徴兵制でなくても戦争ができる理由

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)

タイトルの「貧困大国アメリカ」というのは伊達ではない、というのが読み終わったときの一番の感想。上位1割がアメリカ全体の富の7割を占めるというのが、どれほど凄まじいものか。

僕が不勉強だったのだが、いまサブプライムローン問題の影響が深刻だけれども、この「サブプライムローン」というものは、単純な「低所得層向け」の住宅ローンなどというものでないことを、本書を読んで初めて知った。紹介されている、2001年にアメリカ金融監督当局の定義は以下のとおり(本書1?2ページ)。

  1. 過去12カ月以内に30日延滞を2階以上、または過去24カ月以内に60日延滞を1回以上している。
  2. 過去24カ月以内に抵当権の実行と債務免除をされている。
  3. 過去5年以内に破産宣告を受けている。
  4. 返済負担額が収入の50%以上になる。

要するに、「低所得者」などというものではない。堤さんは「社会的信用度の低い層向けの住宅ローン」と書いているけれども、日本でいえば、クレジットカードのブラックリストに載っていてもおかしくないような人たちだ。こんな人たちに住宅ローンを貸し付けるのだから、破綻しない方がおかしい。にもかかわらず、それを束ねて証券化して売り飛ばしてしまえば大丈夫と考えるのだから、アメリカの金融業界は恐ろしいところだ。

「軍隊に入れば学費を出してくれる」。これも、よく聞く話だが、実際には、入隊後に学費を受け取る兵士は全体の35%しかないらしい。なぜなら、学費をもらうためには、1200ドルの前金を支払わなければならないからなのだが、そういうことは募集時には話されていないらしい。そして、除隊後に4年制大学を卒業する割合は15%しかないという。だから、「貧困から抜け出すために軍隊に入る」とよく言われるけれども、実際には、そんなにうまくゆきはしない、ということだ。

イラク戦争が開始された2003年に米軍がリクルートした新兵は21万2000人。その3分の1が高校を卒業したばかりの若者だという(112ページ)。しかし、入隊しても貧困からは抜け出せず、除隊後はホームレスになってゆく。国家的詐欺と言わざるをえない。

しかし、教育と医療が民営化・自由化されるところまでされてしまうと、いったん貧困に落ち込むと、そこから抜け出すことができなくなる。そんな若者たちの前に、米軍のリクルーターたちが「軍隊に入れば、こんなことができますよ」といって誘いをかける訳だ。そのリクルーターたちも、実は同じ貧困層の出身者で、何人入隊させるかを競争させられているのだ。

徴兵制をしかなくても、なぜアメリカが戦争を続けることができるのか。その仕掛けが、まざまざと浮かび上がってくる。

【書誌情報】
著者:堤未果(つつみ・みか)/書名:ルポ 貧困大国アメリカ/出版社:岩波書店(岩波新書新赤版1112)/発行年:2008年1月/定価:本体700円+税/ISBN978-4-00-431112-6

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