木郁朗・日本女子大名誉教授(社会政策論)は指摘する。

 相対的貧困率 所得の高い人と低い人を並べた場合に、ちょうど真ん中になる人の所得からみて、50%以下の所得を貧困ラインとして設定し、それ以下の人の割合。貧困ラインには、健康で文化的な生活を送るのに必要な最低額を割り出す、絶対的貧困という概念もある。国・地域によって物価や文化が異なるため、国際比較では相対的貧困が用いられる。

基準あいまい

 昭和戦争後、国民の多くは食うや食わずの生活を強いられた。しかし、高度成長を迎えるとともに「頑張れば、豊かになれる」といった中流意識が、貧困をいつしか遠いものにした。ところが1990年代前半のバブル崩壊後、60万前後を推移していた生活保護世帯は99年度に70万を、01年度には80万を突破、06年度には約108万で過去最高を記録した。
 90年代後半までは、10%前後だった、貯蓄が全くない無貯金世帯も、06年には22.9%に跳ね上がった。
 生活保護世帯の4割強は高齢者で、貧困層は高齢者に偏っていると思われがちだ。しかし、日本では、非正社員の増加や不安定な生活を強いられる若者の問題も深刻化している。「政府はこうした事実を直視せず、実態さえわからない。見えない貧困こそが問題だ」と、駒村康平・慶大教授(社会政策論)は話す。
 貧困対策が遅れている第一の理由は、貧困状態にある層を把握する手段がないことだ。欧米諸国では、独自の貧困基準を設けている。例えば、欧州連合(EU)は、その国の平均的な所得の60%以下を貧困ラインとして設定し、随時公表。貧困対策の基礎資料にしている。しかし、日本は明確な貧困基準が設定されていない。
 駒村教授は「具体的なデータをもとに、人生のどの段階で貧困に陥りやすいのか、何が貧困の原因になるのかを調べ、対策を講じるべきだ」と話す。
 貧困対策として我が国では生活保護制度があるが、その限界を指摘する声も根強い。生活保護は、働ける現役層への適用が厳しい。実際には、リストラなどで離職したり、転職を繰り返したりして、生活苦に陥るケースも少なくないが、働けることを理由に、生活保護が適用されないケースが目立つからだ。
 省ごとの縦割り対策への批判も多い。例えば、福祉事務所とハローワークなどとの連携は十分ではなく、非効率だ。一体的な体制が整っていれば、生活保護の受給や職業紹介など、その人の状況に合わせた適切な支援が可能になる。

包括的対策を

 貧困対策の最大の課題は、生活保護世帯の外側に存在する、保護ぎりぎりの層への支援が欠如していることだ。岩田正美・日本女子大教授(社会福祉学)は「貧困の背景には、本来の社会的なネットワークからはずれてしまう社会的な排除がある。目に見えない貧困層を支援するには、きめ細かい対策を講じ、排除防止を目指すべきだ」と論じる。
 社会的排除とは、企業、学校、家族などとのつながりが薄く、社会から孤立しがちな状態を指し、欧州では貧困対策の根本問題として位置付けられている。日本で新たな貧困層としてクローズアップされている、ワーキングプアの若者の場合、低収入で、企業などの住宅補助もないため、アパートも借りられないケースも。社会保険にも未加入で、最悪の場合、医療機関での受診もできない。
 どこの国も、自国の貧困率が高く報道されることを好まない。政府の政策が失敗しているとの烙印(らくいん)を押されるのを嫌うからだ。
 しかし、貧困層の拡大で、社会の階層化が進むほか、生活保護などの人数が増え、社会保障費が増大する。また、国内市場を支えていた分厚い中流層の崩壊による、日本企業の国際競争力低下も懸念される。
 「一人一人が自助努力をするのを助ける」という、従来型の就労支援には限界がある。包括的な貧困対策の再構築が急務だ。

欧州では 「社会的排除」の根絶図る

 「私たちの目標は欧州で社会的排除の問題を根絶させることだ」――。欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会のウラジミール・シュピドラ委員(雇用・社会問題・均等問題担当)は今年5月、ベルギーのブリュッセルで開かれた「貧困と社会的排除への取り組み」と題した会合で、こう強調した。
 この会合は01年から同委員会が毎年、関係者を集めて開いている。同様の会議は各地で開かれており、「社会的排除」という言葉は欧州で浸透している。
 欧州でこの言葉が使われ始めたのは、80年代後半。経済構造の変化に伴って不安定雇用者が増える一方、財政難で手当中心の支援の実効性を疑問視する声が強まったことが背景にある。
 欧州委員会などによると、各国の支援内容は多岐にわたる。就労面では、イギリスは失業中の若者らを専門職員が家やたまり場に出向くなどして接触を図り、職業訓練や学歴を身につけるなど個別の計画を立てる。ベルギーは一定以上の若者を雇うことを企業に義務づけている。住宅面では、フランスには20代の失業中の若者が民間の賃貸住宅に入居できるよう保証金などを払う仕組みがある。このほか、ドイツでは、自治体の財政支援を受けた独立の借金相談機関が約1000か所あるという。
 同委員会の雇用・社会問題・機会均等総局のカタリーナ・リンドハル課長補佐は、「社会的排除は複合的な要因がある。就労支援だけでなく、教育、住宅、健康など幅広い支援を提供していくことが欠かせない」と話している。

[プラスα]生活保護の申請は

 生活に困った時に、頼りになるのが、生活保護制度だ。本人の資産、能力などをすべて活用しても、生活に困窮している人が対象。
 窓口は各地の福祉事務所だが、弁護士らでつくる「生活保護問題対策全国会議」(http://seihokaigi.com/default.aspx)の小久保哲郎弁護士は、「『借金があるから』、『年齢制限があるから』などと不当な理由で事務所から追い返されるケースもある」と指摘。「適切な情報を把握し、あきらめず申請してほしい」と話している。生活保護に関する相談窓口は、次の通り。

 ▽「全国一斉生活保護110番」11月8日を中心に各地の弁護士会事務所で実施。各事務所の連絡先は、日弁連ホームページ(http://www.nichibenren.or.jp/)で確認できる。日弁連人権部人権第1課(電)03-3580-9504。
 ▽「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」((電)048-866-5040。平日午前10時から午後5時まで。ホームページは、http://www.seiho-law.net/

3つの提案

  • 政府は貧困基準を作り、実態の把握を
  • 福祉と就労などの連携で適切な支援を
  • 貧困につながる社会的排除を防ごう

読売新聞が「日本の貧困対策の現状と課題」を特集」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 村野瀬玲奈の秘書課広報室

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