さて、ヘーゲルの続きです。

次は、「予備概念」。ここは、始めて読む人にはちょっと難しいかも知れません。僕も初めて『小論理学』を読んだときは、さっぱり分からないので途中からあっさり全部すっ飛ばしてしまいました。

しかし、あらためて読んでみると、非常に当たり前のことが書かれていて、なるほどと納得してしまいました。(^_^;)

第19節。ヘーゲルはまず「論理学は純粋な理念にかんする学」であると宣言しています。こういうふうに言われると難しいのですが、注釈で次のように書かれています。

理念は、形式的な思惟としての思惟ではなく、思惟に固有の諸規定および諸法則の発展する全体としての思惟であり、そして思惟はこのような全体を自ら作り出すのであって、すでにそれを所有しそれを自己のうちに見いだしているのではない。(95ページ)

この場合、理念=真理と考えてよいと思いますが、真理というのは、どこかに真理というものがあって、それを所有していたり、それを見つけ出したりすればそれで終わり、ということではなく、思考によって、「発展する全体」としての真理を自分で作り出さなければいけない、ということです。

それから、ヘーゲルは、「論理学の効用」ということを言っています(96ページ)。1つは、思考の訓練。もう1つは、「思想を、しかも思想として頭に入れること」。しかしヘーゲルは、こういうふうに言ったうえで、「しかし論理は真理の絶対的な形式」だから、論理学を学ぶというのは「単に役立つもの」というようなものではない、と指摘。

論理学というのは真理の認識そのものだ、というのはヘーゲルの一貫した立場。しかし、真理というのは、どこかにころっと存在していて、それを見つけさえすれば何でも解決する、というようなものではない。真理というのは、多様で複雑で、さまざまな側面を持ち、発展するものなのだから、筋道だって思考することによってしか認識することができない。これがヘーゲルの立場。だから、真理を認識するためには、筋道だったものごとの見方、とらえ方、考え方をちゃんと踏まえる必要がある、それが論理学だということです。

次に「補遺」ですが、補遺1で、ヘーゲルは、真理を認識するということにたいするいくつかの態度を問題にしています。

1つめは、われわれは真理を認識できるのか、という問題です。有限な存在である人間が、無限の真理を認識することは可能なのか? 有限なものと無限なものは、どうやったら結びつくことができるのか? という疑問です。

そこから、「真理にたいする卑下」が生じます。すなわち、「無限の真理は、自分のような人間の認識を超えたものである」といって、真理の前にへりくだるように見せかけて、実は、「だから、真理など認識できない。無限の真理などということを考えても仕方ない」として、「有限な目的の卑小さのうちに日を送る」ことを合理化する態度です。このような「卑下」は、なにか謙遜しているようにみせかけて、実は「くだらぬもの」だということです(97ページ)。

それにたいして、今度は、自分は「直接に真理のうちにいる」と思い込む「自惚れと妄想」の態度です。これは、要するに一種の神秘主義。真理というのは、理屈で考えたり、研究したりして分かるものではなく、直接的に体感するもの、ある日突然「分かる」ものだという態度です。宗教では、「発心」とか「回心」とか言われるものでしょうか。「経営の神様」などという場合も、これに近いかも知れません。社会的に未熟な人が、ある種の非常に強烈な体験をしたりすると、何か分かったような気がすることがあります。そこから、科学的な世界観にすすんでいくのであればよいのですが、強烈な体験にとらわれてしまうと、ヘーゲルの言う「自惚れと妄想」におちいることになります。

ヘーゲルは、「自惚れと妄想」の場合、「真理の認識」を妨げているのは「すでに真理を絶対的に所有しているという確信」だと言っています。「オレには分かっている」と思ったら、もはや真理には到達できない、ということです。

さらにヘーゲルは、「真理にたいする卑下」のもう1つの形として、「ピラトのキリストにたいする態度にみられるような、真理にたいする上品な無関心」を上げています。ピラトというのは、ローマ帝国のユダヤ総督で、ユダヤ教徒の圧力に屈してキリストを十字架刑に処した人物です。

もう1つ、ヘーゲルが上げているのは、真理にたいする「臆病」です。よく「私は別に哲学を専門にやる訳じゃないので…」と言ったりしますが、ヘーゲルは、こういう態度では、「さまざまな技能や知識を身につけたり、有能な官吏となったり」することはできるかも知れないが、「精神をいっそう高いもの」にすることはできないと批判しています。

ということで、第19節はとりあえずここまで。

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