いいところを狙ってはいるのだが… 『大飢饉、室町社会を襲う!』

清水克行『大飢饉、室町社会を襲う!』(吉川弘文館)

応永27年(1430年)を中心とした大飢饉。寛正の大飢饉(寛正元?2年、1460-61年)とならぶ、室町時代の2大飢饉。この大飢饉に襲われたとき、上は将軍・室町殿から下は市井の人々まで、室町時代の人々はどうしたか? それを、地球史的な気候変動(この時期は「小氷期」に入っていたらしい)を踏まえつつ、当時の資料から解き明かそうという本です。

しかし、読み終わってみると、興味深い素材はいっぱいあるし、狙いもいいのだけれど、掘り下げが足らず、せっかくの材料を生かしきれていないという印象を持ちました。「小氷期」という気候変動的な枠組みも、「小氷期に入っていた」と書かれているだけで、地球史的な話はありません。帯に「ドキュメント、応永の大飢饉」と書かれている割りには、応永の大飢饉のとき日々どんなことが起こったのか、ドキュメンタリーな記述があまりありません。

別に、一路“生産力が上がってゆきました”的な歴史像を描けというつもりはありませんが、気候変動それ自体は自然科学的な現象なのだから、それはそれとしてきちっと確定させる作業が必要です。さらに、それが社会にどういう影響を与えるかということになれば、社会経済史的な知識を総合してかからなければ描ききれるものではありません。

大飢饉の様子が当時の記録にどのように描かれているか、もっと網羅的に素材を提示して、「応永の大飢饉」そのもののイメージを豊かに描いてほしかったと思います。そのうえで、荘園や都市で、どんな騒擾が起こったか、それをリアルに追究してあれば、「大飢饉、室町社会を襲う!」のタイトルが生きてきたのではないでしょうか。

しかし、つまらない本だというつもりはまったくありません。応永26年の朝鮮の対馬襲来とか、「古米か?新米か?」とか、足利義持の禅宗への肩入れとか、いろいろ興味深いネタがたくさん含まれています。

ただ残念なのは、それが「へえ?」話に終わってしまって、結局、「大飢饉」の時代の社会のさまざまな側面をいろいろ描き出したところで終わってしまったところです。たとえば、結末で、飢饉を経て村や町といった結合が強くなったと書かれていますが、そこでいわれている「村」とは何でしょうか? 当時の村は、それこそ在地領主、土豪、大人百姓、下人等々がいて、経済的階級的にも政治的にも激動の真っ最中だったと思います。それを描かずに、「村への結束が強まった」でまとめてしまったのでは歴史学にならないと思うのですが、どうでしょうか。

高校生でも読みやすい本を書くことは大事なことだと思います。しかし、ただすらすら読めるだけの本を書いても仕方がありません。著者は、僕より14歳も年下。注文が厳しくなってしまったかもしれませんが、若いときだからこそ、がっつり時代や社会と取り組んだ研究をすすめてほしいと思います。

【書誌情報】
著者:清水克行(しみず・かつゆき)/書名:大飢饉、室町社会を襲う!/出版社;吉川弘文館(歴史文化ライブラリー258)/刊行年:2008年6月/定価:本体1700円+税/ISBN978-4-642-05658-8

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