このままなら22年後に浸水被害だけで1兆円

大学や国立研究所など14機関の研究チーム「温暖化影響総合予測プロジェクト」が地球温暖化が日本国内にどんな影響をおよぼすか、被害予測結果を発表しました。

2030年の日本、被害年1兆円増――14機関共同研究(毎日新聞)
2030年、集中豪雨相次ぐ 温暖化の影響予測(中日新聞)
温室ガス排出このままなら…白神ブナ林、今世紀末に消滅も(読売新聞)

記者発表の内容は、↓国立環境研のホームページから読むことができます。
記者発表 2008年5月29日 地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「温暖化影響総合予測プロジェクト」成果発表のお知らせ? 地球温暖化「日本への影響」?最新の科学的知見? ?

2030年の日本、被害年1兆円増――14機関共同研究
[毎日新聞 2008年5月30日 東京朝刊]

◇豪雨急増、大都市を襲う洪水・高潮
 大学や国立研究所など14機関の研究チーム「温暖化影響総合予測プロジェクト」(代表=三村信男・茨城大教授)は29日、地球温暖化が及ぼす国内の被害予測結果を発表した。2030年には、豪雨増加による河川のはんらんで被害額が現状より年間1兆円増えるほか、東京、大阪、伊勢湾岸と西日本で高潮による浸水が2万9000ヘクタールに及び、52万人が被害を受けるなど甚大な災害が起きる可能性があると推定している。
 水資源、森林、健康などの分野別に、研究者44人が温暖化の影響を初めて総合評価した。温室効果ガス削減が進まない最悪のシナリオを基に、平均気温は30年に90年比で1.9度上昇するなどの仮定で試算した。
 その結果、「100年に1度」の集中豪雨が30年には「50年に1度」の確率に増え、特に三重、高知県などの太平洋沿岸や北陸、中国地方などの山間部で洪水被害が広がることが判明。東京、大阪など大都市圏も洪水が避けられず、被害額は急増すると試算した。また台風の強大化と海面上昇が進み、高潮による浸水面積が拡大。浸水被害を受ける人口は00年(29万人)の倍近い52万人に及ぶと推計した。
 気候変化による森林への打撃も深刻で、今世紀半ばにはブナ林が現在の44%と半分以下の面積に減少し、西日本や本州の太平洋側ではほとんど消滅。世界遺産の白神山地(青森、秋田県)のブナ林も、今世紀末ごろにはなくなってしまうと考えられるという。
 研究グループはこのほか、熱中症や光化学スモッグによる死亡リスクの増大も指摘。気温が一層高まる2100年には、感染症のデング熱を媒介するネッタイシマカが、千葉県南部まで北上するとしている。【山田大輔】

2030年、集中豪雨相次ぐ 温暖化の影響予測
[中日新聞 2008年5月30日 朝刊]

 地球温暖化を研究する東京大、茨城大、名城大など14研究機関でつくるプロジェクトチームは29日、2100年までに日本が受ける影響予測を発表した。今世紀末には気温が1990年比で4.8度上昇。海面は36センチ上がり、高潮時には137万人が浸水被害に遭う。北海道などでコメの収量は増加するが、世界遺産の白神山地のブナ林は消失するとした。
 影響が深刻なのは水問題。気温が2度上昇する30年には太平洋沿岸や山岳地域で集中豪雨が相次ぎ、今より洪水被害額が年1兆円増大する。台風などによる高潮で東京、大阪、伊勢の各湾と西日本を合わせて52万人が浸水被害を受け、今世紀末にはさらに拡大する。海面上昇により沿岸の憩いの場が失われ、今世紀末には砂浜で1兆3000億円、干潟で5兆円の経済損失が生じる。
 50年ごろのコメ収量は北海道で26%増えるなど、40?60年にかけて全国で増加傾向をたどるが、その後は不作が頻発して不安定化。耐暑性のあるコメ栽培が拡大する一方で、冷害が発生すると甚大な被害が出る。
 健康への影響ではデング熱を媒介するネッタイシマカが今世紀末には関東圏まで北上し、ヒトスジシマカも現在の東北から北海道まで分布が拡大する。
 研究を主導した茨城大の三村信男教授は「雨が多く山岳地帯が国土の7割を占める日本は、気候変動の影響を受けやすい。温室効果ガスの削減と同時に、適応に向けて対策を考えていかなければならない」としている。

 【地球温暖化の影響予測】 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による、温室効果ガスの排出量に関するシナリオを基に、温度上昇や海と大気の間のエネルギーのやりとりなどをコンピューターで計算する「気候モデル」を使って行う。今回の影響予測は東京大や国立環境研究所などが開発した地球シミュレーターによる温度上昇予測のデータを用いた。

日本の洪水被害年1兆円増、ブナ林消滅 温暖化続けば
[asahi.com 2008年05月30日01時44分]

 地球温暖化が日本に及ぼす影響に関する最新予測が29日公表された。このまま温暖化が進むと2030年代には豪雨の増加で洪水被害額が年平均1兆円分増えたり、40年代から国全体のコメの収量が減少に転じたりする。これまで比較的影響が小さいとみられていた温帯の日本でも被害が深刻なことを具体的に示した内容だ。

温暖化が今世紀中に日本に及ぼす影響
水資源
  • 豪雨が増え洪水被害額は30年代に年平均約1兆円増加
  • 豪雨でがけ崩れ危険地域は都市周辺に迫る。特に中国、東北で顕著
  • 北陸から東北の日本海側で田植え前の農業用水が不足
森林
  • ブナ林の分布適域が激減。白神山地では50年以降ほぼ消滅の可能性
  • 松枯れ被害は近く青森まで拡大。東北のマツタケ生産に壊滅的被害も
農業
  • コメ収量は50年ごろ北海道では26%、東北で13%増。近畿、四国は5%減
  • 90年ごろには九州や四国もコメ減収に
沿岸域
  • 海面上昇と高潮増加で、東京、大阪、伊勢の三大湾奥部や瀬戸内海などで浸水被害が増加
  • 上の地域で30年の浸水被害人口は52万人、2100年には137万人に拡大
健康
  • 熱中症など暑さの影響による死亡率が50年人3倍以上に増加
  • 光化学スモッグによる死亡率が上昇

(「温暖化影響総合予測プロジェクトチーム」報告書から)

 国立環境研究所や農業環境技術研究所など14の研究機関でつくる「温暖化影響総合予測プロジェクトチーム」が3年間にわたって研究した成果。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオの1つに基づき、現状のまま世界で温室効果ガスの削減が追加されない前提で、日本の平均気温が1990年比で2030年に1.9度、50年に2.8度、2100年に4.8度上がると仮定して検討した。
 水資源、森林、農業、沿岸域、健康の5分野で、2050年ごろまでを中心に今世紀中に地域別にどんな影響があるか分析。生態系には、20年代の1.5度前後の気温上昇でも松枯れ面積の拡大などの影響が出る。40年ごろには、ブナ林の分布に適した地域がほぼ半減することが見込まれる。
 洪水や土砂災害の危険性は30年代の2度を超えると急速に高まり、高潮で浸水被害を受ける可能性のある人口は現在の1.7倍に増える。農業は40年代の2.6度の上昇までは二酸化炭素が生育を促す効果などでコメの増収が見込めるが、それ以上では減収となる
 京都議定書に続く次期枠組みの合意内容次第で、将来の気温上昇幅は左右される。世界全体で2050年に半減以下にできれば2度前後の上昇に抑えられるとされている。

温室ガス排出このままなら…白神ブナ林、今世紀末に消滅も
[2008年5月30日01時58分 読売新聞]

 地球温暖化による将来の日本への影響について、国立環境研究所や茨城大など国内14機関が共同研究した結果が29日、発表された。
 温室効果ガスの排出が現状のまま改善されなかった場合、今世紀末には世界遺産の白神山地(青森、秋田県)のブナ林が消滅する恐れがあるほか、高潮被害が増大するなど各地に深刻な影響が出ると警告している。
 環境省の委託研究で、3年間にわたり研究者44人が参加。気温上昇の影響を計算する「関数」を開発し、森林、水資源、農業、沿岸域、健康の5分野にあてはめて地図に示すもので、世界的に珍しい研究という。
 前提となる気温上昇予測には、東大気候システム研究センターや気象庁などの気候モデルを使用。日本の平均気温は、東大モデルでは2031?50年に現在より2.2度、81?2100年には4.3度上昇し、気象庁モデルでは、それぞれ2度と2.6度上昇する。
 上昇幅が大きい東大モデルの場合、天然林であるブナ林は、現在に比べ、31?50年には56%減り、81?2100年には93%減少する。北海道や本州の山岳地帯にわずかに残る程度だ。世界最大規模のブナ原生林が広がる白神山地では、31?50年の段階で97.1%減、81年以降は消滅との結果が出た。ブナが気温の変化に対応して移動するスピードが、気温上昇のペースに追いつかないのが主な原因だ。
 高潮被害の恐れのある地域(東京、大阪、伊勢湾と西日本全域)の人口は2000年の29万人から30年には52万人に、2100年には137万人に増える。30年には、「50年に1度」のレベルの豪雨が「30年に1度」に増え、洪水被害額は年1兆円増と予測している。
 研究プロジェクトリーダーの三村信男・茨城大教授は「日本は北極圏や島しょ国ほどの影響はないとされてきたが、わずかな気温上昇でも大きな影響が出ることがわかった。長期的な適応策を検討する必要がある」と指摘している。

「中日新聞」には、次のような記事も出ていた。4月に東大で開かれたシンポジウムの記事だが、IPCC第4次報告の内容を、いかに広めてゆくか。「大変だ、大変だ」というだけでなく、こうした地道な努力に注目したい。

温暖化迫る危機 IPCC報告書のメッセージ(中日新聞)

温暖化迫る危機 IPCC報告書のメッセージ
[中日新聞 2008年5月20日]

 7月の北海道洞爺湖サミットは気候変動が主要テーマになる。温暖化対策が世界の重要課題と広く認識されるきっかけは、昨年発表された国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次評価報告書だった。報告書が伝えたかったメッセージとは何か。策定作業にかかわった科学者たちを中心に「サイエンスシンポジウム」が4月中旬、東京大で開かれ、“今そこにある危機”が突きつけられた。 (栃尾敏)

 地球温暖化は「さまざまな観測データを集めて分析した結果、疑う余地がない事実」と言い切るのは海洋研究開発機構の松野太郎特任上席研究員。「雪氷の減少が進み、強雨や干ばつといった極端な気象の発生頻度も近年増加している」。火山噴火などによる日射変動ではなく、温室効果ガス濃度増加つまり人為的なものが原因という。
 住明正東大教授は「温暖化は私たちの社会システムのあり方を考える具体的な問題提起」とみる。「貧困や医療、高齢化、格差なども併せて考えるべきだ。温暖化対策とは、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会から持続可能な社会へ転換させていくこと
 温暖化でどのような影響が出るのか。例えば水。IPCC第2作業部会のマーティン・パーリー共同議長は「北アフリカや南ヨーロッパ、中東は水不足だ。平均気温が1度上がると15億人が水不足になる。アジアや中国、メコン川では洪水が増える」と予測する。
 沖大幹東大生産技術研究所教授は「氷河の融解は水資源の観点から一時的にはプラス。だが、思わぬ洪水になり、なくなれば使える水資源は減る。比較的湿潤であまり水に困っていない高緯度や熱帯地帯で降雨はさらに増え、乾燥地帯ではもっと減る。水の格差が世界的に広がることが問題」と説明する。
 食糧生産も直撃する。原沢英夫国立環境研究所領域長は「温暖化の初期段階は、食物には栄養分である二酸化炭素(CO2)の増加で一部地域によい影響はある。穀物生産量は東・東南アジアで2050年までに最大20%増加。一方、中央・南アジアは最大30%減少する」と話す。インドの小麦生産は1度気温が上がると5?10%収量が減るといい、「アジアは人口増加と都市化が顕著。食糧安全保障問題が起き、日本に波及する」
 健康への影響もある。倉根一郎国立感染症研究所ウイルス第1部長は「熱波による熱中症、間接的には感染症やアレルギー疾患が増える。特に蚊の生息地や活動拡大で感染症増加や地域の拡大、水や食物の汚染による細菌感染症の増加が予想され、すでに影響が報告されている」と話す。
 ではどうしたらよいのか。対策の柱は、CO2排出削減(緩和策)と温暖化の悪影響の抑え込み(適応策)だ。
 緩和策について松橋隆治東大教授は、CO2排出量の多い産業ごとに削減可能量を積み上げて国別の削減目標を検討する「セクター別アプローチ」の有効性に言及。「進んだ省エネ技術を持つ日本が先頭に立ち、米国や途上国とともに削減していかないと解決しない」と日本のリーダーシップに期待する。民間も「家の新築の際、太陽電池の屋根設置が当たり前になれば、一緒にやろう、と日本が世界に呼び掛けられる」
 適応策では三村信男茨城大教授がサイクロンで大きな被害を重ねたバングラデシュの事例を紹介。国際社会の援助でレーダー観測システムの整備やサイクロンシェルター設置で効果を上げているとして、「気候変動対策を途上国の開発政策と一体化させる視点が大切」と訴える。

<記者のつぶやき> 温暖化のダメージが大きいのはアジアの発展途上国だという。先進国のしわ寄せが弱者にいく構図だ。日本は技術力、研究力ともに高く、世界に貢献できる。環境の世紀に存在感を示せるはずだが、あと足りないのは「政治力」か。

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