今日の「東京新聞」暮らし面に載っていたインタビュー。語り手は、エネルギー効率化システム研究第一人者のワイツゼッカー・米カリフォルニア大学教授。
おもしろかったことの1つは、昨年のバリ会議について、EUは「強力な“主役”として振る舞った」が、「日本の提案はあまり現実的とは言えず、苦しい立場」といっていること。アメリカが提唱する「APP」については、「拘束力がないのは〔アメリカなどにとって〕魅力」だが、「問題の解決にはなりえない」とする。
そして、「では、どうすれば」の問いに、ワイツゼッカー氏が指摘するのは、「1人当たり平等な排出権」という考え方。これは、世界全体での排出量を温暖化を避けられる水準まで減らしたうえで、先進国も、途上国も、国民1人あたりで平等なCO2排出権を持つとして、それぞれの国の削減目標をきめよう、というものだ。
温暖化 日本ができること ワイツゼッカー 米カリフォルニア大教授に聞く(東京新聞)
そうすれば、先進国はいっそうの排出削減に取り組まざるを得ないし、途上国にしても、CO2排出削減に取り組めば、それだけ自分たちの排出権を先進国に売ることができる、ということになって、排出削減のインセンティブが生まれる。この考え方は、「スターン報告」をまとめた元世銀副総裁のニコラス・スターン氏も提唱している。おそらく、これから世界は、その方向に向かうだろう。そうだとすれば、いつまでもそれに抗うのではなく、その方向にたって日本もイニシアティブを発揮したほうが得になるのは確実だろう。
ワイツゼッカー氏も、「原油の高騰が脱化石エネルギーの追い風になっている。脱化石燃料化が進めば、日本はより豊になる。エネルギー価格に呼応してエネルギー効率の改善をさらに進めることが、投資家の関心を呼ぶ時代になった。日本も、エネルギー効率の分野で世界のリーダーになれる」と言っている。
「日本は省エネ先進国だ」とよく言われる。しかし、日本の技術は、社会全体としてみれば、エネルギー効率を高め、ひいてはCO2排出量を減らすことに完全に失敗している。「省エネ先進国」などという誤った思い込みは、一日も早く脱却し、エネルギー効率の技術開発がきりひらく新しい可能性にむかって進むべきだろう。
温暖化 日本ができること ワイツゼッカー 米カリフォルニア大教授に聞く
[東京新聞 2008年3月3日]「ファクター4?豊かさを2倍に、資源消費を半分に」の著者として知られる米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校のエルンスト・ワイツゼッカー教授は、エネルギー効率化システム研究の第一人者。同校と名古屋大大学院環境学研究科(林良嗣科長)との学術交流・協力協定調印のために来日した教授に、地球温暖化のために日本ができること、私たちができることを聞いた。 (飯尾歩)
――地球温暖化対策の現状は。
2000年以降、気候変動に対する世界の認識は、それ以前よりはるかに良くなった。日本や欧州はすでに高いレベルに達していたが、米国も劇的に変化してきている。だが、中国、インドを含む発展途上国では、気候変動の脅威がまだ十分に認識されているとは言い難い。
――京都議定書の約束期間が始まったが、日本が進むべき道は。
昨年末のバリ会議で欧州連合(EU)は強力な“主役”として振る舞った。次期約束期間の枠組みづくりに向けた日本の提案はあまり現実的とは言えず、苦しい立場かもしれない。米国は京都議定書を離脱して、ここ数年ひどい状態になっている。
ブッシュ大統領は05年、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)=別項参照=を設立し、中国やインドへ自発的に省エネなどの技術移転を進めるという。拘束力がないのは魅力だし、日本が米国や中国との関係を重視するのも分かる。だが、APPは、問題の解決にはなり得ない。――では、どうすれば。
私自身の関心を言えば、インドのシン首相が提案し、ドイツのメルケル首相も賛意を示した「1人当たり平等な排出権」という考え方だ。インドや中国の温室効果ガス排出量をやみくもに押さえ込むのではなく、自分たちが持つ排出権を先進国に売った方が得だと思わせるような誘導策が必要だ。これで中国による(温室効果ガス排出量が多い)石炭火力発電所の新規建設を半分くらいにできるだろう。
――名古屋大学には、1990年比で温室効果ガス80%削減を提唱するチームがある。その可能性は。
原油の高騰が脱化石エネルギーの追い風になっている。脱化石燃料化が進めば、日本はより豊かになる。エネルギー価格に呼応してエネルギー効率の改善をさらに進めることが、投資家の関心を呼ぶ時代になった。日本は、エネルギー効率の分野で世界のリーダーになれる。
さて、ここでなぞなぞだ。重さ10キロのバケツを海抜ゼロメートルからエベレストの頂上へ運ぶのにどれだけの電力が必要か。答えは、たったの0.25キロワット。1キロワットの電力にはすごい潜在力がある。何でもできる。要はエネルギー効率を高めること。日本の産業界は、この分野のパイオニアにも、モダンテクノロジーの王者にもなれる力がある。――市民は、どんなアクションを。
私と妻、娘たちとその夫は昨年家をつくった。太陽光や太陽熱を活用して、エネルギー消費が普通の家の約10分の1で済むようにした。家に限らず、自らの衣類や食べ物、日用品がどれだけの炭素量を背景に持つものかを知ることだ。そして炭素量の排出が少ない商品を買う。そうすることが、物を売る人、つくる人たちに、低炭素、脱温暖化への圧力をかけることになる。
【APP】 2005年7月、米国の提案により、日本、豪州、中国、韓国、インドが協力し、技術開発、普及により、環境、エネルギー問題へ対応をすることを目指して発足。昨秋からカナダが加わった。
エルンスト・ウルリヒ・フォン・ワイツゼッカー 1939年スイス・チューリヒ生まれ。国連科学技術センター所長、ブッパータール気候環境エネルギー研究所長、ドイツ連邦議会議員を経て、2006年1月から現職。