日経、毎日でも取り上げられました!!

「日経新聞」(右)と「毎日新聞」(いずれも2008年5月14日付夕刊から)

うちに帰って夕刊を見たら、「日経新聞」と「毎日新聞」でも、『蟹工船』(小林多喜二著)が取り上げられていました。

「産経新聞」の記事にもあったように、『蟹工船』ブームは、「毎日新聞」1月9日付の高橋源一郎・雨宮処凜両氏の対談で取り上げたのが始まり。そこから、読売、朝日、産経、日経、毎日と取り上げて、全国紙を一巡したことになります。(^_^;)

プロレタリア文学:名作『蟹工船』異例の売れ行き(毎日新聞)

プロレタリア文学:名作『蟹工船』異例の売れ行き
[毎日新聞 2008年5月14日 東京夕刊]

◇高橋源一郎さん雨宮処凛さんの本紙対談きっかけに

 日本のプロレタリア文学を代表する作家、小林多喜二(1903?33年)の『蟹工船(かにこうせん)・党生活者』(新潮文庫)が、今のワーキングプア問題と絡んで異例の売れ行きを示している。今年、すでに例年の5倍を超す2万7000部を増刷した。格差社会の現実を映したような現象が、関係者の注目を集めている。【鈴木英生】

 きっかけは、今年1月9日に毎日新聞東京本社版朝刊文化面に掲載された作家の高橋源一郎さん=と雨宮処凛(かりん)さん=の対談。2人は「現代日本で多くの若者たちの置かれている状況が『蟹工船』の世界に通じている」と指摘。それを読んだ元フリーターの書店員が、ブームに火を付けた。
 『蟹工船』は元々、1929年に発表された。カムチャツカ沖でカニを捕り、缶詰に加工する船の労働者が、過酷な労働条件に怒り、ストライキで立ち上がる話だ。一昨年と昨年には漫画版が相次いで出版されるなど、多喜二没後75年の今年を前に流行の兆しがあった。
 対談で、雨宮さんは「『蟹工船』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いました」「プロレタリア文学が今や等身大の文学になっている。蟹工船は法律の網をくぐった船で、そこで命が捨てられる」と若者たちの置かれている状況を代弁するように発言。高橋さんも「今で言う偽装請負なんだよね、あの船は」「僕は以前(略)この小説を歴史として読んだけれど、今の子は『これ、自分と同じだよ』となるんですね」と応えた。
 対談を知った東京・JR上野駅構内の書店、「BOOK EXPRSSディラ上野店」の店員、長谷川仁美さん(28)は2月に『蟹工船』を読み直し、「こんなに切実で、共感できる話だったんだ」と感じた。長谷川さんも、昨年まで3年間、フリーターだったという。
 そこで、長谷川さんは「この現状、もしや……『蟹工船』じゃないか?」などと書いたポップ(店頭ミニ広告)を作り、150冊仕入れた新潮文庫を店頭で平積みにしてみた。すると、それまで週にせいぜい1冊しか売れなかった同書が、毎週40冊以上売れ続け、多い週は100冊を超えた。平積みにしてから約2カ月半で、延べ約900冊が売れたという。
 この動きを見た新潮社も、手書き風に「若い労働者からの圧倒的な支持!」と書いたポップを数百枚印刷して全国の店に配ると、ブームが一挙に拡大した。そこで、3月に7000部、4月に2万部を増刷した。新潮社は今後、ポップをさらに1500枚印刷し、宣伝を強化する。
 新潮社では「こうした経緯で古典が爆発的に売れるケースは珍しい。内容が若い人たちの共感を呼んでいるうえ、03年の改版以来使っている、戦前の図柄を元にしたロシアフォルマリズム風の表紙も新しい読者に受けているようだ」と話している。

◇今の経済構造と類似――文芸評論家、川村湊さんの話

 『蟹工船』の労働者は、形式上、本人の意思で船に乗っている。だが、そこを脱する機会がない。これは、若者をフリーターから抜け出させない今の経済構造と似ている。輸出用の缶詰を作る労働者が搾取される構図も、今の世界資本主義のあり方を先取りして表現した。現代の若い読者には、この物語のような決起への呼びかけに対する潜在的な欲求があるのかもしれない。

「日経新聞」の記事の方は、インターネットで流れていませんので、全文貼り付けておきます。しかし、『蟹工船』ブームは、書店と出版社が仕掛けたものだとするあたり、実にビジネス紙の本領発揮といったところですが、「毎日新聞」に書かれているとおり、その上野駅構内の大型書店で最初に『蟹工船』に注目した店員は、元フリーター。彼女が、自分のフリーター体験に照らして、POPを書いたのがブームのきっかけ。書店と出版社が仕掛けたくらいでは、とても『蟹工船』のような本はブームになりません。やっぱり、内容が若者の共感を呼ぶ、そんな今の社会状況が根底にあることは明らかです。

ベストセラーの裏側 小林多喜二「蟹工船」
平積み・店頭広告 仕掛ける
[日経新聞 2008年5月14日付夕刊]

 小林多喜二の『蟹工船』(新潮文庫『蟹工船・党生活者』・400円)が売れている。毎年5000部は増刷する作品だが、今年の増刷分はすでに5万7000部。80年近く前に書かれたプロレタリア文学の古典が、なぜ今読まれているのか。
 「偽装請負や所得格差が問題になるなか、労働者の苛酷な現実を描いた内容に注目が集まっている」(新潮社営業部の渡辺憲司課長)というのが出版社の説明だ。この作品には、資本家に虐げられて徹底的に搾取される労働者の姿が描かれている。「現代のフリーターに状況が似ている」と指摘した作家もいるように、「格差」が喧伝される今の時代のムードに合致している面はある。
 だがそれだけではない。書店と出版社の積極的な販促が売り上げに拍車をかけている。人気の発信源となったのは東京・上野駅構内にある大型書店。この本を平積みにし、パネルを設置する「仕掛け販売」を展開したところ、ランキングで7位に入る健闘を見せた。
 これを見て売れると踏んだ新潮社も本気になった。「現代の『ワーキングプア』にも重なる苛酷な労働環境を描いた名作が平成の『格差社会』に大復活!!」と記した店頭販促(POP)広告を作成。今月から全国の1500店に配布を始めた。
 ユニークなのは販促の定番である「帯」をあえて使っていないところ。初版本を再現した表紙は、朱色と黒のコントラストがおどろおどろしい。「この表紙が並ぶと異様な迫力が出る」(渡辺氏)。説明無用というわけだ。
 現代の読者は、多喜二が訴えた左翼思想よりも労働現場の悲惨な描写に目が行くだろう。時代が変われば読まれ方も変わる。作家は拷問で不慮の死を遂げたが、彼が残した小説は現代に生きる幸福な作品となった。

多喜二が特高警察の拷問によって殺されたことを「不慮の死」ですませ、現代の『蟹工船』ブームを「幸福」と呼ぶあたりも、いったい何を考えているだろう? と思ってしまいます。

日経、毎日でも取り上げられました!!」への2件のフィードバック

  1. 経済5月号のお知らせで、経済5月号のブログで紹介されていたので、来ました。実は、それ以来ROMでした。私も経済の読者なのです(しんぶん赤旗の読者でもあります)が、大変興味深い内容を扱っておられるので、ちょくちょく来ては拝読させていただいています。今回の『蟹工船』の記事の紹介も大変興味深く読ませていただきました。特に、日本経済新聞の記事については同感です。不慮の死とは、日経は、何を考えているのか、と思います。
    右手に携帯電話、左手にi-pod、耳にイヤホン、の若者たちが少しでも自分のおかれた悲惨な状況に気づき、選挙に行き、自分たちの立場をよくしてくれる候補者に投票することを祈っています。

  2. ピンバック: 今日の喜怒哀楽

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