「東京新聞」記者の眼でも『蟹工船』

「産経新聞」のイチャモンつけはほっといて、昨日の「東京新聞」夕刊(6/28)の「記者の眼」欄で、文化部石井敬記者が、「『蟹工船』ブームの背景」について書いていました。

「派遣やアルバイトで一生食べて行かざるを得ないと覚悟する若者が、どれほど深い絶望感を抱いているのか」「社会の側が『蟹工船ブーム』をどれだけ危機感を受け止められるかにある」と指摘しています。

「蟹工船」ブームの背景
若い不安定労働層が共鳴 危機感を問われる社会
[東京新聞 2008年6月28日付夕刊]

 昭和初期に書かれたプロレタリア文学の「蟹工船」が、若いワーキングプア層の共感を得て爆発的に売れている。背景にあるのは、希望の見えない労働環境に置かれた若者たちの閉塞感だ。

 「蟹工船」は小林多喜二(1903-33)の代表作。北洋で過酷なカニ漁に従事する貧しい労働者たちが、団結して立ち上がろうとする姿を描いた。
 新潮文庫版は、今年3月から6月までに35万7000部を増刷した。例年は年間5000部ほどというから驚くべき数字だ。28年ぶりに同文庫の「夏の百冊」にも復活する。新潮社によると20代と30-40代の読者が3割ずつ占める。
 多喜二生誕100年の2003年以降、シンポジウム開催や漫画「蟹工船」刊行などで見直しの機運があったが、火が付いたのは今年初めから。ワーキングプア層の実態になぞらえた都内の書店の手書き広告で売れ始め、一気に広がった。
 若い世代の「連帯」を求めて5月に創刊した雑誌「ロスジェネ」編集長の作家浅尾大輔さん(38)は「派遣労働者の低賃金と身分の不安定さ、過酷さは、『斡旋屋』を介してピンハネされて蟹工船に送り込まれる労働者と同じ。現代の若い不安定労働層が、自らの働き方を重ねて読める唯一の小説だと思う」と語る。
 派遣やアルバイトで一生食べて行かざるを得ないと覚悟する若者が、どれほど深い絶望感を抱いているのか。秋葉原の無差別殺傷事件でも、その一端があらためて浮き彫りにされた。問われるべきは、社会の側が「蟹工船ブームをどれだけ危機感をもって受け止められるかにあるだろう。
 浅尾さんは最近、年配の人たちから「青年たちの実情が知りたい」と講演を依頼されることが増えてきたという。若者らの貧困問題を「自己責任」で片付けられる段階は、とうに過ぎている。世代を超えた当事者意識が必要だ。

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