自衛隊員の自殺が非常に高い割合で起きていて、防衛省も頭を悩ませているというニュース。
14日には、元航空自衛隊三等空曹の遺族が、「自殺したのはいじめが原因」として、国と先輩自衛隊員を相手取って損害賠償の裁判を起こした。また、先月には、漁船衝突事件を起こしたイージス艦「あたご」の当直士官が自殺未遂をしたが、これも自衛隊内で厳しい詰問にあったことが原因とみられている(ありていにいえば、「お前がちゃんと報告していれば、こんな騒ぎにならなかったんだ」といじめられた訳だ)。
ほかにも、訓練中に逃亡した隊員もいた。自衛隊の内部はいったいどうなっているのだろうか?
自衛官の自殺、後絶たず・他省庁公務員の2倍(日経新聞)
海自自衛官の自殺23人 07年度過去最多(北海道新聞)
空自浜松基地のいじめ自殺:「原因はいじめ」 遺族が地裁支部に損賠提訴(毎日新聞)
詰問で精神不安定か 「あたご」当直海士長自殺未遂(MSN産経ニュース)
自衛官の自殺、後絶たず・他省庁公務員の2倍
[日経新聞 2008/04/16 夕刊]防衛省が自衛官の自殺に頭を悩ませている。年間の自殺者数が他省庁公務員と比べ約2倍で高止まりするなか、3月には漁船と衝突したイージス艦「あたご」の乗組員が手首を切り、病院に運ばれたことが発覚。同省は4月から全24万人の自衛官に対し、カウンセラーが常駐する「相談窓口」の番号の携帯電話への登録を指導するなど、隊員の“心のケア”に苦慮している。
防衛省、ケアに苦慮 ストレス増も原因?
「なぜ(自殺が)止まらないのか、正直よく分からない」。防衛省の担当者は困惑顔で話す。
年間60-70人前後で推移してきた自衛艦の自殺者数は、2004年度に94人と初めて90人を突破、05、06年度も93人と高止まりしたままだ。
人事院のまとめによると、一般職公務員10万人あたりの自殺者数(05年度)は17.7人。これに対し自衛艦は同38.7人と約2倍で、民間の27.8人を大きく上回る。
06年度の自殺理由の内訳では、最も多いのが借金問題などの「借財」で23人(約24%)。次いで「家庭」が11人(同11%)、「職務」が4人(同4%)と続く。基地などに張り付いて厳しい訓練が続く反動に加え、「イラクへの海外派遣やテロ関連警備の強化もストレス増になっている」(自衛隊関係者)との見方もある。
一方、自殺者の約6割が分類されいてるのが「その他・不明」。隊内のいじめを背景に挙げる意見もあるが、同省は「いじめが(自殺の)引き金になったとは断定できない」として、いじめによる自殺者は把握していないとの立場だ。
同省は03年度に自殺対策の専門チームを省内に設けるなど、対策を本格化。今年度は外部委託を含めた専門カウンセラーの採用増に、前年度の約3割増の7800万円を予算計上した。カウンセラーによる24時間体制の「電話相談窓口」の番号を携帯電話に登録するよう、4月から周知するなど、自衛艦の精神面のケアにより一層の注意を払っている。
しかし自殺者は後を絶たないのが実情だ。
公務員の自殺問題に詳しい森崎美奈子・帝京平成大大学院教授(産業精神保健)は「(自衛隊は)軍事組織という特性上、どうしても閉塞(へいそく)性を帯び、内部の人間関係に問題を抱えやすいのでは」と指摘。「相談体制拡充はもちろん、今や民間では当たり前だが、隊内の管理職らが部下の精神面のケアに注意を払う体制づくりが必要」と話している。防衛省「いじめ自殺ない」、OB「報告うやむやに」
防衛省は「いじめによる自殺者は把握していない」との立場を貫いているが、これに対し自衛隊OBらからは「隊内のいじめは深刻な問題」との声もある。
今年14日には、航空自衛隊浜松基地(浜松市)に所属していた三等空曹(当時29)が2005年に自殺にしたのは「先輩のいじめが原因」として、遺族が国と先輩の二等空曹(当時)に計約1億1000万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁浜松支部に起こすなど、裁判に発展するケースもある。
元航空自衛官で「自衛隊2500日失望記」(光文社)の著者、須賀雅則さんも「いじめは自衛隊では深刻な問題で、自分の在籍時にも自殺者は出ていた」と指摘。一方で「(いじめによる自殺は)管理責任に直結する。階級社会の自衛隊では上司が処分を嫌い、上層部に報告する際に(原因特定を)うやむやに済ませる傾向があった」と話している。
海自自衛官の自殺23人 07年度過去最多
[北海道新聞 04/16 16:06]海上自衛隊の不祥事が相次ぐ中、2007年度の海自の自衛官の自殺者数が過去最多の23人に上ることが16日、防衛省の調べで分かった。事務官を含めた陸海空の自衛隊員全体では89人と4年ぶりに100人台を割り込んだ中、海自の増加が際立っている。
同省人事教育局によると、07年度の海自の自殺者数は前年度の19人を4人上回った。
事務官を合わせた自衛隊員全体では、過去最多だった05、06両年度の101人を12人下回った。
海自以外の内訳は、陸自48人(前年度比17人減)、空自12人(同3人増)、事務官など6人(同2人減)。
海自では昨年1月以降、イージス艦の情報流出、インド洋での給油量隠ぺい、護衛艦「しらね」の火災、イージス艦「あたご」の事故など不祥事が続く中、「あたご」当直員が3月24日に自殺未遂を図る事件もあった。
こうした事態を踏まえ、同局は「海自で自殺が増えた原因などは今後分析する」とし、「自衛隊員全体で自殺者数は減ったが、一層減少につなげられるようメンタルヘルス対策などに力を入れたい」と話している。
10万人当たりの海自の自殺者数は51.7人。人事院がまとめた06年度の国家公務員全体の自殺者数23.1人に比べて2.2倍、18?60歳の国民全体の26.7人に比べても1.9倍に上る。
空自浜松基地のいじめ自殺:「原因はいじめ」 遺族が地裁支部に損賠提訴
[毎日新聞 2008年4月15日 東京朝刊]航空自衛隊浜松基地(浜松市)所属の3等空曹の男性(当時29歳)が05年に自殺したのは「先輩隊員のいじめが原因」として、遺族が14日、国と当時の先輩隊員に約1億1100万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁浜松支部に起こした。
訴状などによると、浜松基地第1術科学校に勤務していた3等空曹は、95年の入隊以降約10年間、配属先の整備部で先輩にあたる2等空曹から、殴るけるなどの暴行や「反省文100枚を書くか、辞表を出せ」「死ね、辞めろ」との暴言を繰り返し浴びせられるなどのいじめを受け、05年11月、浜松市内の自宅で首をつって自殺した。
3等空曹は生前、両親や同僚にいじめを相談していたという。
国の責任については「いじめは周知の事実だったのに、漫然と放置した」としている。
浜松基地広報班は「自殺後に内部調査をしたが、いじめはなかったという認識。訴状を見て誠実に対応したい」としている。
原告代理人の塩沢忠和弁護士によると、自衛隊内のいじめ自殺を巡り、国を相手とした損害賠償請求訴訟は全国で2件起こされており、別に1遺族が提訴を予定している。【平林由梨】
詰問で精神不安定か 「あたご」当直海士長自殺未遂
[MSN産経ニュース 2008.4.10 22:20]千葉県・野島崎沖で2月19日に漁船と衝突した海上自衛隊のイージス艦「あたご」の艦内で、3月24日に自殺未遂し一時入院した海士長が、事故原因をめぐり同僚や上官から問い詰められるなどした結果、精神的に不安定になっていた可能性があることが10日、わかった。
防衛省によると、海士長は衝突時、艦橋の当直(12人)の1人として見張り任務についており、海上保安庁による原因調査のため、他の艦員らとともに停泊中の艦内で上陸制限されていた。
海保は「隊員の精神面にも配慮して事情聴取しており、自殺未遂は予想外だった」としており、防衛省が事実関係の把握に乗り出していた。
海士長は事故直前に漁船の灯火らしきものを発見し、当直士官の水雷長に報告したが水雷長が回避行動など的確な指示を出さなかったため「どうして再度報告しなかったのか」と艦内で繰り返し詰問されていたという。海自幹部は「いじめとは断定できないが、精神的にかなり追いつめられていたようだ」との見方を示している。