日雇い派遣は原則禁止を

日雇い派遣の大手グッドウィルの処分で、あらためて日雇い派遣の禁止を求める世論がおこりつつある。新聞でも、原則禁止の要求をかかげるものが出始めた。

毎日新聞は、「日雇い派遣業界の隅々にまで違法行為がはびこっているのではないか」と根本的な疑義を呈して、「労働者保護には直接雇用が原則であることを踏まえれば、日雇い派遣の原則禁止も含め、規制を強化する方向で抜本的に見直すべきだ」と主張。東京新聞(中日新聞)は、昨年末に、「使い捨ては許されない」との社説をかかげ、「違法派遣を受け入れていた企業も処分すべきだ」と指摘。「日雇い派遣の削減に向けた措置」を要求している。京都新聞は、「派遣の対象業務を拡大してきた厚労省の規制緩和の功罪」を「検証すべき」だと主張している。

社説:グッドウィル処分 日雇い派遣のあり方見直せ(毎日新聞)
社説:日雇い派遣 使い捨ては許されない(東京新聞)
社説:労働者違法派遣  規制緩和の功罪見直せ(京都新聞)

社説:グッドウィル処分 日雇い派遣のあり方見直せ
[毎日新聞 2008年1月13日 東京朝刊]

 日雇い派遣業界の隅々にまで違法行為がはびこっているのではないか。そう疑わざるを得ない事態だ。
 業界最大手のグッドウィルが、違法な労働者派遣を繰り返していたとして厚生労働省から事業停止命令と事業改善命令を受けた。昨年8月には業界2位のフルキャストが事業停止などを命じられたばかりだ。各社は業界全体の問題として深刻に受け止め、法令順守を徹底しなければならない。
 グッドウィルは05年にも危険を伴うために労働者派遣法で禁じられている建設業務への派遣で改善命令を受けたのに、同様の派遣を続けていた。派遣先からさらに別の現場に派遣される違法な二重派遣も、知っていながら継続していた。
 二重派遣は労働者に対する企業の責任の所在をあいまいにする。実際に二重派遣された労働者の中には、やはり派遣禁止対象の港湾運送業務に従事させられ、けがをした人もいる。労働者の安全を顧みない違法派遣は決して許されない。
 グッドウィル・グループでは昨年、訪問介護最大手だったコムスンの不正が発覚し、事業撤退を余儀なくされた。不正がグループに蔓延(まんえん)しているとすれば言語道断だ。グループ全体による出直しを求めたい。
 グッドウィルが派遣している労働者は1日平均約3万4000人に上る。厳しい行政処分は当然だが、それによって労働者が路頭に迷うような事態は避けなければならない。厚労省は職業紹介などの雇用対策を十分に尽くしてほしい。
 それにしても、これほど違法派遣が横行する背景には、日雇い派遣のあり方そのものにも問題があるからだと考えざるを得ない。
 その日ごとに労働者を派遣先に送り込む日雇い派遣会社では、派遣先のニーズに応じた人数集めが優先され、派遣先の仕事内容を吟味する余裕などないといわれる。労働者も派遣先に着いて具体的内容を知るが、それが禁止対象業務だったとしても受けるしかない。
 厚労省の調査では、日雇い派遣労働者が1カ月に働く日数は平均14日で、平均月収は13万3000円。登録している派遣会社からの連絡を待つ不安定な雇用形態で、ワーキングプア(働く貧困層)を生む温床にもなっている。規制緩和に伴う99年の派遣法改正で、それまで専門業務に限定していた派遣対象を原則自由化したことが、日雇い派遣労働者を爆発的に増やす結果を招いた。
 労働者保護には直接雇用が原則であることを踏まえれば、日雇い派遣の原則禁止も含め、規制を強化する方向で抜本的に見直すべきだ。厚労省は派遣法改正を当面見送る方針だが、舛添要一厚労相は「法律の見直しを含め、再検討を考えないといけない」と踏み込んだ発言をしている。口約束に終わらせず、しっかりと対応してもらいたい。

日雇い派遣 使い捨ては許されない
[東京新聞 2007年12月28日]

 違法行為を繰り返していた日雇い派遣大手のグッドウィル(東京)に対して、厚生労働省は年明け早々に事業停止命令を出す。厳罰処分は当然だ。労働者の使い捨てを許してはならない。
 「今回は悪質だ。大手企業でこれだけ違反行為を繰り返していては厳しい処分はまぬかれない」――。厚労省幹部はこのところ相次いで発覚したグッドウィルの不祥事に憤りを隠さない。
 若者や主婦たちが携帯電話などで仕事を探して行ってみると、実際は違った仕事だったり賃金が少なかった。そんないいかげんな派遣を繰り返していたのがグッドウィルだ。労働者派遣法で禁止されている港湾荷役や建設現場へ派遣したほか、契約とは別の会社に労働者を送り込む二重派遣という違反も行っていた。
 すでに同省は(1)全国約800の事業所のうち89事業所に対して事業停止4カ月(2)そのほかの事業所は2カ月――などの命令を出す方針を固めている。本来ならば同社トップの完全退任だけでなく、違法派遣を受け入れていた企業も処分すべきだ
 日雇い派遣業界では大手のフルキャスト(東京)が今夏、やはり事業停止命令を受けている。背景には過当競争があるとされるが、度重なる違反は一部企業による不祥事ではなく1日単位という雇用形態に構造的問題があると言わざるを得ない。
 1986年に施行された労働者派遣法は対象業務をソフトウエア開発など専門分野に限定していた。だが労働市場の規制緩和で99年に建設や港湾運送、警備、医療、物の製造などを除き原則自由化された。2004年からは物の製造業務も解禁され、派遣労働者全体の増加とともに日雇い派遣も急増してきた。
 現在、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は労働者派遣制度の見直し作業を審議中だ。これまでの議論で労働者側は不安定雇用と低賃金、日雇い派遣の温床となる登録型派遣の原則禁止を主張。一方、使用者側は自由に働く機会を求める労働者ニーズもあるとして派遣制度の一層の規制緩和を主張し、審議会の結論は来年に先送りされた。
 日雇い派遣労働者は全国に約5万1000人。平均就業日数は月14日で平均月収は約13万3000円――という厚労省調査がある。実態はもっと深刻でワーキングプア(働く貧困層)増加の一因と指摘する声がある。
 今回の不祥事を機に与党側も派遣会社と受け入れ会社が守るべき「ガイドラインの作成」を求めた。政府は日雇い派遣の削減に向けた措置を、早急に実施する必要がある。

労働者違法派遣  規制緩和の功罪見直せ
[京都新聞 2008年01月10日掲載]

 派遣労働者をめぐる違法行為が後を絶たない。
 日雇い派遣大手のグッドウィル(GW)から受け入れた労働者を別の企業に派遣する二重派遣をしたとして、厚生労働省は佐川急便グループの物流子会社、佐川グローバルロジスティクスに事業改善命令を出す方針を固めた。
 二重派遣は中間マージンが増え、労働者の賃金が低く抑えられてしまう恐れがあり、職業安定法で禁止されている。
 GWは既に、労働者派遣法が禁じる港湾業務への派遣など複数の法令違反で事業停止命令の通知を受けた。昨年8月には、給与が不当に天引きされたとして派遣労働者が訴えを起こしている。GWと並ぶ大手のフルキャストも昨年、港湾業務への派遣で事業停止命令を受けた。
 法令順守をないがしろにする業界の体質改善が必要なことは言うまでもない。
 厚労省も日雇い派遣を手がける企業への指導・監督を強化するため、指針を新設する方針を決めた。当然の措置だ。
 それと同時に、労働者派遣法の改正で派遣の対象業務を拡大してきた厚労省の規制緩和の功罪を総括し、検証すべき時期にあるのではないか。
 労働者派遣法は当初、通訳など専門的な13業務に限定していたが、1996年に26業務に拡大。99年には港湾業務など一部を除き原則自由化された。
 相次ぐ規制緩和で派遣労働者は一気に膨らんだ。98年度には90万人だったのが、2005年度には2.8倍の255万人に達した。
 バブル崩壊後、企業は正規雇用を大幅に削減し、派遣労働者などの低賃金の不安定雇用を増やした。低下した労働条件は景気回復後も下げ止まったままだ。
 不安定で低賃金の派遣労働者は、「ワーキングプア(働く貧困層)の温床」とも指摘される。生活保護の給付水準を下回る収入しか得られないワーキングプア世帯は650万を超えた。低収入層が高齢化すれば、年金など社会保障の枠組みの崩壊にもつながりかねない。
 労働者派遣法見直しは急務だが、厚労省は改正案の通常国会提出を見送った。労働市場の一層の規制緩和を主張する経営側と、日雇い派遣などの登録型派遣の原則禁止を求める労働側の対立が続き、意見がまとまらないからだ。
 正社員との賃金格差の是正など派遣労働者保護の観点から、法改正を進めてもらいたい。経営側にも非正規雇用者を正規化する努力が必要だ。
 労働組合も正念場となりそうだ。
 08年の春闘交渉で、労働側はパートや非正規雇用者を含めた賃金の底上げに力点を置くが、原油高などのコスト上昇で企業間格差が拡大する恐れもある。
 京都府の調査では、パート労働者の加入で府内の組合員数が13年ぶりに増加したという。賃上げを大企業だけに終わらせない労働側の力量が問われる。

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