政府の社会保障国民会議が、基礎年金に「全額税方式」を導入した場合の試算を発表。しかし、どの試算でも国民負担は増税になっている。
しかし、現在、厚生年金の保険料は労使折半になっている。それを「全額税方式」として、全額消費税でまかなおうというのだから、企業側の負担がゼロになる分、国民の負担が増えることになるのは当たり前。オイラも、このブログで、そのことを何度も指摘してきたが、「全額税方式」という仕組みは、要するに、企業の負担を減らそうという財界の要望に沿った「改革」案なのだ。今回の資料によっても、そのことが改めて証明されたといえる。
日本経団連自身が、14日に、年金財源は「全額税方式で」という提言を発表している。社会保障「国民」会議などといいながら、実態は社会保障「財界」会議に他ならない。
基礎年金:「税方式」国民負担を試算 社会保障国民会議(毎日新聞)
年金税方式試算(1):サラリーマン 全世帯に増税直撃(毎日新聞)
年金税方式試算(2):自営業 月収50万円前後で差 年金生活者にも負担が(毎日新聞)
年金税方式試算(3):納付実績の扱いで差 3パターン提示(毎日新聞)
年金税方式試算(4)止:生活保護費、圧縮効果は限定的 消費行動変化の考慮なし(毎日新聞)
日本経団連:「基礎年金は全額税方式」が有力な選択肢(毎日新聞)
基礎年金:「税方式」国民負担を試算 社会保障国民会議
[毎日新聞 2008年5月19日 21時47分(最終更新 5月20日 1時08分)]政府は19日、基礎年金(月額6.6万円)の財源を全額税金でまかなう「税方式」に移行した場合、国民負担がどのように変わるかの試算をまとめ、社会保障国民会議(座長・吉川洋・東大大学院教授)の分科会で示した。(1)現行と同水準を一律給付(2)過去の保険料未納分を減額給付(3)過去の保険料納付分を上乗せ給付――などのパターンを設定し、09年度から移行する場合に追加的に必要な財源は9兆?24兆円で、消費税(1%で約2.6兆円)換算なら、現行の5%に、3.5?8.5%を上乗せすることになるとした。
試算は、政府方針に沿って現在は37%の国庫負担割合を09年度に50%に引き上げ済み――というのが前提。そのためには税方式導入の有無にかかわらず、別に約2.3兆円(消費税で1%弱)も必要で、これも含めた全体の消費税率は9.5?14.5%となる計算だ。
現行の基礎年金は、保険料中心の社会保険方式で運営されている。未納が減らないうえに、将来は無年金者が増える可能性もあり、同会議では「税方式に移行すべきだ」との意見もでた。そこで税方式を導入した場合の試算を示し、議論の参考にした。政府が税方式で本格的な試算を行ったのは初めて。
税方式は全員に一律額を給付するのが基本だが、試算は、保険料を支払ってきた人とそうでない人に差をつけるケースも想定した。
40年分の保険料を完納した人の基礎年金に、納付分に見合う年金(月3.3万円)を上乗せする(3)の場合、加算に必要な9兆円など24兆円の増税を要する。消費税なら8.5%だ。ただ、そのうち10兆円弱は保険料で負担していた分を税に振り替えるだけなので、実質の負担増は14兆円だ。
月収39.8万円の勤労者世帯なら月額5000円の保険料はなくなるが、消費税が増え、差し引き月額1.3万?1.6万円の持ち出しとなる。
また、(1)は14兆円(消費税率換算5%)、(2)は9兆円(同3.5%)の増税がそれぞれ必要。さらに、本来もらえるはずだった旧制度の年金全額の加算を受けるケースでは33兆円(同12%)となる。この場合、全体の税率は18%に達する。ただこの案は、旧制度の国庫による支給分まで税方式年金に加算される内容。税の「二重取り」との指摘もあり、実現性は極めて薄いと見られる。【吉田啓志】年金制度改革をめぐる社会保障国民会議の試算について、福田康夫首相は19日夜「仕組みの一つを紹介した。どれが国民の皆さんに納得できるか、いろんな試算の中から検討してもらう」と述べた。首相官邸で記者団に語った。【塙和也】
年金税方式試算(1):サラリーマン 全世帯に増税直撃
[毎日新聞 2008年5月20日]政府は19日、基礎年金の全額税方式導入に伴う消費税率の引き上げ幅や、現行の社会保険方式と比べて家庭の負担額がどう変わるかの試算を提示した。生活保護費の行方や、厚生年金のパートへの拡大などについても、独自の見解を示している。過去に納めた保険料相当分を年金受給額に上乗せするため、消費税率を8・5%引き上げるケースについて、サラリーマン、自営業者、年金受給者の各世帯の負担を点検してみた。
<サラリーマン>
◇全世帯に増税直撃妻がパート勤務(月収8万円未満)の会社員Aさん(世帯の月収約54万円)と、独身の会社員Bさん(同約34万円)の未来の負担額を予測してみよう。
Aさんの場合、現行の厚生年金保険料負担額(基礎年金分のみ)は月約7000円。全額税方式によって、この分はゼロになるが、消費税率引き上げに伴い、負担額は最大約2万7000円に。導入前後の差し引きでは、約2万円の負担増となる。
一方、Bさん。現行の保険料負担額は約5000円で、予測される消費税負担額は最大約1万6000円。負担増は約1万1000円。世帯構成により負担は大きく変わることになる。■平均1万9000円増
社会保障国民会議はこれ以外に「妻が専業主婦の会社員世帯」「共働き世帯」の2パターンについて試算しているが、いずれも負担増は2万円ほどになり、全額税方式になった場合、全モデル世帯で負担増になると予測。世帯平均(月収約53万円)の負担増は、約1万9000円と見込んでいる。
■高齢者に影響大
年齢別ではどうか。会社勤めを続けるCさん(65)=月収約39万円=と、中堅社員のDさん(34)=同43万円=の場合。
Cさんの保険料負担額は約2000円。しかし、全額税方式導入による消費税率アップで、負担額は最大約2万4000円へ。差し引き約2万2000円の負担増となる。これに対し、保険料負担が6000円だったDさんは負担額が最大2万1000円で、差し引き約1万5000円の負担増にとどまる。
Cさんの方が現行の保険料負担が少ないことなどが理由だが、65歳以上の会社員の負担が大きくなる。このほか、35?44歳(月収約53万円)約1万6000円増▽45?54歳(同61万円)約2万1000円増▽55?64歳(同52万円)約2万円増――などとなっており、すべての年齢層で負担増になると試算している。■低所得者に打撃
所得別ではどうか。世帯を月収別に(1)29万円(2)40万円(3)49万円(4)61万円(5)86万円――の5階層に分けた場合、消費税による負担増が月収に占める割合は、最大で(1)4・9%(2)4・1%(3)3・6%(4)3・4%(5)2・9%――。低所得層の家計への影響が大きいことを示唆している。
年金税方式試算(2):自営業 月収50万円前後で差 年金生活者にも負担が
[毎日新聞 2008年5月20日]<農家、商店など自営業>
Eさん(月の平均収入49万円)、Fさん(同61万円)、Gさん(同86万円)の3人の家計を試算してみると――。
1世帯当たりの国民年金加入者を1・7人と換算すると、保険料負担額(保険料免除の場合を除く)は1世帯約2万4000円。国民年金保険料は定額なので、世帯構成が同じと見て、現行の3人の保険料はいずれも同額として計算した。
全額税方式になると、3人の負担はEさん最大約2万4000円▽Fさん同2万9000円▽Gさん同3万8000円となる。このため、差し引きの負担増加分は、Eさんゼロ▽Fさん約5000円増▽Gさん約1万4000円増で、自営業者の場合、勤労者世帯よりも負担は相対的に軽くなりそうだ。
これは、サラリーマンよりも自営業者の方が基礎年金分の保険料負担額が高く、消費税負担分との差し引き額が少なくなるためだ。
月収50万円前後が、全額税方式導入で負担増となるかどうかの分かれ目になりそうだ。
ただし、自営業者の場合は支出に関する調査が乏しく、サラリーマンの収入データをそのまま用いて試算しており、「あくまでも一つのシミュレーション」(社会保障国民会議)と理解した方が良さそうだ。<年金で生活の高齢者>
◇ゼロ→最大2万円弱も現行の年金制度は、現役世代の保険料でお年寄りの年金を支える世代間の「仕送り」の仕組みだ。
全額税方式になれば、保険料納付の義務を終えた高齢者にも、消費税増税分の負担がのしかかるため、このシステムは事実上崩れる。
65歳の年金受給者Hさん(年金収入約21万円)のケース。保険料の支払いは終えたので、本来は年金を受け取るだけの立場だが、消費税による負担は最大約1万9000円増となる。
「せっかく保険料を払い終えたのに……」との不満の声は避けられそうもない。
年金税方式試算(3):納付実績の扱いで差 3パターン提示
[毎日新聞 2008年5月20日]基礎年金を税方式に移行するにあたり、過去に納めた保険料を給付算定にどう反映させるかによって三つのパターンが示された。現在保険料で負担している財源まで振り替えると、初年度の09年度から9兆?24兆円の追加財源が必要となる計算となる。これらをすべて消費税率引き上げでまかなうと現行税率に3・5?8・5%を上乗せする必要がある。
◇ケース(1)◇
過去の保険料納付実績は無視し、全員に満額給付(月6・6万円)することを想定。
◇
この場合、保険料で払われてきた分9兆円を税に振り替え、さらに未納者への給付分5兆円を新たにまかなう必要がある。合計14兆円の追加財源が必要な見通しで、消費税率に換算すればプラス5%となる。
政府は保険料の国庫負担割合を引き上げる方針。
そのためには別に2・3兆円(消費税率で1%弱)が必要となる。税方式移行前の国庫負担額は、その2・3兆円分を含め、計10兆円となる計算だ。初年度の給付に要する額は、10兆円に追加分の14兆円を加えた計24兆円となる。◇ケース(2)◇
過去に未納期間があった人は、未納分に応じて税方式での満額年金から減額される。税財源は少なくて済むが、未納があった人にとってはもらえる額も少なくなる。
◇
この場合、切り替え時に追加の財源負担は必要なく、保険料で負担してきた分を、税に振り替えるだけでよい。
ただ、時間の経過とともに、未納期間のある人が減っていくため、長期的には税金の投入額が膨らんでいく。
09年度の追加税額は保険料を振り替える分の9兆円だが、50年度には32兆円にアップする。
最終的に減額分がなくなるまでの移行期間は、おおむね65年間(2075年ごろ)とみている。◇ケース(3)◇
税方式の年金を全員に満額給付した上で、過去の納付に見合う分を上積みする。制度発足時の給付は手厚くなるが負担も重くなる。
◇
過去の保険料納付相当分(月3・3万円)を加算した場合、09年度には(1)保険料からの振り替え分(9兆円)に加え、(2)上積み分の税財源(14兆円)が必要。消費税率に換算するとプラス8・5%が必要になる。(3)国庫負担(10兆円)を合わせた基礎年金((1)+(2)+(3))の必要額は33兆円となる。
必要な税額は09年度は24兆円だが、高齢化の進展で50年度には42兆円に膨らむ。
ただ、長期的には上積みを受ける人が減るため、25年度以降の消費税率は、プラス8・0%に抑えられるとしている。
年金税方式試算(4)止:生活保護費、圧縮効果は限定的 消費行動変化の考慮なし
[毎日新聞 2008年5月20日]◇生活保護費、圧縮効果は限定的
全額税方式を導入すると「無年金者が減り、生活保護費が圧縮できる」との指摘がある。試算はこの問題についても検証している。
生活保護費のうち、生計費に相当する生活扶助支給額は8600億円(08年度)。65歳以上の生活保護受給者は全体の40%、59万人(うち無年金の人は31万人)いるため、65歳以上に支給される生活扶助額も全体の40%の約3500億円と推計した。全員が生活扶助を返上しても節減額は約3500億円にとどまる。
ただし、試算は「(無年金が解消され)収入が増えた場合、生活保護費の中でもまずは生活扶助費を減らすのがルール」との理由から、ほかの医療扶助(1兆3100億円)や、住宅扶助(3700億円)は減らないことを前提にしている。税方式移行に伴う生活保護費の圧縮効果を限定的にとらえた試算と言える。◇厚生年金、パートに拡大しても財政に影響小さく――企業は反対
現行の社会保険方式下で、パート労働者に厚生年金を適用すれば年金財政は改善するのだろうか――。
社会保障国民会議の試算は「影響は少ない」と結論付けた。週20時間以上の短時間労働者310万人に、厚生年金を適用したと仮定し、平均の報酬を6万円とすると、新たな保険料収入から年金給付額を引いた差額はマイナス700億円で財政は改善しない。
しかし、8万円なら同200億円、10万円なら400億円で、黒字化が見込めるとしている。
ただ、06年度の厚生年金の保険料収入は21兆円、支出は32兆円で、相対的にはパート労働者に厚生年金適用したとしても、財政への影響は小さいと見られる。
パート労働者を雇用する企業などは、パート労働者と同額の保険料負担を新規に負担させられるため、適用に反対する声が大勢だ。◇消費行動変化、考慮なし――試算前提、企業負担分の行方も
社会保障国民会議が示した今回の試算は、消費税率引き上げが消費行動に与える影響を加味しておらず、税方式導入で浮いた形となる企業の保険料負担分(本人負担額と同額)についても考慮されていない。
試算では、あらゆるサラリーマン世帯で負担増が避けられず、自営業でも月収50万円を境に負担が増える結果となったが、消費行動の変化や企業負担の在り方によって、それぞれの負担のバランスは変わる可能性がある。============================
この面は、中西拓司(生活報道センター)、佐藤丈一(政治部)が担当しました。
毎日新聞のグラフなどは↓こちらから。
日本経団連が姑息なのは、14日に、「全額税方式」についての提言を発表したとしておきながら、その提言全文は、政府の試算公表を待って、20日なってようやく公表したことだ。自分たちが、国民負担増の推進者だということが目立たないように、発表を遅らせたことは間違いない。
国民全員で支えあう社会保障制度を目指して?社会保障制度改革に関する中間とりまとめ(2008年5月20日 日本経団連)
日本経団連:「基礎年金は全額税方式」が有力な選択肢
[毎日新聞 2008年5月14日 22時03分]日本経団連は14日、社会保障制度改革に関する提言の中間とりまとめを発表した。現役世代が保険料で高齢世帯を支える現行のシステムから、消費税などを財源とした公費負担中心のシステムに移行すべきだとの立場を強調。基礎年金部分については全額税方式が「有力な選択肢」と明記した。今秋にも具体的な制度設計を盛り込んだ提言を発表する。
提言は、高齢化によって現行の社会保障制度を維持することが困難と指摘。公費負担中心のシステムに軸足を移すことに加え、少子化対策の強化や、高齢者や女性が働きやすい「全員参加型社会」の実現で就労人口を確保するよう求めている。
年金制度では消費税を念頭に「目的税化すれば財源と給付の関係が明確になり、国民の安心にもつながる」として、基礎年金の税方式化を打ち出した。
高齢者医療・介護保険制度では、高齢者人口の増加に合わせて、公費の投入割合を増やすよう見直しを要請。子育て世帯の経済的支援や職業訓練体制の強化による就労支援の拡充なども促している。【谷川貴史】