井原さん、ご苦労さまでした

政府・与党の“兵糧攻め”、自民・公明丸抱えの候補者に、わずか1782票差で惜敗。井原前市長の力戦・奮闘は歴史に残るものだ。本当にご苦労さま。

この市長選の結果をもって、市民が全面的に艦載機移転を受け入れたと考えたら大間違い。なお半数近くは反対の意思が明白だし、推進派の市長に投票した人だって、あくまで「条件付き」というか、こんごの「条件交渉」に期待したもの。そこんところを、絶対に読み誤ってはならない。

岩国市長選 米機移転賛成の福田氏 反対の現職を小差で破る(東京新聞)

岩国市長選 米機移転賛成の福田氏 反対の現職を小差で破る
[東京新聞 2008年2月11日 朝刊]

 前市長辞職に伴い、米空母艦載機移転の是非が最大の争点となった山口県岩国市長選は十日投票、即日開票の結果、無所属新人で移転賛成の前自民党衆院議員、福田良彦氏(37)が千七百票余りの小差で、無所属で移転反対の前市長井原勝介氏(57)の再選を阻み、初当選を果たした。投票率は76・26%で前回を11・17ポイント上回った。 
 福田氏は移転問題への今後の対応について「騒音や治安対策を国と具体的に交渉する。安心安全を確保し、有利な交付金を引き出す」と述べ、艦載機移転に向けて政府と協議する意向を示した。
 岩国市民は二〇〇六年三月の住民投票、同年四月の前回市長選で示した「移転反対」の意思を百八十度転換した形。
 岩国基地への艦載機移転は、懸案だった地元同意取り付けに向け動きだす見通しとなったが、反対の井原氏との差はわずかで、福田氏は慎重なかじとりを迫られそうだ。
 政府は在日米軍再編に弾みをつけたい考えで、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の同県名護市への移転計画にも影響を与えそうだ。
 一方、福田氏は、艦載機受け入れに見合うだけの、具体的な地域活性化策取りまとめが当面の課題となる。
 福田、井原両氏とも政党の正式な推薦や支持は求めなかったが、安全保障にかかわる国政上のテーマが争点となったため、与党が福田氏を、野党が井原氏を、それぞれ推す実質的な与野党対決の構図となった。

◇岩国市長選開票結果
当 47,081福田良彦 無新<1>
  45,299井原勝介 無前 

ということで、岩国市長選にかんする社説を眺めてみた。

岩国市長選 街を分断した国の強引(東京新聞)
出直し岩国市長選 割れた「民意」どう修復(中国新聞)
岩国市長選 民意をどう読み取るか(北海道新聞)

「東京新聞」(「中日新聞」も同じ)は、「政府が強引な『アメとムチ』路線を取ったゆえの混迷」「信頼回復へ地域の声に耳を傾けよ」と、政府の強引なやり方を批判。北海道新聞は、選挙中の「国の言いなりにはならない」との言葉を引いて、福田氏に注文をつけている。

「中国新聞」社説が言及しているように、艦載機の岩国基地への移転は決まったが、夜間離着陸訓練(NLP)の受け入れ先は未定のまま。岩国市民がNLPまで受け入れたわけではないし、まして周辺住民がNLP受け入れを容認したわけでもない。NLP実施基地が決まらないからといって、「暫定」名目でそのまま岩国でNLPを実施することなど断じて許されない。

岩国市長選 街を分断した国の強引
[東京新聞 2008年2月11日]

 米空母艦載機の移転容認か反対か。山口県岩国市長選は街を二分する戦いとなった。米軍再編進展へ政府が強引な「アメとムチ」路線を取ったゆえの混迷だ。信頼回復へ地域の声に耳を傾けよ。
 瀬戸内海沿岸に岩国基地を抱える岩国市で、激しい出直し市長選が繰り広げられた。
 在日米軍再編に伴い、神奈川県の米軍厚木基地に所属する空母艦載機隊の移転計画に反対する前市長が市議会との対立で辞職し、再出馬。容認派が推した前自民党衆院議員との一騎打ちとなった。
 移転問題で民意を問うのは今回が3度目。2006年の住民投票では反対が9割近くに上った。その直後の市長選で、反対派の前市長が当選。これまで岩国市では2度続けて「ノー」の意思が示されてきた。
 今回の市長選の発端は、騒音や治安悪化を懸念する市が移転に反対していることを理由に、国が新庁舎建設の補助金約35億円の交付を打ち切ったことにある。もともと補助金は沖縄県の米軍普天間飛行場の空中給油機移転を市側が受け入れたことで交付が決まったもので、05年度から支給されていた。06年に日米両政府が合意した米軍再編計画に市が協力しないからといって、これまでの「約束」をほごにするのは無理があろう。
 厚木基地から艦載機59機が移転すれば、岩国基地は極東最大級の航空基地となる。滑走路が1キロ沖合に移るにしても、騒音などの負担に不安を抱く市民が受け入れに難色を示すのも十分理解できることだ。
 再編に協力する自治体に交付金を支給する米軍再編推進法を錦の御旗に「アメとムチ」を使い分ける国の姿勢は、住民感情を軽んじるものだ。財政面で疲弊する岩国市では、国のムチを前に前市長と市議会がねじれ状態になって市政が停滞。容認派と反対派の対立がエスカレートした。こうした事態を招いた国、とりわけ防衛省の責任は重い。
 賛否二分の背景には、市民の苦渋の選択がある。政府の強硬姿勢が功を奏し、容認派が増えたなどと安易に考えてはなるまい。容認派の前自民党衆院議員も「協力はするが、国の言いなりにはならない」との立場だ。
 本来、防衛行政は基地の負担を強いられる住民の信頼があって成り立つものだ。ムチに頼る手法は、焦点の普天間飛行場移設をはじめ再編計画の進展をかえって鈍らせることになる。これまで地域との対話努力を怠ったことを猛省し、国は真摯(しんし)な姿勢で市側と話し合うべきだ。

出直し岩国市長選 割れた「民意」どう修復
[中国新聞 2008/2/11]

 閉塞(へいそく)感の強さの表れだろうか。「民意」は地域の針路を大きく変える選択をしたといえそうだ。

「協調」の訴え実る

 米空母艦載機の移転など、基地問題を最大の争点にした岩国市の出直し市長選がきのう、投開票された。混戦との予想通り、勝敗の行方は深夜まで定まらず、条件付き容認を掲げた無所属新人で自民党前衆院議員の福田良彦氏(37)が、移転反対を貫いてきた前市長の井原勝介氏(57)を小差で振り切った。
 勝因はどこにあったのか。福田陣営が掲げたのは「岩国再生」の旗印だった。市政が混乱を極め、財政も破たん寸前に陥っている。米軍再編も重要だが、最大のテーマは日々の生活の立て直しだ―。街頭演説では、こうした訴えに聞き入る市民から拍手が起きていた。若さを前面に押し出し、対立から協調への路線転換をアピールする手法も、支持の輪を広げる力になったようだ。
 かたずをのんで見守っていた政府、与党の関係者はさぞ安心したに違いない。逆に井原氏が当選していれば、旧市条例に基づく2006年3月の住民投票、7町村との合併に伴う同年4月の市長選に続き、3度目の「移転反対」の民意が示されることになったからだ。
 その場合、日米両政府が合意した在日米軍再編計画に少なからぬ影響を与える可能性があった。沖縄県知事の同意が不可欠な普天間飛行場の移設計画とは異なり、岩国市長には知事のような権限はない。ただ、それでも2度にわたり反対の「民意」が示されたことの意味は軽くない。
 今回の出直し市長選では、「移転反対」を理由に市庁舎建設の補助金や米軍再編交付金を凍結する国側の強硬姿勢にも有権者の関心が集まっていた。「民主主義と地方自治を踏みにじる行為」と批判した井原氏が勝っていれば、政府・与党の立場はより苦しくなっていただろう。
 新たな一歩を踏み出す福田市政。前途は決して平たんとはいえまい。選挙期間中に本紙や他のメディアが実施した有権者への意識調査では、空母艦載機の移転について「反対」と答えた人が過半数を占めた。空母艦載機の移転が、計画通り実施されると、岩国基地は沖縄県の嘉手納基地と並ぶ極東最大級の航空基地に変容する。市民や周辺地域の住民の間に不安が消えない。それが大接戦ともなる結果を招いた。

勢いづく移転準備

 「国の言いなりにはならないし、オール市民の意見を国にもの申す」。選挙で繰り返したこの公約をどこまで貫けるのか。条件付きとはいえ、国との積極的な協議を明言する市長の誕生で、米軍再編は新たな段階に進む可能性が高まった。来春の基地滑走路の沖合移設事業の完了後、空母艦載機を受け入れるための施設づくりも本格化するはずだ。
 米軍側は、空母艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)の恒常的施設について「拠点基地から180キロ以内に」と要望している。現在取りざたされている鹿児島県の離島などの候補地が地元の反対などでつぶれた場合、岩国などで「暫定的な訓練」が繰り返されることは本当にないのか。新市長には、その言動に厳しい視線が注がれている。
 政府、与党も今回の選挙結果に安住することなく、批判の根強い現行の強引な防衛政策を見直す契機にしてもらいたい。補助金凍結問題などについて、国側の対応の不条理さを訴えて立候補した前市長にも多くの支持が集まり、民意が割れた事実を過小評価すべきではない。
 岩国市内では、基地周辺の住民が騒音を理由に米軍機の飛行差し止めを求める集団訴訟を起こす動きも出ている。現在、空母艦載機が拠点にしている厚木基地(神奈川県)と同様に集団訴訟が相次ぐようでは、日米関係の前途も険しさが増す。
 これまでの強圧的な姿勢を改め、誠実に説明責任を果たすことだ。国側が従来の姿勢に固執したままでは、再編協議の円滑な進展は望めないだろう。

岩国市長選 民意をどう読み取るか
[北海道新聞 2月11日]

 市民には苦渋の選択だったに違いない。
 米空母艦載機移転の是非が争点となった山口県岩国市の出直し市長選は、移転容認派の前衆院議員福田良彦氏が大激戦を制して初当選した。
 しかし、この選挙結果から、市民が納得ずくで移転を認めたと判断することはできまい。
 敗れた前市長の井原勝介氏は、騒音被害や米兵によるトラブルへの不安が増すと、移転に反対してきた。井原氏の主張を支持する民意は一昨年、住民投票と市長選の二度にわたって圧倒的な数字で示されていた。
 今回も共同通信の出口調査では、移転に「反対」が41%にのぼり、明確な「賛成」は17%にすぎない。
 問題は37%を占めた「やむを得ない」という声だ。政府のアメとムチの政策がじわりと市民を締め上げていることの効果と見なければなるまい。
 全国の地方自治体の例に漏れず、岩国市も台所事情は厳しい。市の借金である市債は一千億円を超え、財政再建は急務の課題だ。
 そこに追い打ちをかけたのが政府の補助金カットだった。移転に反対しているからと、市庁舎建設の本年度分の支給が止められてしまった。米軍再編計画を受け入れた自治体に配分される交付金も出ない。
 自民、公明両党が支援する福田氏は国政とのパイプ役を強調し、財政の立て直しを前面に掲げる戦略をとった。
 告示前は井原氏優位といわれた情勢が逆転したのは、移転問題にとりあえずは目をつぶってでも地元経済をなんとかしてほしいという市民の切実な思いの表れだろう。
 移転拒否か、カネか。市民にそんなつらい選択を強いた政府の政策に、あらためて憤りを覚える。
 今回の市長選は、地方自治のあり方を問うものでもあった。
 「防衛政策に自治体が法律上の手続きを使って異議をさしはさむべきではない」
 大阪府の橋下徹知事は岩国の住民投票をそう批判した。だが、防衛政策が国の専管事項だからといって、地方の声を無視する国の勝手が許されるわけではない。
 政府にも橋下氏と同じような理屈をいう政治家や官僚がいる。何か勘違いしているようだ。米軍再編計画を地元の頭越しに決め、しかも住民の自由な意思表明を否定して、いったいどこに地方自治があるというのか。
 最後に福田氏に注文がある。
 「移転に協力するが、騒音や治安問題など住民の不安解消にまず取り組む」「国の言いなりにはならない」
 福田氏のこの言葉を信じて投じられた一票は多かったことだろう。政府に言うべきは言って、しっかりと約束を果たしてもらいたい。

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