あまりに小さいニュースなので、すっかり見逃していましたが、「新しい歴史教科書をつくる会」が2010年度から使用される歴史教科書の検定申請をおこなうと発表しました。
つくる会、20年度中に検定申請
[4月1日8時1分配信 産経新聞]新しい歴史教科書をつくる会(会長、藤岡信勝拓殖大教授)は31日、現行中学校教科書の採択期限が切れる平成22年度から2年間、今の学習指導要領に基づく歴史教科書を自由社から発行するため、20年度中に検定申請を行うと発表した。内容は、藤岡会長が代表執筆者となっている扶桑社発行の「新しい歴史教科書」を踏襲するとしている。公民教科書は発行を見送る。
さて、その「つくる会」ニュース(第234号)に面白いことが書かれていました。扶桑社が八木秀次氏ら「日本教育改革機構」「教科書改善の会」の教科書を発行するために設立した育鵬社が今回の検定申請を見送った、というのです。
第234号 平成20年 4月2日(水)
自由社版『新しい歴史教科書』を検定申請
平成21年4月からいよいよ採択戦へ
新しい歴史教科書をつくる会は、本年4月に受け付ける中学校教科書の検定に際して、『新しい歴史教科書』(三訂版)を自由社版として申請することを決定し、3月31日、文科省記者クラブで会見し発表しました。会見には、藤岡信勝会長、福地惇副会長、鈴木尚之事務局長が出席しました。
発表の内容は次の通りです。『新しい歴史教科書』(三訂版)の発行について
平成20年3月31日
新しい歴史教科書をつくる会(1)去る3月28日、新しい学習指導要領が告示され、中学校は平成24年から全面実施されることとなりました。平成22?23年の2年間は、現行学習指導要領のもとでの教科書を使用することとなりました。文科省はこの2年間に使用する教科書の検定申請をこの4月に受け付けます。
(2)新しい歴史教科書をつくる会は、すでに公表した通り、『新しい歴史教科書』を自由社から発行することを決定しています。したがって、本年4月から行われる中学教科書の検定に際し、自由社版の『新しい歴史教科書』を検定申請することといたします。
(3)新学習指導要領にもとづき平成24年から使用する教科書については、『新しい歴史教科書』『新しい公民教科書』の両教科書を新たに編集し、自由社から発行する予定です。
●解説
今回の発表に関して、会員の方から問い合わせがありますので、一問一答の形式でご説明します。
(問)今回、自由社が検定申請することとなったのはなぜですか?
(答)「つくる会」は扶桑社に対して、「つくる会」を辞めていった人たちも含めて従来どおりの執筆陣で、従来どおりに教科書をつくっていくことを申し入れました。しかし扶桑社はこの申し入れを拒否して、「つくる会」とは関係なく、扶桑社自身が新たな執筆陣のもとに独自に別の教科書をつくるとの方針を示してきました。これでは「つくる会」の趣意書に基づく教科書はつくれなくなってしまいます。そこで「つくる会」としては、別の出版社の協力を得て、「つくる会」の趣意書に基づく教科書をつくり続けることを決意しました。その結果、自由社から教科書を出版し、検定申請することとなった次第です。
(問)今回検定申請する『新しい歴史教科書』(三訂版)の内容はどのようなものになるのですか?
(答)内容は、基本的に現行の『新しい歴史教科書』(改訂版)の内容と変わりません。但し、一部書き直しや図版の変更等の手直しは行っております。基礎学力を重視した改善も試みました。検定申請は白表紙本で行いますので、来年3月の検定結果が出るまで内容をお見せできないのが残念です。
(問)『新しい公民教科書』の方はどうなるのですか?
(答)できれば『新しい公民教科書』も検定申請したかったのですが、残念ながら準備が間に合いませんでしたので、『新しい歴史教科書』だけを申請することになりました。
(問)扶桑社版の『新しい歴史教科書』はどうなるのですか?
(答)『新しい歴史教科書』の代表執筆者である当会の藤岡信勝会長は、3月28日、「現行『新しい歴史教科書』(改訂版)の配給期間が終了する平成22年3月をもって、同教科書に係る著作権使用許諾を打ち切る」ことを扶桑社側に代理人弁護士を通して通知しました。
したがって、平成22年3月をもって扶桑社版『新しい歴史教科書』の使用・販売は終了します。(問)扶桑社が教科書発行のために設立した子会社で、八木秀次氏らの「教科書改善の会」と組んで歴史教科書を出すと言っていた育鵬社は、検定申請しないのですか。
(答)編集作業を進めていると早くから表明していましたから、育鵬社も当然4月に検定申請するものと予想していました。しかし、伝えられるところによると、本年4月の検定申請を行わないとの情報もあり、その場合、扶桑社側は平成22年4月以降、『歴史教科書』を持たないことになります。
(問)今後の検定、採択の時期はどうなるのですか?
(答)平成22年度?23年度使用分については、20年度に検定、21年度に採択ということになります。来年の平成21年3月に検定合格後、4月からいよいよ採択戦ということになります。支部及び会員の皆様の奮闘をお願いします。(以上)
ちなみに、これに対して、育鵬社のホームページには、次のような扶桑社教科書事業部の反論を発表しています。
平成20年4月25日
「つくる会FAX通信」 に対する扶桑社の見解
扶桑社 教科書事業部
新しい歴史教科書をつくる会(以下、つくる会)は、本年4月17日付けの「つくる会FAX通信」で、株式会社自由社が文部科学省に同日付けで『新しい歴史教科書』(自由社版)を検定申請したことを公言しました。
これは、学習指導要領の改定期にあって、現行の学習指導要領に基づき、採択期間(通常は4年間)の特例としての2年間分(平成22年度、23年度使用)の中学校社会・歴史分野の検定申請であり、検定申請そのものは、制度上認められており、特段、これに異を唱えるつもりはありません。
問題は、まず、検定申請した中身に憂慮すべき点があることです。
その前に出された「つくる会FAX通信」(4月2日付け)によれば、つくる会は、今回検定申請する「新しい歴史教科書」の内容はどのようなものか――という自問自答に対し、次のように答えています。「内容は、基本的に現行の『新しい歴史教科書』(引用者注、扶桑社版)の内容と変わりません。但し、一部書き直しや図版の変更等の手直しは行っております」(下線、引用者)
これは、現行の扶桑社版を複製した可能性が多大であることを、自ら認めるものであり、大変に憂慮しております。
言うまでもなく、現在、各学校で使用されている現行の扶桑社版『新しい歴史教科書』は、執筆者、監修者、扶桑社が著作権を有する共同著作物であり、著作権者全員の了解を得なければ、この複製は、法律上、禁止されています。
当社は、つくる会の会長でもある藤岡信勝氏から、一方的に「著作権使用許諾を打ち切る」通知をいただいた時に、一執筆者である藤岡氏にその権限がないことも併せ、法律違反を行わないよう通知しております。次に、4月17日付け「つくる会FAX通信」では、以下のように記述されております。
「扶桑社(または子会社の育鵬社)は検定申請を行わなかったとのことであり、従って扶桑社は平成22・23年度使用の歴史教科書を供給できなくなることとなりましたので併せてお知らせします」
これは、当社に対する中傷であり、業務妨害以外の何物でもありません。
現行の扶桑社版『新しい歴史教科書』は、現行の学習指導要領に基づいているため、今回検定申請しなくとも、平成22・23年度分も継続的に発行できることは、法律上、認められているところです。
付言すれば、当社を含む中学校社会を発行するすべての教科書会社は、教育基本法の全面改正を受け、新しく告示(本年3月28日)された新学習指導要領に基づき教科書を編集すること(平成24年度からの使用分)に全力を挙げるため、今回の検定申請は見送っているとのことです。
さらに、当社が100%出資し、教科書事業を継承する株式会社育鵬社の設立段階から、新しい学習指導要領に基づき編集した教科書を株式会社育鵬社から発行し、それまでの間、現行版の供給が終わるまでは、扶桑社より引き続き発行することは、当社の一貫した考え方であり、広く関係者にお伝えしているところでもあります。
つくる会の藤岡会長にも、昨年8月の株式会社育鵬社の設立時期に当社社長の挨拶状でその旨をお伝えしてあります。
当のつくる会も、昨年9月9日に行われた第10回定期総会の「第3号議案」で、新しい学習指導要領に基づき教科書制作を開始すると自ら述べておりますが、今般、急遽方針を変え、さらに発行者である当社を何ゆえ中傷するのか、理解に苦しむところです。
当社は、藤岡氏に対し、現行の扶桑社版教科書を採択していただいている教育委員会や私立学校、そして供給先である中学校に無用の混乱、迷惑をもたらさぬよう、強く要請しましたが、それを省みることなく一方的な言動を行っております。
今回の藤岡氏、ならびにつくる会の一連の言動は、極めて遺憾であり、当社は、関係各位と協議を重ね、しかるべき対応をとる所存でございます。
また、当社は、現行の扶桑社版歴史・公民教科書を平成22・23年も引き続き発行し、社会的責任と法的義務を全うしてまいります。
関係各位におかれましては、上記事情をご賢察賜り、引き続きご理解、ご高配を賜りますよう、お願いいたします。
ということで、2010年度以降も泥仕合が続きそうです。
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