読売新聞、朝日新聞に続いて、何とこんどは、あの『産経新聞』が文化欄で、小林多喜二『蟹工船』のブームを取り上げています。
小林多喜二「蟹工船」突然のブーム ワーキングプアの“連帯感”(MSN産経ニュース)
小林多喜二「蟹工船」突然のブーム ワーキングプアの“連帯感”
[MSN産経ニュース 2008.5.14 07:46]小林多喜二の『蟹工船』(新潮文庫)が売れている。世界恐慌の起こった昭和4年に刊行されたプロレタリア文学を代表する作品だ。29年に文庫化され、これまでも年に約5000部が売れ続けるロングセラーだったが、今年に入って突然売れ始め、急遽(きゅうきょ)4月に7000部を増刷、それでも追いつかず、5万部を増刷した。ブームの背景には「ワーキングプア」と呼ばれる人々からの共感があるようだ。(桑原聡)
ブームのきっかけとなったのは、毎日新聞に掲載された作家の高橋源一郎さんと雨宮処凛(かりん)さんの格差社会をめぐる対談(1月9日付朝刊)だった。雨宮さんが「『蟹工船』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いました」と発言。これに高橋さんが「偶然ですが、僕が教えている大学のゼミでも最近読みました。そして意外なことに、学生の感想は『よく分かる』だった」と応じる、という内容。
この対談後、東京・上野の大型書店が、平積みにしてポップやパネルを使って販促を仕掛けると、多いときで週に80冊も売れるヒットとなり、他の大型書店が次々と追随、ブームに火が付いた。
下地もあった。「ワーキングプア」と『蟹工船』の労働者の類似性にいち早く着目した白樺文庫多喜二ライブラリーは一昨年11月、大学生や若年労働者をターゲットに『マンガ蟹工船』(東銀座出版社)を出版。増刷を重ね、発行部数は1万6000部に達した。
同ライブラリーは、多喜二没後75周年の今年、多喜二の母校・小樽商科大学との共催で『蟹工船』読書エッセーコンテストを実施。25歳以下を対象とした部門では国内外から117編、ネットカフェからの応募部門で9編の応募があった。「『蟹工船』を読め。それは現代だ」(20歳男性)、「私たちの兄弟が、ここにいる」(34歳女性)といったように、『蟹工船』に現代の労働状況を重ねるエッセーが大半を占めた。
同コンテストの審査員を務めた精神科医の香山リカさんは「低賃金や重労働にあえぐ若者の多くは『こうなったのは自分のせい』と思い込んでいる。自己責任論の高まりや非正規雇用を正当化する社会の仕組みが“おとなしいフリーター”たちを生んできた」と分析したうえで、『蟹工船』に関心が寄せられる理由をこう解説する。
「『働いているのに生活できないのはおかしい』『人間扱いされているとは思えない』と気づき、社会に向けて自分たちの状況を発信し、待遇の改善を求める若者も増えつつある。この本を読むことで彼らは、いつの時代も不当な働き方を強いられる労働者がいることに痛みを感じつつ、時代を超えた連帯を実感しているのではないでしょうか」
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【用語解説】『蟹工船』
海軍の保護のもとオホーツク海で操業する「博光丸」で暴力的な強制によって酷使される出稼ぎ労働者たち。人間扱いされない閉鎖空間で、過労や病気で次々と倒れてゆく。やがて彼らは人間的な待遇を求めて団結、ストライキに踏み切る…。
しかし、『蟹工船』ブームは、産経新聞では終わらなかった…