地球温暖化の問題は、現在、バリで「京都議定書」に代わる新しい枠組み作りが話し合われています。そのなかで、目立つのは、アメリカの消極姿勢と、それに追随する日本。同じ資本主義国でもヨーロッパ諸国とは大きな違いです。
先日、終わった研究講座では、講師から、いまの世界がどこを見ても出来合いの答えのない問題に直面している、それに答えを出す能力と可能性を持っているのは科学的社会主義だ、と力強い訴えがありました。その中では、現在の資本主義が直面する体制的な矛盾として、従来からの周期的な恐慌・不況という問題に加え、地球温暖化の問題が予想以上に深刻な問題になっている、しかも54億の人口がこれから文明化の道を進もうというとき、発達した資本主義国はCO2のより大幅な削減に踏み切らざるをえない、そうなったとき、問題は資本主義がそれに耐えられるかどうかだ、という問題提起がありました。
実際、ヨーロッパ資本主義は、それなりに削減にとりくみ実績も上げていますが、アメリカ、日本の資本主義はこの点で明らかに失格。21世紀の世界をこのまま資本主義にゆだねていてよいのかどうか、資本主義の是非が問われる問題です(もちろん、社会主義をめざす国の側でも、環境問題で資本主義に代わる発展の型を示すことができるかどうかが問われています)。
さて、その点で、今朝の毎日新聞におもしろい記事が。安倍前首相が唐突に打ち出した「美しい星50」計画。私も、この計画がいかに欺瞞的なものか指摘してきましたが、毎日新聞の記事では、その環境外交がいかに「場当たり的」なものか、明らかにされています。
暖かな破局:第1部・温暖化の政治経済学/3 日本の「場当たり的」環境外交(毎日新聞)
暖かな破局:第1部・温暖化の政治経済学/3 日本の「場当たり的」環境外交
[毎日新聞 2007年12月13日 東京朝刊]◇かすむ「美しい星」
来年7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)。最大のテーマは地球温暖化問題だ。ホスト国日本は主導権を握れるのか。
× ×
「よく頑張ってくれたね」。今年6月、独ハイリゲンダムのバルト海を一望するイタリア料理店。サミットを終えた安倍晋三氏(53)は、終始上機嫌で事務官ら約20人をねぎらった。
会議では温室効果ガスの厳しい排出削減義務を求める欧州勢と、消極的な米国が対立した。安倍氏は折衷案として「世界全体で50年に排出半減」を目指す「美しい星50」構想を提案。ブッシュ米大統領は「国内理解が進んでいない」と難色を示したが、「努力目標という認識には立つのですね」と押し切り、「半減を検討する」との合意にこぎつけた。
「私の提案がなかったら決裂していた」。洞爺湖サミットで議長を務める心積もりの安倍氏は冗舌だった。× ×
97年に日本で採択された京都議定書。政府は温室効果ガスを90年比6%減とする目標を受け入れた。まとまらないとホスト国のメンツが立たない。橋本龍太郎首相(当時)が最終決断した。数値は欧州連合や米より緩いが、省エネの進んだ日本には不利といわれた。05年度の日本の排出量は90年度比7.8%増。順調に減らす英独などと対照的で、政財界に「議定書は失敗だった」との声が渦巻く。
内藤正久・日本エネルギー経済研究所理事長は「英国は交渉中の数字をオックスフォード大に送り、妥当性を検討していた。国益と科学的根拠に基づく交渉が必要だ」と言う。
安倍氏が温暖化問題に力を入れたのは、対策に熱心な欧州歴訪後の今年初めからだった。前年末の閣僚辞任などで支持率は低下、側近は「温暖化問題で欧米を仲介すれば得点が稼げる」と助言した。
官房長官ら4閣僚が「50年までに半減」との構想を練った。サミット直前の5月末、安倍氏は自ら名付けた「美しい星」を公表する。「米大統領の一般教書演説のようだ」。官邸は自賛の声に包まれた。
そして、独ハイリゲンダム。半年足らずでまとめた付け焼き刃の「美しい星」構想が、最後にかげった。メルケル独首相が各国首脳を出し抜き単独会見、合意を自らの手柄にしてしまったのだ。議定書交渉にも加わった手だれの環境政治家で、キャリアの違いは明白だった。「やられちゃった」。安倍氏は漏らした。
その後も安倍氏は、洞爺湖サミットのプレスセンターの完全リサイクル化などを目指したが、環境は参院選の争点となりきらず、自民党は惨敗。安倍氏は結局、政権を投げ出した。× ×
福田康夫首相(71)は「美しい星」を踏襲する。10月の参院予算委員会では、排出総量の国内目標を定める意向を示すなど、その実現に意欲を見せる。だが、官邸からは「国会対応で手いっぱい」との声も漏れ、シナリオ作りは進まない。
バリ会議で環境NGOは4日、日本を「温暖化対策に最も消極的な国」に選んだ。「洞爺湖で日本は恥をかく」。外務省幹部は危惧(きぐ)する。【温暖化問題取材班】=つづく
〔追記〕
バリ会議では、日本の消極姿勢が問題になっている。
この会議では、2020年までに先進国が1990年比で25?40%の削減、世界全体では2050年までに50%の削減というのが、今後の気温上昇を2度以内におさえるための条件として提示されている。
2050年までに半減というと、安倍前首相の「美しい星50」計画と同じように聞こえるけれども、日本政府は、この議長提案に反対している。なぜだろうかと思ったら、議長提案は、先進国がより多く削減する(1990年を基準として2020年までに25?40%削減)ことで、世界全体として50%削減の目標を達成しようという仕組みになっているから。途上国にも過大な削減目標を押し付けたうえで、そこに日本から「温暖化ガス削減技術」を持ち込んで、温暖化ガス削減を超過達成し、それを排出権取引で買い取ることで日本は引き続きCO2排出が増えてもやっていける、というのが日本の目論見が、議長提案では成り立たないから。このあたりにも「美しい星50」計画の欺瞞性がはっきりと現われている。
温室効果ガス 先進国 25?40%削減 COP13 議長案、2020年目標(東京新聞)
京都議定書10周年 消極的な日本に失望感も(MSN産経ニュース)
温室効果ガス 先進国 25?40%削減 COP13 議長案、2020年目標
[東京新聞 2007年12月9日 朝刊]【ヌサドゥア(インドネシア・バリ島)=蒲敏哉】国連気候変動枠組み条約の第13回締約国会議(COP13)は8日、ポスト京都議定書に向けた共同議長案が提示された。先進国が2020年までに1990年比で25?40%の温室効果ガスを削減することと、全体で2050年までに2000年比で50%以下の排出抑制を掲げている。同じ趣旨の主張をしている欧州連合(EU)に対し、日米の反発は必至で、12日からの閣僚級会合までに基本的な合意事項が成立するか厳しい情勢となった。
共同議長案の掲げる数値目標は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第4次評価報告書で記した、今後、気温を2度前後の上昇に止めるための“最善”の努力シナリオに基づいている。
日米は、今回の会議では包括的な削減目標までは議論しない方針を固めており「この数値を認めると、国別の削減目標まで議論が広がっていく」と警戒。案文の冒頭に掲げられた数値の除外を求めていくとみられる。
2050年までに半減以下の目標も、近く米国を抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となる中国が、削減義務が生じるとして認めない可能性が高い。
2009年を目標とした「バリロードマップ」に関しては、現在の先進国と途上国の「長期対話」の形を継続する案と、京都議定書を批准した先進国による作業部会と、条約の下、米国、中国を含めたすべての締約国が入った新たな作業部会が並行して協議を進める案、さらにこの2つを統合して協議を進める案の3つの選択肢が提示された。
「バリロードマップ」に基づく最初の会合を、来年6月に開催することも掲げており、7月の北海道洞爺湖サミットに向け、首脳が協議しうる発展的な温暖化対策がこの場で提示できるかが焦点となる。
京都議定書10周年 消極的な日本に失望感も
[MSN産経ニュース 2007.12.12 08:45]【ヌサドゥア(インドネシア・バリ島)=杉浦美香】先進国に温室効果ガス削減義務を定めた京都議定書が採択されて11日、10周年を迎えた。2013年以降の「ポスト京都」の交渉が行われている国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)の会場ではお祝いのさまざまなイベントが行われたが、先進国の温室効果ガスの削減数値目標を明示した議長案に消極的な立場をとる日本の態度に、途上国や環境団体らの間に失望感が広がっている。
「ハッピーバースデー京都」。気候変動枠組み条約事務局の主催で、京都で行われたCOP3当時に全体委員会議長を務めたアルゼンチンのエストラーダ大使らを招いたイベントで、鴨下一郎環境相は、温暖化対策にちなみ、オランウータンや森の絵が飾られた高さ1・5メートルもあるケーキにナイフを入れた。
その一方で、日本政府の評判はかんばしくない。「京都」10周年の会見を行った環境団体グリーンピース・ブラジルの気候変動担当、フルタド氏は「日本は京都の生みの親として京都を誇りに思うべきだが、大事にしていない。残念だ」と話す。12日から始まる閣僚会合のために出席するため一足早く会場を訪れたキューバの科学技術環境副大臣は「日本を含めた先進国は議長案が示す数字よりさらに高い削減目標を掲げる必要がある」と語る。
欧州連合(EU)欧州委員会のディマス委員(環境担当)は「京都議定書は学びの過程だった。次のステップに進むためには先進国がきちんと削減義務を示し、長期目標を示すべきだ」と語り、自国の削減目標を示さない日本政府を暗に批判した。
「京都」が定めた削減義務達成のために汗をかいているのは、今のところ日本と欧州連合(EU)だけだ。温暖化の悪影響をとめるには、ポスト京都では途上国も含んだ削減の枠組みが必要であることでは一致しているが、条件闘争が熾烈になっている。日本は「排出大国の中国がなんらかの責任をおわなければのめない」(政府関係者)とする一方、中国は「先進国がまず削減義務を示すべき」とせめぎ合いを行っている。「京都」は10周年を迎えたが、生みの苦しみは続きそうだ。
COP13で提出された議長案には、「先進国が2020年までに1990年比で25?40%の温室効果ガス削減」という言葉が含まれている。
また、日本のとりくみについてこんな記事も。日本では、中国の環境問題がセンセーショナルに取り上げられているけれども、実際は日本の方がとりくみが遅れているのだ。
温暖化対策実行ランク 日本、42位に急落 NGO調査(朝日新聞)
温暖化対策実行ランク 日本、42位に急落 NGO調査
[asahi.com 2007年12月08日12時26分]バリ島で開かれている国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13)で、環境NGO(非政府組織)が温室効果ガス排出量上位56カ国の「パフォーマンス(実行)」のランキングを発表した。省エネへの取り組みなど「変化」が高く評価された中国が昨年の54位から40位に急浮上した一方、「政策が消極的」とみなされた日本は同26位から42位に急落。順位が逆転した。
順位(昨年) 国名 1(1) スウェーデン 2(3) ドイツ 5(9) インド 8(8) ブラジル 40(54) 中国 42(26) 日本 50(42) ロシア 55(53) 米国 56(56) サウジアラビア ランキングはCOP恒例の関連行事。各国NGOの調査に基づき、ドイツの「ジャーマン・ウオッチ」がまとめた。(1)国民1人当たり排出量などの「水準」(2)エネルギーや運輸など部門別の「傾向」(3)政府の内外に対する「政策」――を指標化し、国際比較した。
その結果、スウェーデンが2年連続の1位。2位ドイツ、3位アイスランドと欧州勢が続き、アジア勢では人口急増で1人当たり排出量が低く抑えられているインドが5位に入った。一方、産油国サウジアラビアは3年連続の最下位。このほか、米国、豪州、カナダなど京都議定書の削減義務に距離を置いてきた国が下位を独占した。
日中の逆転について、ジャーマン・ウオッチのアドバイザーのジャン・ブォーグ氏は「日本は省エネ水準こそ高いが、政策は消極的。中国は省エネをはじめとして政策が前向きになってきた」と説明している。