洞爺湖サミットが終わりました。サミットの課題はいろいろあったが、地球温暖化問題について、サミットは何をしたのか。関連情報を集めてみた。
再送:〔焦点〕G8温室ガス削減合意に新興国から後退批判、09年末の決着に不透明要素(ロイター)
社説:北海道・洞爺湖サミット 先進国の削減責任が不明確だ(毎日新聞)
社説:G8合意、50年50%排出削減の微妙さ(日経新聞)
新興5か国が政治宣言、先進国により大きなCO2削減求める(読売新聞)
温室効果ガス削減目標、新興国と合意できずG8宣言の力不足示す(ロイター)
2050年までに温室効果ガスの排出量を半減させる必要があることでは大方の合意があるにもかかわらず、合意に至らなかった理由は何か。結局、G8で、2050年までに先進国がいったいどれだけ温室効果ガス排出量を減らすのか、という目標を明確にできなかったことにある。“先進国も半減するから、途上国も半減してね”では、途上国が納得しないのは当然だ。途上国には、当然のことだが、経済発展する権利がある。だから、地球全体で半減させるためには、先進諸国が率先して80-90%の削減をすすめる必要がある。
もちろん、途上国も、経済発展するから温室効果ガス排出量は増えてもかまわない、という訳にはいかない。途上国も排出量は削減しなければならない。温室効果ガス排出量を減らしながら成長をすすめる、そういう新しい経済発展の型をつくり出さなければならない。先進国にとっても、いまのような大量生産・大量消費の経済スタイルを続けたままで、温室効果ガス排出量を80-90%減らすことができるかどうか、厳しく問われている。
G8は、そういう覚悟を先進国として明確にすることができなかった。「2050年までに世界中で50%削減という目標を共有する」というのは、G8に求められた責任という点からいえば、それを果たせなかったということになるだろう。あらためて、国民的な合意をつくってゆく努力が求められる。
再送:〔焦点〕G8温室ガス削減合意に新興国から後退批判、09年末の決着に不透明要素
[ロイター 2008年 07月 9日 07:26 JST][北海道洞爺湖 8日 ロイター] 主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)は、最大の懸案だった地球温暖化問題で、2050年までに温室効果ガスを50%削減する長期目標について、世界全体で共有することに合意した。だが、G8以外の新興国からは早速、後退したとの批判が出る一方、G8の一部からも今後の具体的な数値目標での合意が重要との声が上がり、実質的には09年末までの結論に遠い道のりを残す実態が浮かび上がった。
サミット最大のテーマである地球温暖化対策に関するG8首脳宣言では、2050年までに温室効果ガスを50%削減する長期目標を「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の全締約国と共有」し、同条約下での交渉において「これら諸国とともに検討し、採択することを求める」と明記した。
昨年のサミットでは2050年半減目標を「真剣に検討」することで合意。今回は長期目標の「共有」に格上げさせ、国連交渉の中で世界全体の目標として採用するよう主要国が求めていくことで一致した。焦点の長期目標について「真剣に検討」から「共有」に半歩前進させることができたが、明確な合意には踏み込めず、国連交渉で採用されない場合の危うさは残った。
この背景には、サミット前から明確だった50%削減に積極的な欧州と、中国やインドなど新興国の関与表明なしに50%削減を約束したくない米国との対立の構図がある。
ドイツのメルケル首相は、今回の合意が「大いなる進展」と述べる一方で、09年にコペンハーゲンで開かれる同条約の会合に間に合うよう数値目標の合意に向けて真剣に協議を重ねる必要があると指摘。本音では不満足であることをにじませた。
ブッシュ米大統領はサミット前に「私は現実主義者」と述べて、中国やインドなどが加わるかたちでの数値目標にこだわる姿勢をみせていたが、結果的に抽象的な表現での合意にとどまった。
G8の議論の行方を見守っていた南アフリカのファンスカルクビック環境相は8日、この合意について「声明を読めば進展があったかのようだ。しかし、気候変動問題への対処で意味のある貢献をなすために必要な努力から後退した可能性があり、われわれは懸念している」と指摘し、昨年のサミットから進展していないといらだちを表明した。
長期目標の実現を確実にするために求められていた中期目標設定について、宣言は初めて言及し「野心的な中期の国別総量目標を実施」として目標設定に踏み込んだ。
しかし、具体的な中期目標を明記することはできず、首脳宣言発表を受けて、環境団体からは責任回避との批判の声が上がっている。
環境団体WWFはG8が「依然として責任を回避していることを不満に感じている」と述べ、中期目標達成の公約が盛り込まれなかったことを批判した。別の環境団体も、先進国が国別中期目標で合意できず、「自らの責任を拒みながら、途上国に拘束力を伴う長期目標へのコミットメントを求めたとしても、地球的な協力を進めるために必要な信頼関係を築くことはできない」と厳しい評価をしている。
日本国内からも、環境問題の専門家から疑問の声が上がっている。京都大学大学院・経済学研究科教授(環境経済学)の植田和弘氏は、ロイターの取材に対し「地球温暖化防止を達成するというIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の基準に照らすと、不十分と言わざるを得ない。温暖化防止の観点からは、2050年までの50%削減を基本合意した上で、中期目標について何らかの目標値が出ることが必要だった」と批判した。
また、国連環境計画・特別顧問の末吉竹二郎氏は、ロイターの取材に答え、点数としては、なんとか及第点で70点ぐらいとしつつ、50%削減について「目標というビジョンと表現したのが気になる。目標にすると明らかにゴールとなり、それを目指せとなる。あくまでビジョンだとの、逃げを打った印象を受ける」と語った。
同条約のイボ・デ・ボーア事務局長も、首脳宣言にはポジティブな要素がみられるが、中期の数値目標を含んでいないことについては重大な欠陥との認識を示した。
地球温暖化対策をめぐる交渉の舞台は、2009年末までの国連気候変動枠組条約の交渉プロセスに移るが、メルケル首相が指摘したように、そこまでに具体的に合意する必要があり、今回のサミットでは、事実上、詰めた合意ができず、来年末まで宿題を残した。サミット合意の過程で露呈した主要排出国の利害対立が続けば、来年のイタリアでのサミットでは、さらにG8の対立が鮮明になるリスクも残る。その意味で来年1月に就任する米国の新大統領の環境問題に対する姿勢が、今後の進展に大きな影響を与えそうだ。(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子記者;編集 田巻 一彦)
社説:北海道・洞爺湖サミット 先進国の削減責任が不明確だ
[毎日新聞 2008年7月9日 東京朝刊]これはどの程度の前進といえるのか。北海道洞爺湖町で開催中のサミット(主要国首脳会議)で、G8(主要8カ国)が「環境・気候変動」の首脳宣言をまとめ公表した。
焦点だった温室効果ガス削減の長期目標は、一読しただけでは昨年からの進展の度合いが判別できず、あいまいさの残る内容だ。
今回、温暖化対策でG8に最低限の合意として求められていたのは、昨年の独ハイリゲンダム・サミットの合意を前進させることだった。つまり、「世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに少なくとも半減させる」という長期目標に合意することだ。
この目標に対し、米国のブッシュ大統領は、中国、インドなど主要経済国を抜きにしたG8だけの合意に否定的で、昨年より合意が後退するのではないかとの懸念もあった。
首脳宣言は、「50年までに世界の排出量を少なくとも半減させるという目標についてのビジョンを、国連気候変動枠組み条約の締約国と共有し、採択することを求める」という内容だ。その際に「すべての主要経済国の貢献が必要」との見解を示している。
「50年に半減」という数値を残し、かつ、米国が合意に加わったという点では、最悪の事態は免れた。
しかし、文書の上でG8自身が「50年に半減」に合意したとは書かれていない。先進国自らが、どこまで自分たちの責任を果たそうとしているかも具体的に表明されていない。むしろ、主要経済国全体の参加が前提となっている。
途上国の参加を促すためにも、先進国には世界全体の目標を超える削減が求められている。それを思うと、長期目標の合意に、京都議定書以降(ポスト京都)の削減を後押しするだけのインパクトがあるかどうか、首をかしげざるをえない。
中期目標については、G8が野心的な国別総量目標を設定することが合意された。米国が設定に否定的だったことを考えると、この部分は前進である。しかし、ポスト京都の枠組みの中で法的拘束力を持たせた目標とするのかどうかは明確にされていない。中期目標の具体的数値も示されず、ここでも先進国の覚悟はみえにくい。
ただ、G8が指摘するように、地球温暖化を食い止めるには、先進国だけの努力では不十分であることは事実だ。途上国を含め、すべての主要経済国が排出削減に取り組むことが必要であることは論をまたない。
9日の主要経済国会合(MEM)では、長期目標や中期目標などについて、G8の合意をさらに一歩進める必要がある。日本には、先進国としての責任ある目標を示し、議論をリードすることが求められる。
社説:G8合意、50年50%排出削減の微妙さ
[日経新聞 2008/7/9]2050年までに温暖化ガスの排出を、世界全体で少なくとも半減させる。昨年の独ハイリゲンダム・サミットでは真剣な検討にとどまったこの長期目標を、今回の洞爺湖サミットで主要8カ国(G8)首脳は、世界共通の展望として、国連気候変動枠組み条約の数値目標として採択するよう求めた。
議論をリードした議長の福田康夫首相は、「低炭素社会をめざす地球規模の国際共同行動の一歩」と、洞爺湖での前進を強調した。ただし、この長期目標はG8の合意ではなく、G8が世界に求める課題という文脈で書かれている。排出が急増している中国やインドなどに削減の枠組みへの参加を求める米国のブッシュ政権に配慮したものといえる。
長期目標の設定に難色を示していた米国を巻き込んで、文書化にこぎ着けただけでも上出来というのが、首相の言い分だろう。しかし、40年も先の、法的拘束力のない長期目標の再確認を、前進と呼べるほど、温暖化を巡る状況は甘くない。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が世界の政策決定者に求めている科学的な要求水準は、2020年までに先進国の25-40%の排出削減や、今後10年から15年以内に、世界の排出量を減少に転じる早期のピークアウトである。
今回のG8会合でも、温暖化対策の基本はIPCCの科学的予測にあると確認している。それなのに、20年をめどにした中期目標については、「野心的な国別総量目標」と、抽象的にしか示されていない。
サミット最終日のきょう、中印など新興国も参加する主要経済国会議が開かれる。先進国に意欲的な中期目標の設定を求める新興国が、具体性のないG8の結論にどう反応するか。温暖化をめぐる国際交渉では、ここが最大の焦点となる。
日本が提案していた目標設定のために分野ごとの削減可能量を積み上げる「積み上げ型セクターアプローチ」という言葉は、今回の宣言にはない。代わって、目標を達成する手段としてのセクターアプローチは有効と表現されている。削減目標はトップダウンで決め、達成はボトムアップでという原則に戻ったわけだ。
20年までに20%ないし30%削減という意欲的な中期目標を掲げるEUが今回、米国に譲歩したのは、来年12月決着に向けて議論が本格化している国連の温暖化交渉の勢いをそがないためといわれる。中継ぎとしてのサミットのあいまいな役割を、議長を務める福田首相は見事に演じ切ったのかもしれない。
新興5か国が政治宣言、先進国により大きなCO2削減求める
[2008年7月8日23時03分 読売新聞]北海道洞爺湖サミットに合わせて9日に開かれる主要排出国会議(MEM)に出席する中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコの新興5か国は8日、札幌市で首脳会合を開き、2050年までに先進国が温室効果ガスの排出量を1990年比で80?95%削減するよう求める政治宣言を発表した。
サミットの主要8か国が長期目標に関して8日に合意した内容には言及しなかったが、先進国により大きな負担を求めることで結束した形だ。
宣言文は気候変動問題について、「共通だが差異ある責任」の原則を堅持する方針を示したうえで、50年までの長期目標については「歴史的責任と負担能力」に基づいた応分の責任を負うべきだと主張した。
また、5か国は先進国からの資金や技術移転も促進すべきだとも主張している。
温室効果ガス削減目標、新興国と合意できずG8宣言の力不足示す
[ロイター 2008年 07月 9日 17:05 JST][北海道洞爺湖 9日 ロイター] 主要8カ国(G8)と中国やインドなどの新興国は、温室効果ガスの削減目標で合意できず、先進国と新興国の間の対立が容易に解決できないことを示す結果になった。
G8は国連での交渉に参加する全ての国と2050年までの50%削減で合意することを目指すとした首脳宣言を採択したが、その翌日に新興国から合意受け入れを拒否され、G8宣言自体の力不足も露呈したかたちだ。2009年末までに最終合意するというゴールが、洞爺湖からは展望できなかったようだ。
主要8カ国(G8)に中国やインドなど新興国を加えた主要排出国会合(MEM)は9日、エネルギー安全保障と気候変動に関する首脳宣言を発表した。参加16カ国で世界の温室効果ガス排出量の8割を占め、新興国と先進国の利害を調整する場として注目されている。
サミットとあわせて開催されたMEM首脳会合では、G8と過去に大量のガスを排出してきた先進国の責任を追及する途上国との溝は埋まらず、G8が8日に途上国に投げかけた「長期目標共有」に答えを出すことが出来なかった。
日本政府筋によると、会議ではG8以外でG8首脳宣言を支持したのは韓国・オーストラリア・インドネシアの3カ国のみ。「新興国の経済を阻害、妨げるものではない」とのG8の主張も空振りに終わった。
一方、MEMに出席する中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコの新興5カ国は8日、2050年までに先進国が温室効果ガスの排出量を1990年比で80-95%削減するよう求める政治宣言を発表。すべての先進国に対し、2020年までに1990年対比で排出量を25-40%削減する中期目標にコミットするよう呼び掛けるとともに、新興国の気候変動対策を支援するため、国内総生産(GDP)の0.5%を拠出するよう要請した。
きょうの会合ではこうした新興5カ国の政治提言について議論はなかったが、サミットで最大のテーマだった地球温暖化対策は深い溝を残したまま新たな段階に入る。
今後、温暖化をめぐる交渉の主戦場は国連の気候変動枠組み条約締約国会議に移り、2009年末までのポスト京都の枠組み合意を目指す。MEMも「引き続き建設的に協力する」ことで一致し、2009年にイタリアで開催される主要国首脳会議とあわせて第2回目のMEM首脳会合の開催を決めた。
地球温暖化対策は、今回のサミットで長期目標設定に消極的だった米国を取り込む形で一定の前進はみられたが、新興国と先進国間での仕切り直しの格好。(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子)