新銀行東京をめぐる都議会の議論。石原都知事は「半分以上は不毛だった」というが、それは、都側が必要な資料や情報を公開しないから。都民の税金400億円を使うというのに、議論を不毛にした責任は石原都知事と、報告書の原本公開、参考人招致を否決した与党の自民・公明+民主党にある。
野放図な貸し出しについては、都の責任もあることは明らか。そうしたこと一切合切に蓋をしたまま、旧経営陣が悪いというだけで、400億円拠出を強行しようとすることが、議論の「不毛さ」をまねいている。
すでに新銀行東京の融資、実は3割以上が中小企業支援以外だったことが明らかになっている。また、当初の設立目的であった中小企業向けの「無担保・無保証」融資を4年で廃止するらしい。これでは、新銀行を存続させる理由がいよいよなくなったというほかない。
都議会、新銀行東京質疑で徹夜・成果乏しく(NIKKEI NET)
新銀行東京の報告書、原本公表めぐり都議会が7時間空転(読売新聞)
新銀行東京 延命策 見えぬ根拠(朝日新聞)
『お役所仕事に嫌気』『もう使う予定ない』 新銀行東京 融資先ルポ(東京新聞)
新銀行東京 新たな不良債権は向こう4年で316億円(朝日新聞)
新銀行東京:都幹部が最終原案の赤字を黒字目標に書き換え(毎日新聞)
新銀行東京の融資拡大、都も要請 06年取締役会で(朝日新聞)
新銀行東京、融資の3割超が中小支援以外に(NIKKEI NET)
新銀行東京:「無担保・無保証」廃止、4年で残高ゼロに 中小企業融資を転換(毎日新聞)
新銀行東京、融資の2割が都外企業に(NIKKEI NET)
各紙社説も、いっせいに石原知事と都の方針を批判している。「日経新聞」も、「疑問はむしろ膨らむばかり」「都の責任を不問とする点は公平ではない」「増資の妥当性は明らかになっていない」と厳しく批判している。あの「読売新聞」が「新銀行の設立自体、再考すべきだったのではないか」と、都が銀行を設立したこと自体を批判していることも注目される。
社説 「石原銀行」の経営責任糺せ(日経新聞)
石原銀行 まだ傷口を広げるのか(東京新聞)
新銀行東京 石原知事は責任認めよ(東京新聞)
社説:石原銀行 ひど過ぎる知事の責任逃れ(毎日新聞)
社説:新銀行東京 撤退への道筋描く時では(毎日新聞)
新銀行東京 旧経営陣だけの責任なのか(読売新聞)
都議会、新銀行東京質疑で徹夜・成果乏しく
[NIKKEI NET 2008/03/14 11:47]経営不振の新銀行東京(東京・千代田)の再建を審議する都議会予算特別委員会は14日未明、質疑の前半戦が終了した。論戦は足かけ4日にわたったが、経営悪化の責任問題やずさんな経営実態など、新銀行による内部調査結果以上の“成果”はあまりなく、空虚な雰囲気が漂った。
13日午後8時前から始まった委員会が閉会したのは、14日午前4時20分ごろ。途中に約30分の休憩を取ったものの、都議も都幹部も疲労の色が隠せなかった。答弁に立つ石原慎太郎知事の声もかすれがちだった。
閉会後、石原知事は「(新銀行は)死にそうになっているんだからね。人工呼吸か心臓マッサージしないとね。死んでしまったら元も子もない」と重ねて400億円の追加出資に理解を求めた。ただ、新銀行の再建についての議論が深まったとは到底言えず、同知事も「半分ぐらい不毛だったね」と漏らした。
新銀行東京の報告書、原本公表めぐり都議会が7時間空転
[2008年3月14日03時08分 読売新聞]経営難に陥った新銀行東京(東京都千代田区)の支援策となる、400億円の追加出資の是非を審議する都議会予算特別委員会は13日、約7時間にわたって空転した。
同委員会の大きな混乱は、青島幸男知事時代以来、12年ぶり。旧経営陣の責任を明らかにしたとする新銀行の調査報告書の原本公表や、元代表執行役の仁司泰正氏(67)の参考人招致などを巡って与野党が対立、都議会は終日、迷走した。
報告書の原本には、行員らの証言や融資先の詳細が含まれるとされる。このため、新銀行が「個人情報が含まれる」などとして公表していない。ただ、石原慎太郎知事は報道陣に「実名を消して出したらいいんじゃないか」と、公表に理解も示していた。
このため、都議会野党の民主、共産両党が委員会開会前に、与党の自民、公明両党に対し、原本の公表を都側へ要求するよう求めた。しかし、「新銀行が旧経営陣に対する損害賠償請求訴訟を検討しており、手の内をさらすことになる。公表できない」とする都側の意向をくんだ自民が拒否。話し合いがまとまらず、午後1時から始まる予定だった審議に入れない状態が続いた。
最終的には、原本は非公表とし、参考人招致は行わないことで共産を除く3党が合意。委員会は午後8時前に始まった。
質疑時間は14日未明までずれ込んでおり、与野党からは、「知事が公表すると言ったのに」(民主都議)、「出せないものは仕方ない」(自民都議)と、ぼやく声もあがった。
同委員会を巡っては、1995年9月、経営破たんしたコスモ信用組合の処理で、都が200億円を支出する是非を巡り、長時間空転している。
自主廃業した場合は1000億円の資金が必要になる、という都側の言い分にたいしては、金融論の山口義行・立教大教授が「預金が消えることはない」から「1000億円必要」というのは「疑問」と指摘している。
新銀行東京 延命策 見えぬ根拠
[asahi.com 2008年03月15日03時12分]都民の税金1000億円をつぎこんで経営難に陥った新銀行東京について、石原慎太郎都知事はさらに400億円を追加出資することが「次善の策」と訴える。こうした「延命」ではなく、自主清算や破綻(はたん)処理による銀行業からの撤退となれば、持ち出しはより大きくなるという見解だ。だがその根拠となる情報は十分に開示されておらず、金融の専門家からも疑問の声があがる。
■回収不能額 想定に疑問
銀行を自主解散する「事業清算」は、金融庁の許可を受け、協力銀行に融資先と預金者を引き継いで清算会社に移行する形。都は、預金4000億円の全額払い戻しも想定し、銀行が保有する有価証券売却などに加え、新たに都から1000億円の貸し付けが必要になると見込む。また、過去の銀行や信用金庫の破綻例から、融資総額の5割前後の約1000億円が回収不能になると推計する。
立教大学の山口義行教授(金融論)は「預金は融資とセットで受け皿銀行に譲渡される。預金が消えることはなく、貸し付けが必要なほど取り付け騒ぎが起きる状況にはならない」と疑問を示す。
融資回収についても「本当にそこまで融資先の経営が悪いのか」と指摘する。実は融資残高のうち大企業分が1200億円(50社)あり、同行も「焦げ付く可能性はほとんどない」と認める。推計通りなら残る中小企業分の大半が焦げ付く計算で、「よほど経営が苦しい企業ばかりに貸し付けていないと、こういう数字は出てこない」。
都は「受け皿銀行がない」とも主張するが、山口教授は「財務状況がきちんと公開されれば、可能性は見えてくる」という。
もう一つの選択肢、預金保険法に基づく破綻処理について、都は「ペイオフ発動となり、国民経済上多大な損失が発生する」と訴える。同行では1月末現在、1000万円を超える部分の預金は477億円。しかし、同法の規定では、預金を全額保護する特例もある。■問題先送り 負担拡大も
新銀行は08年度中に自己資本比率が4%を下回り、金融庁の業務改善命令の対象となる見通しだ。信用度の急落を心配し、都は400億円の追加出資案を決めた。「融資先にも預金者にも影響が少ない策」だという。
銀行側は追加出資を受けたうえで、店舗を1カ所にして従業員も減らし、融資残高も4分の1にスリム化する。一方で業務粗利益を倍にし、「11年度の黒字化」を目指すとしている。
慶応大の池尾和人教授(金融論)は「金融庁による厳密な資産査定をしないまま追加出資を決めるのはどうか」。90年代の金融危機では、金融機関自らの恣意(しい)的ともとれる資産査定で経営破綻に至った事例があった。第三者の査定がない事業継続は「問題先送りの懸念がある」と指摘する。
中小企業融資が既存金融機関でも難しい中、新銀行のコンセプトは「ビジネスとして成り立たず赤字垂れ流しになる」と話すのは早稲田大大学院の川本裕子教授(金融システム)。都内中小企業は07年に2500社が倒産し、2年連続の増加。審査を改善しても、不良債権が予想より膨らむ恐れも懸念される。
そうなると400億円で足りず、さらなる追加出資もあり得るとする。将来再び経営が悪化し清算などの処理を迫られた場合、長期的には都民の負担が大きくなる。
経営規模を縮小し「身軽」にしておくのは、「今後の業務提携や営業譲渡への布石」とみる向きもある。これまで11金融機関と交渉して不調に終わったが、石原知事は「ノー(といわれているわけ)ではない」と話している。■石原さんは銀行業を甘く考えすぎている 大手行首脳
大手銀行首脳は「石原さんは銀行業を甘く考えすぎている」と手厳しい。「単独での生き残りは無理。追加出資で食いつなぐにしても、ビジネスモデルをしっかり立て直してくれる救済相手を見つけなければならない」とある大手銀幹部は話す。
だが、それについても「支援する金融機関など出てくるのか」と別のメガバンク幹部は懐疑的だ。新銀行東京は預金者に対し、他行よりも高い金利を提示することで融資に回す原資を調達してきた。それだけに「同じ条件で資金調達を続ければ、自行の業績を圧迫することになる」(大手銀幹部)。
もはや、当てもなく支援先を探すより、いち早く自主清算する方が結果的に都民の負担は軽く済む――。そんな考え方も銀行業界には根強い。
『お役所仕事に嫌気』『もう使う予定ない』 新銀行東京 融資先ルポ
[東京新聞 2008年3月13日 朝刊]都民の税金で400億円を増資することの是非が問われている新銀行東京。「中小企業を救済するために必ず再建させる」と、石原慎太郎東京都知事が都議会で訴え続ける中、都内の中小企業を訪ね歩いた。2005年4月の同行開業から約3年。経営者からは「困ったとき助けてくれた」と感謝の声も出たが、今では銀行の貸し渋りなどは解消され、「今後、使う予定はない」との言葉が目立った。(社会部・原昌志)
「撤退するなら今しかないのでは」。世田谷区内の古びた集合住宅の一室を事務所にする、家電部品輸出業の男性(56)は淡々と語った。
会社設立から3年目の05年6月ごろ、運転資金として300万円を金利5%強で借りた。当時は助かったが、もう必要と感じない。「今は区の利子補給制度を使えば、(他の金融機関からも)無担保でも1%少しでも借りられるので」
「趣旨に賛同し、応援するつもりで借りた」と言う大田区の不動産業進藤平太さん(56)。融資を2度受けた後、苦情を文書で送った。「何から何までお役所仕事。ちゃんと返済能力のある中小企業は嫌気がさす」
06年3月、約4%で4000万円を借り、半分強を返した同10月、1000万円を借りた。十分な説明もなく、金利は約6%に上昇。しかも、書かされる書類が増えた。
「他にあんなに書類が多い銀行はない。『印紙の割り印を2カ所押せ』とか、重箱の隅をつつくような指摘ばかり」。このころ新銀行は赤字154億円を抱え、貸し倒れ対策を強めていた。
「『街金』から借りては信用にかかわる。無担保無保証はありがたい」と話すのは、大田区内の従業員6人の機械部品メーカー社長(61)。06年、運転資金として1500万円を借りた。
「バブル期に『無担保で1億貸す』と言ってきたむちゃな都銀が、経営の悪化で公的資金を受けた。都の方針は、そんなに悪いのかなあ」と増資に理解を示すが、今後の期待は「万が一の緊急避難先」程度だという。
品川区の発光ダイオード照明開発会社の板倉敏夫社長(76)は05年の夏前、新製品の開発で資金が必要になり、約900万円を借りた。その後、複数の都銀から相次いで計約2億円の融資を受けることができた。「新銀行がきっかけになった。感謝している」というが、「今は融資を受ける予定はない」。◇
新銀行東京が開業した05年ごろには、すでに銀行の不良債権処理にめどがつくなどして、中小企業への貸し渋りが減っていたことが、都の調査から読み取れる。
1998年から中小企業を対象に実施している、金融機関の借り入れ・返済に対する姿勢を示す「借入・返済DI」調査=グラフ=によると、02年ごろから「厳しい」から「緩やか」へと上向き始めた。新銀行の設立時は調査開始以来、最も良好な水準。現在も高水準にある。
都商工部は「原材料費高騰などで、今後は厳しい方向にむかう可能性もある」と話している。
新銀行東京 新たな不良債権は向こう4年で316億円
[asahi.com 2008年03月14日11時08分]新銀行東京で、08年度から4年間で新たに316億円が不良債権となる見通しであることが分かった。同行は今年1月末時点で285億円の不良債権を抱え、4年後の不良債権は累計で600億円に達する。不良債権が膨らみ続けるなかで、東京都の同行への追加出資の是非が改めて問われそうだ。
都が議会側に提出した資料によると、新銀行は08年度に新たに198億円の不良債権が生じるとして、同額の不良債権処理費用を計上する。09年度は72億円、10年度が31億円、11年度は15億円になる見込みとしている。
関係者によると、同行が看板商品とした無担保無保証融資のずさんな審査が原因という。都によると、同行の融資先のなかで赤字や債務超過になっている企業は昨年12月末時点で5635社、融資額は415億円になっている。
新銀行東京:都幹部が最終原案の赤字を黒字目標に書き換え
[毎日新聞 2008年3月12日 2時30分 (最終更新時間 3月12日 13時13分)]「新銀行東京」の経営危機問題で、設立時に業務運営の基本指針「マスタープラン」の原案を作成した際、当初は「開業3年後(08年3月期)は単年度赤字」と分析していたのに、04年2月の発表時には、都側が「54億円の黒字」と書き換えていたことが分かった。11日、プラン作成の中心メンバーが、毎日新聞の取材に証言した。都側が新銀行設立前から、あえて楽観的な見通しを作り出していたことになり、批判を浴びそうだ。
マスタープランは、05年4月の開業当初から経営トップの代表執行役を務めた仁司泰正氏(67)ら執行役候補7人と都職員、専門家が検討を進めて作成された。経営や融資の基本姿勢を示した設計図といえるもので、原則無担保・無保証の中小企業向け融資など、新銀行の事業モデルを盛り込んでいる。
関係者によると、開業3年後に当たる08年3月期の目標は、数次にわたる付き合わせ作業を経て、原案では10?20億円の赤字とするデータを提示した。しかし、都側はこれとはかけ離れた54億円という大幅な黒字に改めて発表したという。関係者は「赤字では都合が悪かったのだろう」と指摘している。
新銀行はマスタープランについて「間違っていない」と一貫して主張しており、石原慎太郎知事ら都側も「プランが悪いのではなく、経営陣の問題」と強調している。
11日の都議会予算特別委員会でも、吉田信夫議員(共産)がこの問題を取り上げたが、都の佐藤広産業労働局長は「まったく存じ上げません」と答えるにとどまった。【市川明代、佐藤賢二郎、木村健二】
新銀行東京の融資拡大、都も要請 06年取締役会で
[asahi.com 2008年03月12日19時45分]無理な融資拡大に走ったため経営難に陥ったとされる新銀行東京をめぐり、1000億円を出資している東京都が、06年12月の取締役会で「融資残高が目標に届いていない」と、改めて融資拡大を要請していたことが12日、分かった。銀行側が作成した調査報告書では「06年に経営の転換を図るべきだった」として旧経営陣を批判しているが、都の責任を問う声もあがっている。
都側の資料によると、06年12月の新銀行の取締役会で、都は文書で「融資・保証残高は2819億円で、年間目標額4300億円の達成のためにはなお一段の努力が必要」と申し入れていた。
新銀行が経営悪化の原因を調べ、10日に公表した報告書では「(開業初年度の)05年度は、その時点の経営選択として、融資残高拡大の姿勢を必ずしも非難しない」としつつ、「1年を経過し、異常なデフォルト(債務不履行)発生を認識した時点で経営転換を図るべきで、06年度の融資での損害は経営判断の責任」と指摘した。
また、10日に記者会見した新銀行の津島隆一・現代表執行役は「06年7月に取締役会は経営悪化を把握した」と述べている。取締役には都OBもいるが、都側はその後も融資拡大を求めていた形となる。
当時の都の姿勢について、都産業労働局は「融資先が返せなくてもいいからとにかく貸せという意味ではなかった」と説明。一方で、石原慎太郎知事は「旧経営陣が融資拡大路線に固執した」などと繰り返し強調してきた。都議会野党は「都がやったことは目標達成に向けハッパをかけたようなものだ。責任を押しつけた旧経営陣と変わらない」と批判する。
新銀行東京、融資の3割超が中小支援以外に
[NIKKEI NET 2008/03/13 16:01]取引先企業への融資が焦げ付いて経営が悪化している新銀行東京(東京・千代田、津島隆一代表執行役)が、融資残高の3割以上を国の特別会計に貸して余資を運用していたことが13日明らかになった。融資以外にも、債券など有価証券で多額の資金を運用しており、運用先に苦慮していることが浮き彫りになった。新銀行東京は中小企業支援を目的に設立しており、設立目的と異なる経営実態は都議会の審議にも影響を与える可能性がある。
新銀行東京の預金残高は昨年9月末時点で4465億円。このうち融資残高は2218億円で、預金に占める貸し出しの比率は49.6%の低水準。さらに融資残高の内訳をみると、中小企業向け融資がざっと1300億円ほどで、残りが「大企業向けなど」と公表している。
新銀行東京:「無担保・無保証」廃止、4年で残高ゼロに 中小企業融資を転換
[毎日新聞 2008年3月15日 東京朝刊]東京都に400億円の追加出資を要請した「新銀行東京」(千代田区)が、05年4月の開業当初から看板商品に据える原則無担保・無保証の中小企業融資「ポートフォリオ」を、12年3月期までの再建計画の期間中に事実上廃止することが分かった。無担保・無保証融資が不良債権を急増させたためで、担保・保証付きの堅実な融資を一層進める。中小企業支援を旗印とした開業の理念からまた一つ遠ざかる格好だ。【木村健二】
ポートフォリオは、中小企業の事業資金を原則無担保・無保証で供給する融資方式。都が04年2月に作成した銀行の業務運営指針「マスタープラン」で主力商品に位置づけ、開業3年後に当たる08年3月期には融資残高約2800億円を目指していた。
しかし、財務諸表の分析に頼った審査で融資先の焦げ付きが多発、新銀行は07年6月、慎重な融資方針に転換。ポートフォリオについては当初、返済期間を最長5年、融資上限額5000万円と設定していたが、最長3年、上限額2000万円にそれぞれ改めた。この変更で、ポートフォリオの融資残高は、07年3月期の753億円から同年9月中間決算では533億円まで減少。新銀行はさらに融資額を減らして、担保・保証付き融資に重点を移し、再建計画に基づく貸し出し路線を徹底しポートフォリオの融資残高を12年3月期までにゼロにする。一部優良な融資先には、個別に無担保・無保証の融資も残す。
新銀行を巡っては、ずさんな融資を進めた結果、焦げ付きが今年1月末時点で約285億円に上った。さらに、12年3月期までの新たな処理費用に計316億円かかると見込み、開業から7年間の不良債権の累計は601億円に広がる見通しだ。
新銀行東京、融資の2割が都外企業に
[NIKKEI NET 2008/03/14 14:02]経営不振に陥っている新銀行東京(東京・千代田、津島隆一代表執行役)の融資・保証取引件数のうち、昨年12月末時点で2割超が東京都以外に本社のある企業向けであることが14日、明らかになった。新銀行は都が都内の中小企業支援を目的に1000億円を出資して設立しただけに、都外の企業との取引が多数に上ることは、都議会での追加出資案の審議にも影響を与えそうだ。
新銀行東京の昨年12月末時点での融資・保証取引は件数が1万1611件で、残高は2545億円。このうち都外企業が占める割合は件数で21.2%、残高ベースで12.5%。
新銀行は「貸し渋り、貸しはがし」に苦しむ都内の中小企業を支援するため、都が主導して2005年に開業した。貸し渋り問題が収まり融資先開拓に苦心し、都外の信用金庫とも保証について提携したことで都外企業への融資・保証が膨らんだもようだ。
各紙社説は、どれも400億円つぎ込むよりも破綻処理にすすむべきだと指摘している。
社説 「石原銀行」の経営責任糺せ
[日経新聞 2008年3月14日]東京都が新銀行東京に400億円を追加出資する議案を巡る都議会の審議が続いている。巨額の税金投入がどうして都民の利益につながるのか疑問はむしろ膨らむばかりだ。
石原慎太郎知事が設立を主導した新銀行東京はまさに危機的な状況にある。累積赤字はこの3月期に1000億円を突破し、増資が実現しなければ2008年度末には自己資本比率が国内基準である4%を下回る。すでに285億円の融資や保証が焦げ付き、今後4年で倍増する。
石原知事や同行は、拡大路線を突き進んだ民間出身の仁司泰正元代表ら設立時の経営陣の姿勢を強く批判している。確かに仁司氏に一定の責任はあるだろうが、一方で都の責任を不問とする点は公平ではない。
同行の社外取締役には都OBや石原知事の知人も入っていたし、都自身が06年6月の株主総会で融資拡大を当時の経営陣に求めている。
同行が提出した再建計画も矛盾点が多い。都は銀行存続の最大の理由として1万3000社に上る融資先への支援継続をあげるが、再建計画では融資残高を4年間で6分の1に圧縮する。しかも、従来の「無担保・無保証」中心のビジネスモデルは見直し、担保を原則求めるどこにでもある普通の金融機関になる。
同行の中小向け融資は全体の半分強にすぎない。これで「中小企業のための銀行」と呼べるのか。大幅な店舗縮小で預金者も不便になる。
都は銀行を清算するよりも存続した方が都民負担は小さいと説明している。確かに増資すれば当面の破綻は避けられるが、それで経営が好転するわけではないだろう。
都議会でのこれまでの審議で増資の妥当性は明らかになっていない。通り一遍の質疑で済ます都議会自民党の姿勢には、与党である点を割り引いても首をかしげざるを得ない。
経営責任を糺(ただ)すには、津島隆一代表や仁司氏、学識経験者らを参考人として招き、疑問点を徹底的に追及する必要がある。日程が厳しければ会期を延長すればいい。
ずさんな経営がこれだけ露呈しているのだから、金融庁は早期に検査に入るべきではないか。都議会でも野党の民主、共産両党から金融庁の検査を求める声が出ている。
石原銀行 まだ傷口を広げるのか
[東京新聞 2008年3月13日]石原慎太郎東京都知事が議会に新銀行東京への追加出資の了承を求めた。譲渡先も現れない銀行に税金を使って増資――では釈然としない。黒字経営の確たる見通しがなければ傷口を広げるだけだ。
「追加出資が負担の最も少ない方法だ」。石原知事は400億円の追加出資の妥当性を審議する議会でこう述べた。清算の場合、過去の同規模の金融機関の破綻(はたん)を例にとると、損失額が1000億円に上ってしまうので追加出資を認めてほしい。これが知事の主張である。
新銀行は2005年に開業したばかりなのに、ずさんな融資により今年3月で累積損失1016億円、都が出資済みの1000億円も含め資本の8割以上が失われる見込みだ。追加出資の財源は税金であり、都民がすんなり応じられる額ではあるまい。
増資しないと銀行の健全度を示す自己資本比率が国際決済銀行の基準である4%を割り込み、業務改善命令の対象になる。自ら主導してきた銀行であり、つぶせない。旧経営陣の責任を強調する知事の答弁からは、そんなメンツも見えてくる。
融資の焦げ付きは今後4年間で300億円、既に回収不能にある債権と合わせると600億円に上ると見込まれている。債務超過に陥っている融資先企業も、昨年末の段階で全体の3割に当たる4000社に達しており、さらに焦げ付きが膨らむことを覚悟しておかねばならない。
知事は「都民に役立つ銀行として再生させたい」とも述べた。追加出資後は6店舗を1店舗に、行員も減らして4年後に黒字化を図るのだという。融資額を4分の1に減らし、一方で収益は2倍にする。「経営規模を縮小して、どう収益増を図るのか」。知事は都民の疑問に、はっきりと答える必要がある。
新銀行は昨年来、11の金融機関と譲渡交渉を試みたが、いずれも断られた。新銀行の資産を再評価すれば、とても応じられない。それほどまでに劣悪と判断されたのだろう。
その結果が追加出資だ。資本増強は引受先を周到に探し、協力を求めるのが通常のパターンだが、新銀行の筆頭株主は出資比率8割の都であり、税金投入という“奥の手”が使える。安易と言わざるを得ない。
新銀行は中小企業を貸し渋りから救おうと創設されたが、今では中小金融は不良債権処理を終えた大手銀行や地域金融機関の草刈り場だ。新銀行は、その役割を終えている。
「進むも地獄、引くも地獄」。知事の弁である。同じ地獄ならば、議会も税金投入の最少化が期待できる事業清算を正面から論議すべきだ。
新銀行東京 石原知事は責任認めよ
[東京新聞 2008年3月15日]新銀行東京の杜撰(ずさん)な経営実態が次々と明らかになっている。石原慎太郎都知事は旧経営陣ばかりを追及し、追加出資要請を繰り返している。トップとしての責任を認め、清算の道も探るべきだ。
多額の累積損失がある新銀行東京に400億円を追加出資し、どう立て直すのか。これまでの都議会の議論では分からないままだ。14日の都議会後、石原知事は「不毛だった」と報道陣に言ったが、都民の不信は募るばかりだ。
不毛にしている原因は石原知事にもある。石原知事や都は1000億円を超える累積損失の責任について旧経営陣を厳しく追及しているが、都側の責任には触れずじまいだ。
新銀行は都が1000億円を出資して設立された。約84%の株式を保有する最大株主だ。銀行の業務は執行役が行うが、取締役会が経営を監督する。その取締役は知事と旧知の経営者や都OBらだ。株主、監督者の二重の立場から都には責任がある。
石原知事は新銀行設立を2期目の目玉公約に掲げ、3期目の知事選では「立て直す」と宣言していた。都議会では「発案者としてもろもろの責任を感じている」と述べた。
ところが「トップダウンによる決定の責任も入っているのか」という質問には「私一人が発想して行政が動くわけではない」と釈明した。
旧経営陣の責任追及は当然だが、都政トップの石原知事の責任も劣らず大きい。言い逃れめいた答弁をせず、失政を素直に認めるべきだ。そこから始めないと議論が進まない。
一方、都議会も手ぬるい。とりわけ、与党は及び腰だ。自民党には経営責任の追及や追加出資の是非を議論しようという姿勢がうかがえず、公明党はあまり触れたがらない。
民主党の対応も不十分だ。経営責任をただすには元代表執行役を参考人として招致すべきなのだが、反対する与党側と折れ合っている。
8年ほど前、都議が東京信用保証協会などに口利きし、見返りに謝礼を受け取っていたという制度融資に関係した事件があった。今回、放漫融資が問題の1つだ。都議側に厳しく追及できない理由が何かあるのかと勘繰ってしまう。このままでは議会はチェック機能が果たせない。
内部調査報告書の全文公開や元代表執行役の招致は追加出資の是非を議論するうえで不可欠な作業だ。都議会は会期を延長してでも、徹底的に新銀行問題を議論すべきだ。
店舗やシステムなどに過大投資し、コストが経常収益の5倍という実態も判明している。金融庁は早急に検査に入るべきでないか。
社説:石原銀行 ひど過ぎる知事の責任逃れ
[毎日新聞 2008年3月13日 東京朝刊]新銀行東京の経営破綻(はたん)回避を目指した400億円の追加出資を盛り込んだ08年度補正予算案の都議会での審議が大詰めを迎えている。これに先立って新銀行東京は、05年4月から07年6月までの経営調査報告を公表した。
都議会での石原慎太郎知事らの答弁も、調査報告書も同行が危機に陥った責任は設立時の仁司泰正元代表執行役以下経営陣にあるとの主張に終始している。
融資を急速に拡大するため、貸出先の経営内容を精査するという審査の基本を無視したことや、債務不履行の発生を不問に付したことは、信用システムの一端をになう金融機関の経営陣として許されることではない。早期に債務不履行貸出先増加防止策を講じていれば、焦げ付きが今年1月時点で累計285億円まで積み上がらなかったかもしれない。その意味では、旧経営陣の責任追及は当然のことである。
では、それがすめば、追加出資は認められるのか。そんな話ではない。
まず、都議会は仁司元代表執行役らの責任を明確にする上で、本人から意見聴取することが欠かせない。調査報告書は都庁出身の津島隆一代表執行役が委員長になってまとめた。都寄りの内容になってもおかしくない。客観性を高めるためにも、旧経営陣からの意見聴取は不可欠だ。そこで責任追及を深めるべきだ。
石原都知事の責任逃れの発言も、許されない。
石原知事は「すべて私の一存で進めてきたかのような指摘は当たらない」というが、新銀行計画は石原都政第2期の目玉として03年春に発案された。しかも、都は約85%の株式を保有している。実質都営銀行だ。それにもかかわらず、経営を監視できなかったとすれば、怠慢である。しかも、津島氏はマスタープラン作りにかかわった。
行政が設立した銀行である以上、石原知事や設立にかかわった幹部は責任を免れない。
また、今回、400億円投入してもそれで経営が立ち直り、中小企業振興に役立つ金融機関になるとは考えられない。新銀行東京が累積赤字解消のため検討している減資を実行すれば、さらに600億円を超える追加支援が必要になる。400億円と合わせれば1000億円を超す。
石原知事は清算となれば1000億円を超える負担が生じると説明してきた。何のことはない、存続しても、清算しても同程度の負担なのだ。地域の中小企業振興のために経営を立て直すといっても、そのニーズは低い。存在意義はなくなっている。
都議会各会派はこのことをしっかりと押さえて、審議に当たるべきだ。追加融資を認めることは、問題先送りになってしまう。それでは傷がさらに深くなることは目にみえている。
社説:新銀行東京 撤退への道筋描く時では
[毎日新聞 2008年2月19日 東京朝刊]石原慎太郎東京都知事は累積赤字が膨れ上がっている新銀行東京への追加出資を表明した。20日からの都議会に予算措置などを提案する見通しだ。400億円程度が投入されそうだ。
石原都知事が銀行設立構想をぶち上げた03年当時は、民間金融機関の貸し渋りや貸しはがしが指摘され、地域産業政策としての意味はあった。
しかし、営業開始は民間金融機関の正常化が進んでいた05年4月で、発足当初から苦戦を強いられた。その時点で存在意義に疑問があったといっていい。
いまさら、そうした金融機関を維持していく積極的な意味はあるのか。
新銀行東京は現在、新中期経営計画に基づき経営のスリム化に取り組んでいる。営業店舗の統廃合や店舗外ATM(現金自動受払機)の稼働停止などがその内容だ。民間金融機関と差別化し、資金の必要なところには融資は行っているとは言うが、貸出金残高が減っているように、審査体制も厳格化している。選別融資をしているのであり、経営悪化を食い止める新中期計画は設立の趣旨から乖離(かいり)しているのだ。
言い換えれば、民間金融機関の経営立て直しと変わらない。それならば、あえて、自治体が大半の資本金を出した金融機関が存在し続ける必要はない。自治体産業政策に金融を位置付けたいのであれば、民間金融機関を使った債務保証などの手法もある。
こうした状況や、昨年9月末時点で930億円の累積赤字があることからも、これまでの1000億円に加え増資に応じたとしても、経営が目覚ましく立ち直るとは考えにくい。仮に、当面の危機を脱したことで、積極策に転ずることになれば、さらに傷を深くすることすらあり得る。
撤退が最善の策であるならば、経営悪化の責任も明確にしなければならない。
石原都知事は記者会見で、新銀行東京の経営が悪化したのは、仁司泰正元代表執行役など最初の経営陣が常識外れの運営をしたからだと述べた。都議会で明らかにするこれまでの調査報告の結果によっては責任追及もあり得るとも語っている。
経営者に一義的責任があることは事実だが、この銀行は石原都知事の強い意向を受けて設立された。トップの人選にもかかわった。80%以上の株式を保有する都は経営に強い発言力を持っている。
ということは、石原都知事には大きな責任があるということだ。経営者が悪かったという発言は、自身の眼力のなさを示すだけだ。経営をしっかりチェックできなかった担当部署も責任を免れない。
今、都がやるべきことは追加出資ではない。それは納税者の納得も得られないだろう。撤退への道筋を描くことこそが緊急の課題である。
新銀行東京 旧経営陣だけの責任なのか(3月12日付・読売社説)
[2008年3月12日01時26分 読売新聞]こんな甘い融資姿勢では、銀行が傾くのは当然だろう。
経営危機に陥っている「新銀行東京」が、その主因は、銀行設立時の代表執行役らが放漫な貸し付けを推し進めたからだ、などとする調査報告をまとめた。
報告書によれば、当時の経営陣は、相手企業の返済能力を十分に審査せず、限度額いっぱい融資することを貸し付け担当者に奨励した。返済が滞っても、融資から半年以上たっていれば、担当者は責任を問われなかった。
貸し渋りに苦しむ中小企業に融資する、という設立目的があったにせよ、銀行としての限度を逸脱している。
大甘の融資によって救われた企業もあるだろうが、問題企業もまた群がって来たことは容易に想像できる。牛肉偽装で摘発された食肉卸会社に対し、不祥事が発覚した直後に融資を実行したことも判明している。
新銀行東京は、東京都が資本金の8割以上、1000億円を出資している“子会社”だ。都は、設立当初の経営陣を民事・刑事両面で追及する、という。
都民の税金で支えられた銀行で乱脈融資があったとなれば、見逃すことはできない。旧経営陣の責任を問うのは当然だ。
しかし報告書は、都の責任についてはまったく触れていない。石原知事はじめ都の幹部が被害者のように振る舞うことに、納得できない都民が多いのではないか。
新銀行東京は、石原知事が2期目の公約の目玉に掲げ、前面に立って設立を推進した。
不況下の中小企業を救う、という名分だったが、3年前の開業時は景気が上向き、大手金融機関も中小企業向け融資に力を入れ始めていた。新銀行の設立自体、再考すべきだったのではないか。
先行きが懸念される中でのスタートだった。都は開業時から経営の細部まで注意を払っていたはずだ。そうでなければ怠慢ということになる。杜撰(ずさん)な実態を全く知らなかった、では通らない。
都が被害者の立場を強調するのは、そうしなければ、新銀行東京に対して400億円もの追加出資を行う議案を都議会で通しにくいという事情もあろう。
だが、石原知事は失策を認め、勇気を持って、銀行業からの撤退を表明する時ではないか。
さらに傷口を広げることに、都民の理解は得られまい。店じまいを前提に、少しでも軽い損失で済む撤退策を探る方がいい。