「毎日新聞」に載った今日の社説は、2本ともなかなか興味深い内容だった。
1本目の「社会保障予算 抑制のノルマを見直そう」は、小泉内閣以来の、毎年、社会保障費を2200億円ずつ減らすという「骨太の方針」を見直せ、というもの。大事なのは、この手の議論というのは、とかく財源が必要だとして、消費税増税論議に結び付けられるのだが、「毎日」の社説は、そうした議論があることは認めつつ、「当面は道路特定財源の一般化などで対応できるではないか」としている点で、一歩ぬきんでている。
2本目は、「日雇い派遣」の禁止を求めたもの。あれこれの「規制」ではなく、日雇い派遣そのものの禁止を求めているところがミソ。99年の「原則自由化」を見直して派遣を専門業種に限ること、あるいは、「登録型派遣」そのものをやめることなどを求めている。2カ月未満の短期派遣を禁止するという民主党案についても、「不安定雇用は解消されない」として、よりつっこんだ抜本的改正を求めているところも注目される。
社説:社会保障予算 抑制のノルマを見直そう(毎日新聞)
社説:日雇い派遣 法改正で禁止へ踏み出せ(毎日新聞)
社説:社会保障予算 抑制のノルマを見直そう
[毎日新聞 2008年3月10日 0時17分]4月から75歳以上のお年寄りを対象とした独立保険「後期高齢者医療制度」がスタートする。新制度の保険料は都道府県ごとに決められる。当初全国平均で年7万2000円と見込まれた保険料は2年間の軽減措置が講じられる。
生活費にも事欠くお年寄りの負担が少なくなることにだれも異存はあるまい。だが、衆院選を意識した場当たり的なほどこしなら、お年寄りの真の安心につながらない。
新制度が発足するのを機に超高齢社会での年金、医療、介護など社会保障費のあり方を考えてみたい。
08年度予算案で社会保障関係費は22兆円、国債費などを除いた一般歳出の半分近くを占める。高齢化と歩調を合わせるように社会保障費も年約8000億円ずつ自然増となる。
小泉政権は、財政再建の当面の目標として2011年に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指した。そのため社会保障費の自然増を5年間で1.1兆円圧縮することにした。単年度当たり2200億円。財務省は厚生労働省に対し、毎年予算編成時に自然増の伸びを2200億円抑制するようノルマを課してきた。
08年度は、中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険の国庫負担を、大企業などの健保組合などに肩代わりさせる窮余の策でしのいだ。つじつま合わせは明らかで、その場しのぎの取りつくろいである。
無理な財源調整を重ねると、社会保障制度自体にひずみが生じかねない。そのツケは結局、福祉サービスを求めている弱者に及ぶことになる。 福田康夫首相は国会で「(社会保障費の)抑制にはおのずと限界がある」と答弁している。政府・与党内にも機械的な抑制ノルマはすでに限界との認識が広まりつつある。
ならば、福田政権は小泉政権から引き継がれている毎年2200億円圧縮の政策を見直す潮時に来ているのではないか。福田カラーとして「市民・消費者重視」を掲げたのだから、その標語を肉付けする格好の政策転換である。首相が音頭を取って設立した「社会保障国民会議」で当否の議論を深めてほしい。
社会保障費が野放図に増えることを厳しく監視するのは言うまでもない。しかし少子高齢社会で必要とされるお金はきちんと手当てしなければならない。それが福田流「温かい政治」ではないのか。生活困窮者には保険料や窓口負担の引き上げは限界に来ている。
社会保障財源は、将来的には消費税アップも検討する時期が来よう。だが当面2200億円の財源不足が生じるならば、道路特定財源の一般財源化などによってやり繰りすることは可能なはずだ。09年度予算の目玉政策として一歩前に踏み出すことを期待する。
社説:日雇い派遣 法改正で禁止へ踏み出せ
[毎日新聞 2008年3月10日 東京朝刊]日雇い派遣大手のグッドウィルから派遣された男性が昨年12月、荷降ろし作業中に指を骨折した。男性が訴えても同社は労働基準監督署に報告せず、社員は「派遣先にも迷惑がかかるのではないか」と告げたという。報告したのは事故の2カ月後、けがが悪化して男性が自ら労災申請した後だった。
派遣元の各社から全国の労基署に報告された派遣労働者の労災件数(休業4日以上)は06年に3686件と前年の1.5倍に達し、1日に10件以上も発生した計算だ。そのうえ、グッドウィルのケースのように、発覚を恐れて報告しない労災隠しが派遣業界で横行している疑いがある。
中でも労働者が派遣会社に登録し、仕事があればその日ごとに雇用される日雇い派遣では、安全対策や安全教育がおろそかになり、労働者は危険にさらされがちだ。加えて極めて不安定な雇用で、派遣先から派遣会社にマージンが支払われる分、労働者の日給は7000円前後と低賃金にならざるを得ない。こうした働き方は仕組みそのものを全面的に見直す必要がある。
日雇い派遣が広がったのは、労働者派遣法の99年の改正で、それまで専門業種に限定していた派遣対象を原則自由としたためだ。不況下で労働者の賃金を抑え、雇用調整もしやすくしたいという経済界の要望を受けた規制緩和だった。単純労働への派遣が解禁されたことで、派遣会社に登録する登録型派遣が爆発的に増え、登録者は06年度で延べ234万人にも上る。
しかし、労働者の権利を守るには直接雇用が大原則で、派遣はあくまでも一時的・臨時的にとどまるという制度の趣旨を考えれば、派遣法を99年の改正前に戻し、派遣対象は専門業種に限ることが望ましい。
あるいは登録型派遣を禁止し、派遣会社は労働者を1日ごとの雇用ではなく常用雇用とする常用型派遣だけを認める仕組みに改める方法もある。いずれにせよ法を改正して日雇い派遣の禁止に踏み切るべきだ。
厚生労働省も法改正を検討したが、一層の規制緩和を求める経済界の抵抗で今国会での改正を見送った。代わりに日雇い派遣の監督を強化する指針などを策定したが、日雇い派遣が抱える不安定・低賃金・危険という根本問題の解決にはつながらない。学識者で派遣のあり方を議論する厚労省の研究会も発足したが、結論までには時間がかかる。
ここにきて日雇い派遣の禁止に向け、各党の議論が活発になってきたことは歓迎したい。野党だけでなく、与党の公明党も原則禁止を検討するという。民主党は近く改正案をまとめる方針だが、2カ月以内の派遣契約を認めないとの案が浮上しているようだ。しかし、それだけでは2カ月先の不安定雇用は解消されない。抜本的な見直しを求めたい。