マクド店長裁判で社説を読んでみた

マクドナルドの店長は「管理職」とはいえないとした裁判の判決について、各紙の社説を眺めてみました。

中日新聞は、残業代割増率の引き上げやワーキング・プア、日雇い派遣など幅広い問題を取り上げて、企業と政府に「悪化する労働条件にもっと目配りをした議論」を求めている。信濃毎日新聞は、「柔軟な労働条件を求める声」にたいして、「労働者の権利を損なう結果を招きかねない」と批判。北海道新聞は、財界がねらう「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の導入にも反対している。

マック店長 “管理職”も使い捨てか(中日新聞)
マック訴訟 「名ばかり管理職」では(信濃毎日新聞)
名のみ管理職 大手企業のやることか(北海道新聞)

社説:マック店長 “管理職”も使い捨てか
[中日新聞 2008年1月30日]

 「店長」の肩書だけでは管理職といえない。その論理で東京地裁は日本マクドナルドに残業代の支払いを命じた。労働コスト削減に過大な比重をかけた企業経営の在り方そのものを見直すときだ。
 肩書だけ「店長」で、調理など従業員やアルバイトが担う仕事もする。長い残業は日常的だ。それでいて、店長は「管理職」だからという理由で、残業代は支払われない。
 こんな労働実態を「不当だ」と訴えたマクドナルド店長の言い分に、共感を覚えたサラリーマンは多かったのではないか。
 判決は、店長という地位は「事業全体を経営者と一体的に遂行する立場にない」と判断した。売り上げ計画などの権限や人事権などについても、「店内」という限られた面にとどまっているのが現実で、実質的に「店長は管理職に当たらない」という結論を導き出したのだ。
 裏返していえば、会社側は「店長」というだけで、責任や成果を求めるばかりか、重すぎる労働に見合わない給料しか与えていなかったのではないか。
 実際、この店長の場合、自宅を出るのは午前四時半で、帰宅は午前零時すぎだったという。残業は月に百時間を超過して、二カ月間休みがなかったこともあるという。この実態は、過酷という言葉そのものだ。
 紳士服販売の「コナカ」でも、元店長が残業代不払いの不当を申し立てた。その労働審判では既に六百万円の解決金を払うことで協定が結ばれているが、過労死すれすれの労働環境下で働く「店長」は、他業種にも数多いことが推察される。
 舛添要一厚生労働相は今回の判決に「企業は社会的責任を自覚する必要がある」と言ったが、企業はもちろん政府も、劣悪な労働の現状を踏まえた対策を考えるべきだ。
 残業代の割増率ひとつとってみても、日本は世界でも最低水準にある。この割増率を定める労働基準法の改正案は今国会で審議される予定だが、企業側の理屈ばかりに耳を貸してはならない。いくら働いても収入が上がらないワーキングプア問題や、使い捨てと表現される日雇い派遣問題など、悪化する労働条件にもっと目配りをした議論が今、むしろ求められているといえよう。
 管理職に相当する人を対象に、残業代の支払い義務をなくす制度さえ考案される時代である。企業が手を付けやすい人件費削減ばかりか、“管理職”さえ使い捨てにしては、働く人はその意欲もうせる。不満もたまる。さて、しっぺ返しは、誰が受けるか。

社説:マック訴訟 「名ばかり管理職」では
[信濃毎日新聞 1月31日(木)]

 名ばかりの管理職扱いをして、残業代を支払わないのは不当だ?。日本マクドナルドの店長の訴えが裁判で認められた。
 判決は従業員を実態の伴わない管理職にする問題点を厳しく指摘している。同様の労働実態のある他の企業への影響も大きい。産業界全体の課題と受け止めて改善を急ぎたい。
 埼玉県内にある日本マクドナルドの直営店に勤務する店長、高野広志さんが東京地裁に提訴していた。
 争点は店長ポストの扱いだ。労働基準法は法定時間を超える労働には残業代を支払うよう義務付けているが、会社側と一体的な管理職には適用されない。
 訴状などによると、会社側は高野店長を残業代の支払い義務の生じない「管理監督者」と位置付けていた。これに対して高野さんは、実態は出退勤や売り上げ計画などの裁量にも乏しく「名ばかりの管理職」だと訴え、残業代などの支払いを会社側に求めていた。
 判決は、店長の権限が「営業時間や料金は決められず、社員の採用権限もない。会社が提供する営業戦略やマニュアルに従う店舗責任者にとどまる」と判断した。その上で、会社側に残業代など約755万円の支払いを命じた。
 「一部店長は部下の年収を下回り、待遇も不十分。自ら勤務シフトに入らざるを得ず、長時間の労働を余儀なくされる」とも述べている。従業員を名ばかりの管理職にすることで、賃金を抑えてきた実態に踏み込んだ指摘と受け取れる。
 高野さんはアルバイトと同じように調理や清掃もこなしていた。残業が月に100時間を超え、2カ月間も休みがとれないこともあったという。過労死にもつながりかねないだけに、切実な訴えである。
 日本マクドナルドは判決を不服として控訴した。約1700人の直営店店長を抱えるだけに、従業員への影響は避けられないだろう。地裁判決の重みを受け止めて労働条件の見直しを進めたい。
 日本マクドナルドにとどまる問題ではない。高野さんが判決後に開いた報告会には、ほかの外食産業の店長経験者なども出席し、苦しい実情を訴えている。
 紳士服販売のコナカでも、元店長が残業代未払いは不当として労働審判を申し立てた。コナカ側が1月下旬に解決金を支払う協定を結んだ経緯がある。
 一部には柔軟な労働条件を求める声もあるが、労働者の権利を損なう結果を招きかねない。組合の力を強めて、ただ働きや長時間労働を監視する姿勢が労働側に欠かせない。政府への働き掛けも強めたい。

社説:名のみ管理職 大手企業のやることか
[北海道新聞 1月30日]

 職務権限も自由に働く裁量もないのに管理職扱いされ、残業代を受け取れなかったのは違法だ、との主張を東京地裁が認めた。
 ハンバーガー・チェーン大手「日本マクドナルド」の直営店の店長が会社を訴えていた。
 地裁は未払いの残業代など七百五十万円余を支払うよう会社に命じた。
 労働基準法は、一日八時間・週四十時間を超える労働には残業手当を支払うよう義務づけている。ただし、管理監督の立場にある場合は適用外だ。
 会社はこの例外規定を利用し、店長を管理職扱いとして残業代の支払いを免れていた。いかにも姑息(こそく)だ。
 厳しい判決が出るのは当然だ。
 判決は「店長には経営者と一体的立場といえる重要な職務と権限はなく、労働時間の裁量もない」とし、残業代不払いは労基法違反だと認定した。
 さらに、「一部店長は部下の年収を下回り、待遇も不十分」とした。
 管理職の要件をほとんど満たしていなかったことにあぜんとする。
 外食産業やコンビニ業界を中心に、名ばかりの管理職が増えている。
 価格競争が激化するなか、労働時間の規制を受けない管理職を多くして総人件費を抑えるためだ。
 現場には重要な権限を与えず、「売り上げ増」や「アルバイトの人件費削減」といった責任を押しつける。
 店舗内で唯一管理職の店長が今回のように孤軍奮闘し、長時間のサービス残業を余儀なくされることになる。
 原告の時間外労働は多い月で百三十時間を超えた。過労死につながりかねず、安全衛生面でも深刻な問題だ。
 管理職に当たるかどうかが問われた裁判は全国で三十件ほどある。大半は労働者側が勝訴している。
 紳士服大手「コナカ」の元店長が同様に、残業代の支払いを求めた労働審判では先週、会社が解決金六百万円を支払うことで合意した。
 労働に見合った賃金を払うのは企業の義務だ。管理職に登用するならば、手当や権限の面で処遇すべきだ。
 非正規雇用が増えている。賃金不払いの訴えが後を絶たない。労働関係の民事事件は年間三千百件を超えた。労働紛争の相談も急増している。
 労働行政のほころびが働く人々の立場を不安定にしている証拠だろう。
 判決を受け、いったん白紙になったホワイトカラー・エグゼンプション導入の議論が再燃する恐れがある。
 管理職一歩手前のホワイトカラー労働者の労働時間規制を撤廃する制度のことだ。店長クラスを対象に含めてしまえば、経営側に都合がいい。
 だが、導入されれば、今回のような「店長=管理職」を制度によって追認することになりかねない。
 企業はいまこそ襟を正すべきだ。労働行政もしっかりせねばならない。

それに対して、摩訶不思議なのが読売新聞の社説。明確な労働基準法違反という問題なのに、それを「働き方と処遇のバランスのとれた制度づくり」にすり替えたうえ、「経済界と労働界が一体となって取り組んでもらいたい」などといって、責任(の半分)を労働者側に押しつけようとしている。読売の面目躍如というべきか。

マック判決 「店長は管理職」を認めなかった(読売新聞)

社説:マック判決 「店長は管理職」を認めなかった
[2008年1月29日02時08分 読売新聞]

 経営側の都合だけで、名ばかりの管理職を増やしてはならない、ということだろう。
 ハンバーガーチェーン最大手の日本マクドナルドには、厳しい判決である。東京地裁は、同社に対し、埼玉県内の直営店店長に過去2年分の未払い残業代など約755万円を支払うよう命じた。
 時間外労働や休日出勤について労働基準法は、会社に割増賃金の支払いを義務づけているが、「監督・管理の地位」にある者には適用されない。同社の直営店店長が、この管理職に当たるかどうかが最大の争点だった。
 判決は、直営店店長は、マニュアルに基づいて労務管理や店舗運営を行う立場にとどまり、「重要な職務と権限」を与えられていない、と指摘した。
 長時間労働を余儀なくされ、自分の裁量で出退社の時刻を決められず、賃金も「管理職に対する待遇としては十分であるとは言い難い」とも述べた。
 仕事内容、労働時間、賃金のすべての面から、管理職とは言えない、と判断されたわけだ。
 部課長や店長など、職制上の役付き者が労基法上の管理職とは限らない。実態に即して見るという、厚生労働省の通達や判例に沿った内容である。
 紳士服の「コナカ」の元店長が、「仕事は一般従業員と変わらないのに、管理職という理由で残業代を払わないのは不当だ」と訴えた労働審判では、会社側が約600万円を支払うことで先週、合意したばかりだ。
 外食産業や小売り業界では、人件費削減のため、管理職として残業代などをカットする例が少なくないと言われる。過当競争が背景にあるのだろう。
 原告の直営店店長によると、1999年に店長に昇進後の年収は、店長になる前の年収のピークを超えたことはないという。63日間連続勤務とか早朝から深夜までの勤務で、1か月の残業時間が100時間を超えることもあった。
 日本マクドナルドに限らず、今回の判決を受けて、労務管理の見直しを迫られる企業もあるのではないか。
 今春闘では、労働側は残業代の割増率引き上げを重要課題にしている。政府は現行の割増率を引き上げる労働基準法の改正を検討している。
 割増率を見直しても、ただ働きを助長するような管理職の拡大解釈や、サービス残業を放置したままなら、労働条件の改善にはつながらない。働き方と処遇のバランスのとれた制度づくりに向け、経済界と労働界が一体となって取り組んでもらいたい。

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