今朝(6/27)の「読売新聞」に、「気になる! 蟹工船ブーム『格差の証拠』」という記事が載っています。新潮文庫の増刷は、ついに35万7000部!!
その記事の中で紹介されていましたが、『蟹工船』ブームは海外メディアの注目も集めていて、新潮文庫編集部はAPやロイターの取材を受けたそうです。
蟹工船ブーム「格差の証拠」
(2008年6月27日 読売新聞)プロレタリア文学の代表作、小林多喜二(1903?1933)の「蟹工船」ブームが止まらない。新潮文庫版の増刷部数は今年これまでに35万7000部に上り、例年のざっと70倍のペース。この2か月間だけで、30万部以上を売り上げた。今なぜ、「蟹工船」なのか――。
「これ、今売れてるんだよね」。三省堂書店神保町本店では、平積みにされた「蟹工船」を、2人連れの若者が手にとっていた。同店は1、2階の数か所に新潮文庫版だけでなく岩波文庫版や映画DVD、漫画版も並べる特設コーナーを設置。昨年まではどの書店でも文庫の棚に1冊ある程度だったが、今や新刊のベストセラー並みの“待遇”を受けている。
「蟹工船」は、過酷な労働を強いられた労働者が団結して立ち上がるまでを描き、1929年に発表された作品。新潮社によると、購読層は10?20代が30%、30?40代が45%と、若者や働き盛り世代が7割以上を占める。
インターネット上のブックレビューでは、「船内に労働者が閉じこめられた描写は満員電車の通勤風景を想起させ、死ぬ寸前までの酷使は過重な残業を思い起こさせる。古さを全く感じなかった」などと、現代と重ね合わせた感想が目立つ。「多彩な人物、セリフを多用した臨場感。小説的面白さをくみ取れる」といった文学作品としての面白さを訴える声も多い。
「蟹工船」をめぐる動きは若者だけにとどまらない。購読者の約25%は、50歳以上の中高年層だ。「文芸春秋」7月号では、評論家の吉本隆明さんが、「『蟹工船』と新貧困社会」をテーマに寄稿。「『戦後』が終わって『第二の敗戦期』が訪れた現代社会における現実のしんどさと前途への不安」が、ブームの背景にあると分析している。
海外メディアからも注目を集めている。新潮文庫編集部には今月、APやロイターなどからの取材が相次いだ。いずれも「蟹工船ブームは日本の格差社会の動かぬ証拠」との視点で、取材に訪れているという。
貧困に陥った人々の支援活動に携わり、「反貧困」(岩波新書)の著書もある湯浅誠さん(39)は、「我々のところへ相談に来る人たちはどん底まで行った人たち。物理的にも精神的にも何かを考えたり行動したりするパワーすらない状態だが、『蟹工船』を読んで自殺でも自傷でもない団結というやり方もあることを知っていく可能性はあると思う」と話している。(金巻有美)
ただし、この記事にでてくる吉本隆明の『文藝春秋』論文は、斎藤美奈子さんが「かなりねぼけた論を展開している」(「朝日新聞」6月25日付文芸時評)と書いているとおり、まったくひどい代物です。
同じ評で、斎藤さんは、「それにしてもワーキングプア層に訴える作品が79年前のプロレタリア文学しかないとしたら…、80年間、日本の文学は何をしてきたのだ、という話にならないだろうか」とも指摘されていますが、なかなか的確なご意見のように思います。