佐賀地裁、諫早湾堤防の5年間開門を命じる

諫早湾干拓事業訴訟で、佐賀地裁が、潮受け堤防の5年間開門の判決。

漁民たちの堤防撤去の訴えを認めた訳ではありませんが、国のやり方を「立証妨害」と批判し、漁業への影響を調査するために5年間の堤防開門を命じました。

これにたいし、九州農政局は「予期せぬ被害が出る恐れ」といっていますが、これは、判決がそうした被害に備える工事をするために3年間の猶予を認めていることを、わざと無視した意図的なコメントです。潮受け堤防を設置するときは、「予期せぬ被害」を認めようとしなかったのに、開門するときだけ「予期せぬ被害」を言い立てるあたりも、厚かましい話です。

諫早湾干拓事業訴訟:5年間の開門命じる 漁業被害、一部認定――佐賀地裁判決(毎日新聞)
「予期せぬ被害出る恐れ」諫早湾裁判で九州農政局が会見(MSN産経ニュース)
宝の海再生に光、諫早干拓訴訟判決に原告「勝った」(読売新聞)

諫早湾干拓事業訴訟:5年間の開門命じる 漁業被害、一部認定――佐賀地裁判決
[毎日新聞 2008年6月27日 東京夕刊]

◇堤防撤去は認めず

 国営諫早湾干拓事業(諫干)による潮受け堤防の閉め切りで漁場環境が悪化したとして、佐賀、福岡、熊本、長崎の有明海沿岸4県の漁業者ら約2500人が国を相手取り堤防撤去や常時開門を求めた訴訟の判決が27日、佐賀地裁で言い渡された。神山隆一裁判長は諫早湾とその近郊で起きている漁業被害と閉め切りとの因果関係を一部認め、国側に5年間にわたる排水門の開門を命じた。諫干を巡る一連の訴訟で、開門を命じた司法判断は初めて。
 判決は、諫早湾とその周辺の環境変化と閉め切りの因果関係について「魚類の漁船漁業、アサリ採取・養殖の漁場環境を悪化させている」と認定した。
 「漁民らにこれ以上の立証を求めることは不可能を強いる」とした上で、「因果関係の解明に有用な中・長期開門調査を国が実施しないことは、もはや立証妨害と言っても過言ではない」と国側の姿勢を厳しく指摘。また「判決を契機に速やかに中・長期開門調査が実施され、適切な施策が講じられることを願ってやまない」と国側に異例の注文を付けた。
 国側は潮受け堤防排水門の開門について「閉め切りによる漁場の悪化もない。排水門を開放すると、排水門の周辺に速い潮流が起き、堤防の安全性や漁業に悪影響を及ぼすことが懸念される」などと請求棄却を求めていた。
 判決は、中・長期開門調査に必要とされる5年間の開門を国に命じたが、開門の際に潮受け堤防の防災機能を代替させる必要があるため、その工事期間として開門実施を判決確定から3年間猶予した。一方、堤防の撤去や慰謝料請求は認めず、請求権のない原告の訴えも退けた。
 諫干と漁業被害との因果関係を認めた司法判断は、04年8月に佐賀地裁が出した工事差し止めの仮処分決定がある。この決定で諫干工事は一時中断したが、福岡高裁が05年5月に取り消し、同9月に最高裁で確定した。
 今回の訴訟は02年11月に提訴。当初は工事差し止めを求めたが、工事がほぼ完成したため、06年11月に請求を「堤防の撤去か開門」に変更し、05年10月には開門を求める仮処分も申し立てたが、却下された。【姜弘修】

◇馬奈木昭雄・弁護団長の話

 全面勝訴だ。「国が開門しないのは、立証妨害に匹敵する」と裁判所は述べており、道理にかなった判決。高く評価する。国は直ちに開門にとりかかるべきだ。

◇九州農政局の話

 判決内容を詳細に検討し関係機関と協議のうえ対応を判断したい。

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■解説
◇「立証妨害」 国を批判

 諫干と漁業被害との因果関係を一部認定し潮受け堤防の開門を国に命じた27日の佐賀地裁判決は、堤防閉め切り後の漁業不振にあえぐ漁民の訴えをくみ取り、既に完工した国の巨大事業に修正を迫った。堤防閉め切りから11年。漁民の中には生活苦とみられる自殺者も出ており、国は早期解決の道を探るべきだ。
 潮受け堤防の影響を調べるためには、半年から数年にわたって堤防の排水門を開け、開門前後の海況データを集める「中・長期開門調査」が不可欠とされてきた。だが、開門の決定権を持つ国は調査を見送り、情報量で大きく劣る原告側は訴訟で困難な立証を迫られてきた。「因果関係を認めるに足るデータや資料の不在」を理由に、漁民側の訴えを退けた福岡高裁の判断(05年5月)や、公害等調整委員会の原因裁定(同8月)はその典型だった。
 今回の判決は、こうした状態に風穴を開けた。判決は国の姿勢を「立証妨害と同視できると言っても過言ではない」と批判。中・長期開門調査に要する期間に相当する「5年間の開門」という結論を導き出した。【姜弘修】

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■ことば
◇諫早湾干拓事業

 農地造成と防災を事業目的として、97年4月に諫早湾央部に設置した潮受け堤防(長さ約7キロ)で干潟を含む約3500ヘクタールを閉め切った。湾奥部に二つの干拓地を造成、干拓地以外は海水を淡水化して調整池とした。鉄板を次々と落とす閉め切りは、「ギロチン」と形容された。今年4月に干拓地の本格的な営農が始まり、総事業費は2533億円。

「予期せぬ被害出る恐れ」諫早湾裁判で九州農政局が会見
[MSN産経ニュース 2008.6.27 21:24]

 諫早湾干拓事業の潮受け堤防開門を国に命じた佐賀地裁判決を受け、九州農政局の国弘実整備部長は27日、熊本市で記者会見し、「主張が認められず残念。開門によって今までと異なる環境ができるため、(営農などに)予期せぬ被害が生じる恐れがある」と指摘した。
 また、国弘部長は「開門に伴う被害軽減のためには相当な期間や費用がかかる」と述べ、中長期の開門の実現は困難との見方をあらためて示した。控訴については「関係省庁と協議して判断したい」と述べるにとどめた。

宝の海再生に光、諫早干拓訴訟判決に原告「勝った」
[2008年6月27日 読売新聞]

 閉ざされていた排水門が開く――。国営諫早湾干拓事業について佐賀地裁は27日、潮受け堤防の排水門を5年間開門することを国に命じ、「環境への影響を十分に調査すべきだ」と指摘した。
 「ギロチン」と呼ばれた潮受け堤防の閉め切りから11年余。かつて豊富な資源を誇った海で生計をたてる漁業者たちや、環境問題に関心を寄せる人たちは「これで有明海が生き返れば」と“宝の海”の再生に光を見いだした。
 午前10時2分、3階の1号法廷で神山隆一裁判長が主文を読み上げると、傍聴席に詰めかけた漁業者らの間にどよめきがわき上がり、「よし」とうなずく人もいた。
 神山裁判長は約10分にわたり、判決理由などを述べた。開門しない国の姿勢を「もはや立証妨害としか言えない」と断じた時には、「おー」という声が上がり、涙ぐむ女性も。「速やかに中・長期の開門を行い、施策に生かしてほしい」と締めくくると、漁業者らは大きくうなずいた。閉廷後には拍手が起こり、握手する姿があちらこちらで見られた。
 地裁前では、正面玄関から原告の代理人弁護士らが「勝訴」「農水省断罪」などと書いた紙を掲げて走り出てくると、待ち受けた約40人が拍手で出迎え、口々に「やった」「勝った」と声を上げ、万歳を三唱した。
 原告の一人、長崎県諫早市の無職荒木英雄さん(73)は、「信じてはいたけれど、これまでだいぶ裏切られていたので不安だった。感激でいっぱいです」と、興奮気味に語った。
 一方、諫早湾の中央干拓地で有機栽培のカボチャやショウガを作っている長崎県雲仙市の長谷川征七郎さん(65)は「環境に手を加えることには私も基本的には反対。だから漁業者の気持ちもよくわかる。しかし、今になって開門したら農地がどうなるのか想像もつかない」と不安を訴えた。

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